低コストのスペースプレーン、実現の鍵はそり型発射システム
(CNN)1990年代、米航空宇宙局(NASA)は、費用がかさむロケットのコスト効率の高い代替機として、試験的なスペースプレーンを設計した。
「X−33」と呼ばれるこの機体は、単段式宇宙輸送機(SSTO)と呼ばれるコンセプトを基礎としている。従来の宇宙飛行では、宇宙船の重量を減らすために上昇中、エンジンと燃料を積んだロケットを機体から切り離し、落下させていたが、SSTOでは、この段階を排除し、代わりに完全に再利用可能な単独の宇宙船を採用している。
X−33は、ペイロードを軌道まで運ぶコストをペイロード1ポンド(約450グラム)あたり1万ドルから1000ドルに下げるため、打ち上げ時はロケットのように垂直に打ち上げられるが、着陸時は飛行機のように滑走路に着陸するように設計されていた。
しかし、X−33の開発計画は、技術的な問題により、2001年に中止された。
X−33計画のプログラムマネージャーを務めた、航空宇宙エンジニアで元米空軍の宇宙飛行士のリビングストン・ホルダー氏は、SSTOの夢を復活させるため、2016年にシアトルでラディアン・エアロスペースを共同設立し、現在は同社の最高技術責任者(CTO)を務めている。
「X33以降、状況が劇的に変化した。当時よりも軽く、丈夫で、より大きな温度変化に耐えられる複合材料が手に入るようになった。推進剤の燃焼効率やシステムの重量の観点から見て、推進力はかつてなく高い水準にある」(ホルダー氏)
こうした最新技術のたまものが新型スペースプレーン「ラディアン・ワン」だ。従来の垂直発射の代わりに、「ロケット推進式そり」という非常に独特な発射システムを採用している。
無駄の多い多段式米マサチューセッツ工科大学(MIT)の航空学、宇宙航行学の教授で、スペースシャトルのミッションに5回搭乗したNASAの元宇宙飛行士でもあるジェフリー・ホフマン氏は、ロケットが地球の重力を脱して、軌道に到達するには、時速約2万8000キロの速度に到達する必要があるとした上で、「問題は、上昇中にロケットやペイロードだけでなく、積んでいる燃料もいっしょに打ち上げなくてはならない点だ」と指摘する。
ホフマン氏によると、ロケットがこの速度に到達するには、質量の95%を燃料に割かなければならず、その結果、燃料以外のものを積むスペースはほとんどなくなるという。「単段式で軌道に到達するのは夢だ」とホフマン氏。「しかしそのためには、ロケットの構造やエンジン、ペイロードがシステム全体の総質量の約5%を超えてはならない。そんなロケットを作る方法は分かっていない」
このため、軌道到達に使用されるロケットはこれまで全て多段式だった。ただ、スペースXのファルコン9のような現在のロケットは2段式で、アポロの月探査ミッションで使われた3段式のサターンVのような従来のロケットに比べ段数が少ない。
ホフマン氏の言う「ロケット方程式の専制」、燃料の重量を宇宙まで運ばねばならないという問題を解決するのは簡単ではない。ラディアンが考案した解決策は、ロケット推進式のそりだ。このそりは、長さ2マイル(約3.2キロ)のレール上を滑走し、マッハ0.7(時速約864キロ)まで加速した後、そりの上からスペースプレーンが飛び立つ。その後、スペースプレーンは自らのエンジンの力で軌道まで飛行する。
SSTOを可能にする三つの技術ラディアンは、三つの重要な技術により、SSTO開発の前に立ちはだかるいくつもの障害を克服できると確信している。
一つ目の技術は、そり型発射システムだ。このシステムでは、そりに積まれている燃料が、そりに搭載されている3基のエンジンだけでなく、スペースプレーンのエンジンの動力源にもなっているため、スペースプレーンは離陸直前まで燃料タンクを満タンの状態に維持できる。
二つ目は着陸装置だ。この装置は、着陸のためだけに設計されているため、大幅な軽量化が可能だ。そして三つ目が翼だ。垂直ロケットには翼がないが、翼を付けることにより、軌道に向かって飛行する際に揚力が生じ、このそり型発射システムで必要とされる推力の量を減らすことができる。
ホルダー氏は、「軌道に到達したスペースプレーンに最も近いのはスペースシャトルだろう」と述べ、さらに次のように続けた。
「我々のスペースプレーンのベイ(貨物室)は(スペースシャトルよりも)小さいが、同種のミッションを数多く行うことができる。スペースプレーンの外面には、より丈夫な複合材を使用しているため、地球に帰還した後も、同じシステムを何度も再利用可能だ。また点検要件が少なく、ターンアラウンドタイムも短くて済む」
ラディアンによると、同社のスペースプレーンは最大100回の再利用が可能で、2〜5人の宇宙飛行士が搭乗する。ミッション間のターンアラウンドタイムは48時間としている。ホルダー氏によると、年内にスケールモデルの飛行試験を行い、2028年に実物大モデルの飛行試験(軌道には達しない)を開始するという。
ラディアン・ワンは、スペースシャトルと同様に、衛星などのペイロードを軌道に投入したり、貨物室に搭載した機器を使って、地球の監視・観測や防衛・軍事機関のための諜報(ちょうほう)活動といったミッションを行ったりすることも可能だ。
また、災害地域での人道支援でも役立つ可能性がある、とホルダー氏は指摘する。例えば、空港の滑走路が使用不能になった場合、制御された状態で大気圏に再突入し、貨物室からペイロードを投下することも可能だという。