黒木華がしんどくなったときに電話をかける「相手」

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時代劇から現代劇まで、どんな役に扮しても、観る者を「この役を演じたのが彼女でよかった」という気持ちにさせる黒木華さん。現在放映中のNHK大河ドラマ『光る君へ』では、藤原道長の妻・源倫子として、「可愛らしい、よいところのお嬢さん」が娘のことを心から思う芯の強い女性となっていく姿を好演。『イチケイノカラス』では恋愛とは無縁のキリっとした裁判官にしか見えないし、『小さなおうち』の家政婦役はもはや伝説。物語の中にごく自然に溶け込み、それでいて鮮烈な存在感を示す、日本の演劇界になくてはならない存在だ。

黒木さんの最新主演映画となるのは、草野翔吾監督作品の『アイミタガイ』。大切な親友を失い、その喪失感から恋人との関係にも前向きになれず、人生の途中で立ち止まってしまう主人公・梓を演じている。

タイトルの“アイミタガイ=相身互い”とは、「誰かを想ってしたことは巡り巡って見知らぬ誰かをも救い、やがて自分の元に返ってくる」という意味を持つ。さまざまな人の想いと縁がひとつにつながっていく様を丁寧に描いた、心がほっこりとあたたかくなる映画だ。

インタビュー前半では、役作りについて、心がしんどくなった時の対処法、そして黒木さんが経験した人との縁について聞いていく。

熱い思いでのオファーは俳優として嬉しい

映画『台風家族』の市井昌秀さんが脚本の骨組みを作り、『ツレがうつになりまして。』の故・佐々部清監督が書き上げた熱い企画を『彼女が好きなものは』やドラマ「こっち向いてよ向井くん」で知られる草野翔吾監督が形にした、まさに“つながり”を強く感じる『アイミタガイ』。黒木さんが本作のオファーを受けた理由、そして役作りの方法とは?

「オファーをいただいた時は、自分が過去にしたことがない役であるとか、この人と共演してみたいとか、そういう理由で決めることが多いです。今回の『アイミタガイ』については、草野監督が私とやりたいと言ってくださったのが大きかったですね。そんなふうに熱い思いでオファーしていただけるのは、俳優として嬉しいことですから。

梓はブライダルの仕事に就いているのですが、それが具体的にはどんな仕事なのかわからなかったので、まず資料をいただくことから役作りを始めました。

私の場合、役作りについては、まずいただいた台本を読んで『どういう人物なんだろう? ああ、彼女はこういうことを言うのか。○○だからこうなのかな?』という想像をたくさんします。で、いったんそれは全部、脇に置いておくんですね。

その後、現場で監督と話したり共演する方々と芝居をやってみたりしたうえで、『なるほど、こう感じるんだな』とあらためて作っていくことが多いです」

困った時やしんどくなった時は両親に電話を

『アイミタガイ』で親友・叶海は、梓が迷ったり悩んだりした際に背中を押してくれる存在として描かれている。黒木さんにとって、そういう存在は誰になるのだろう?

「困った時に相談したり、背中を押してくれたりする人……。私の場合は両親、特に母でしょうか。友人にも相談しますが、やっぱり両親ですね。困った時やしんどくなった時、つい連絡してしまいます。

連絡は、電話ですることが多いです。留守の時は『あ、忙しいんだな』と折り返しで電話がかかってくるのを待つのですが、その間にこちらの気持ちが晴れていたりするんですよね(笑)。

とはいえ父も母も私の仕事のことはわからないので、『お腹空いた〜』とか『ご飯食べた?』みたいに他愛のない話をするだけなのですが、それだけでホッとして、心が落ち着きます。

仕事の話は友達とします。女優さんの友達も多いので、飲みに行こうとかご飯食べに行こうとか。そもそも言葉ってすごく難しいじゃないですか。話すのと文面とでは、捉え方も大きく変わってきます。親しい友達相手ならスタンプを送っただけでわかってくれる部分もありますが、それでもやっぱりもっと話したいし、ちゃんと会いたい。

なのでコミュニケーションは、できるだけ直接とりたい派です。それが自分にとって大切な人ならなおさらです」

いろいろな方に助けていただいて今がある

映画『小さいおうち』で、第64回ベルリン国際映画祭最優秀女優賞(銀熊賞)を23歳で受賞。日本の俳優では史上4人目、日本人最年少での受賞という快挙だった。黒木さんが演じた女中・タキの清らかさ、哀しさに心を揺さぶられたのは、私たちだけではなかったのだ。

確かな演技力を持つ俳優として国際的にも評価されている黒木さんだが、今でも芝居に悩んだり行き詰まったりすることがあるという。

「仕事の悩み、もちろんあります。毎回120%の力でやってはいるものの、『もうちょっとできたんじゃないか』と反省させられることが多いです。

映像は特にそう思いますね。『全然できてないなあ』とか『ああ、もう見ていられないよ!』とか……。

それでもなんとか形になっているのは、本当に監督や共演者の皆さん、メイクさん、衣装さんをはじめとするスタッフの皆さんのおかげです。私ひとりでは、とてもじゃないですが今日までやってこられませんでした。いろいろな方に助けていただいて今があるとしみじみ思います」

出会うべくして出会う人との縁

劇中、風吹ジュンさん演じる梓の祖母の「誰からも何もしてもらわへん人って、おらんと思う」という言葉は、この映画の大きなテーマになっている。黒木さん自身も日頃、人の想いや縁を強く感じることがあるのだそう。

「ときどき『黒木さんの映画を観て、私も女優さんになりたいと思いました』とお手紙をいただくことがあります。そんなとき『自分は、こんな遠いところにいる方や会ったこともにない方たちにまで影響を与える仕事をしているんだな』とあらためて思います。それだけに責任を感じて怖くなることもあるのですが……。

縁ということで言いますと、以前、某俳優さんに『あの子と会ったらきっと仲良くなるよ』と言われ、その後、永井愛さん作・演出の舞台『書く女』で当人と共演して、本当に仲良くなったことがありました。清水葉月というんですけど。

不思議なことに、彼女も全然別のところで『葉月は黒木華とすごく仲良くなるか、全然合わないかどっちかだと思う』と言われていたのだそう。現在彼女とは、自宅に遊びに来る間柄になっています。

そんな経験をすると、人との出会いのタイミングや、出会うべくして出会う人との縁というのは確実にあるなぁと思いますね」

◇後編「黒木華が熱量をもって打ち込める唯一のこと」では、黒木さんが夢中になっていることについて、さらに深く聞いていく。

黒木華

1990年、大阪府出身。2010年、NODA・MAP 番外公演「表に出ろいっ! 」でデビュー。『小さいおうち』(14)で第64回ベルリン国際映画祭銀熊賞を日本人最年少で受賞。そのほか映画『リップヴァンウィンクルの花嫁』(16)『日日是好日』(18)『浅田家!』(20)『先生、私の隣に座っていただけませんか?』(21)『せかいのおきく』(23)『青春18×2 君へと続く道』(24)、ドラマ「凪のお暇」(TBS/19)「イチケイのカラス」(CX/21)「僕の姉ちゃん」(TX/22)大河ドラマ「光る君へ」(NHK/24)など幅広く数多くの作品に出演。映画『八犬伝』(24)の公開が控える。

黒木華が熱量をもって打ち込める唯一のこと