【独占インタビュー】齋藤元彦・前兵庫県知事に潜入ジャーナリストが斬り込んだ!前知事に問う「亀裂と分断の選挙戦」と「ネット陰謀論」への自覚と覚悟

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内部告発で失職した齋藤元彦・前兵庫県知事が、出直し知事選に出馬した。

4年前にトランプ信者の実像を潜入取材し、その成果を『「トランプ信者」潜入一年』として著したジャーナリストの横田増生氏が、10月25日、事務所開き前の「さいとう元彦 選挙事務所」で前知事と向き合った。

横田氏による独占インタビューを、発売中の「週刊現代」が報じている。「齋藤騒動」につづく出直し選挙は、はたしてどのような展開を見せるのか。「週刊現代」掲載のインタビューに一部加筆して全文を公開する。

齋藤知事に「自覚」はあるのか…?

事務所開きの前の建物には、「さいとう元彦 選挙事務所」と書かれた看板の上に、白いビニールが被さっていた。事務所内に入ると、選挙事務所につきものの為書も胡蝶蘭も見えず、折り畳みの事務机とパイプ椅子などがあるだけだった。

私が兵庫県知事選の告示日を過ぎてもこのインタビューを世に問わなければならないと考えたのは、今回の選挙には昨今の政治と選挙の在り方が凝縮されている、と思ったからだ。

ポピュリズムやネット戦略に加え、齋藤元彦氏を支持する人と、嫌悪する人に分かれ、互いに激しくぶつかり合う選挙戦は、兵庫県のみならず、社会全体に分断と亀裂を生じさせようとしている。

兵庫がここまで注目されるのは、阪神淡路大震災以来という社会現象を生み出している。今回の選挙で分断と亀裂の中軸となるだろう齋藤元彦氏は、果たして、その点にどこまで自覚的であるのか、と私は問わずにおれなかった。

ネットに広がる「陰謀論」

――批判一色だった世論の風向きが変わってくるのが、9月に入ってからの“涙の記者会見”と、その後の全会一致での不信任案の可決だった。

「記者会見で涙を流したのは、前回の選挙で応援してくれた自民党を含む会派からの辞任要求を受け、県民に申し訳ないといった思いが去来したからだ。全会一致の不信任案の可決については、民主主義においてはかなり稀なことだと考えている。個別の議員からは、私がやってきたことを評価してくれる声もあった。だが、党議拘束などもあり、86対0という不信任案の可決につながった」

――決議と相前後して、「齋藤さん、かわいそう」という声が聞こえてきたり、あるいは、SNS上に「#さいとうガンバレ」といった投稿が現れるようになる。そういった世論の変化を感じたことはあったのか。

「繰り返しになるが、民主主義において、全会一致というのはあまり例がないと考えている。失職後に駅立ちをして県民と話しているとき、お叱りを受けることもあれば、励ましの言葉をいただくこともある。けれども、100%賛成や100%反対ということは基本的にない。県民からも、全会一致の不信任案可決というのは民主主義としてどうなのか、という意見をいただくことがある」

――齋藤さんの擁護論の1つとして港湾利権 という言葉がネット上で頻繁に使われるようになる。

「県の港湾会計に10億円以上のプール金が溜まっているという事実がある。もとは税金が原資になったお金。それを県に戻してもらって他の政策に使うことは当然だ」

――しかし、齋藤さんが港湾利権にメスを入れたことが失職につながったというのは陰謀論ではないのか。告発文と港湾利権には何の関係もないからだ。

「確かに先の文書には港湾利権に関することは指摘されていなかった」

――「毎日新聞」が、港湾利権と齋藤さんの失職には関係がないというファクトチェックの記事を載せているのを知っているか。

「それは存じ上げていない」

「1人でも多くの県民に訴えたい」

――百条委員会などで齋藤さんを追及した複数の県議からは、齋藤さんの支持者が先鋭化していることを危惧する声が上がっている。ある県議の事務所には「死ね!」と言った電話が何度もかかってきている。別の県議 は、ネット上で粘着質な付きまといをされ個人情報もさらされてる、と語っている。

「それについては、ちょっと……。私の駅立ちやSNSのアカウントでは、温かくご支援をいただいている」

――今回の選挙戦では、東京都知事選で善戦した石丸伸二氏のようなSNSを駆使した戦いを目指すのか?

「もちろん、Xやインスタグラム、ユーチューブも使っていく。確かに、石丸さんの選挙戦はすごいと思うが、私はSNSよりも、駅立ちや辻立ちなどの街頭演説の中で、1人でも多くの県民に直接訴えていきたい」

――「週刊文春」の記事 には、齋藤さんが石丸伸二氏の選挙参謀を務めた藤川晋之助氏に助けを求めたという記述もあった。そこにはネット戦略を含めた選挙戦を展開しようという気持ちがあったのではないか。

「藤川さんに電話したのは事実だ。藤川さんに助言を求めてはどうかという知人がいたので、私から電話した。『機会があればぜひご指導をいただきたい』と伝えたが、具体的に契約をしたり、コンサルティング業務の委託をしたということはない。石丸さんのような選挙というより、私は自分1人からのスタートなので、愚直に、丁寧に3年間の実績を訴えていく」

立花孝志の「N国」との関係は?

――ネット には、クラウドソーシング企業のクラウドワークスが、齋藤さんなどの動画の作成を1本当たり1500円で募集しているという広告が残っている。

「私がそういう募集にかかわったことは一切ない。クラウドなんとか、という企業名さえも知らない。もちろん、私がお金を支払ったということもない。正直言って、何のことなのか、見当もつかない」

――告示日直前に、「NHKから国民を守る党」の党首である立花孝志氏が、兵庫県知事に立候補すると表明した。立花氏は「当選 は考えていない。齋藤氏にプラスになるような選挙運動をしていきたい」と語っている。

「県知事選挙にはいろんな人が出馬するが、私は自分ができる選挙活動をするだけだ」

――都知事選挙では、選挙ポスター枠を販売するなどして悪目立ちしたが、そういった人の支援は、本当にプラスになるのか。

「いろんな人がいろんな考えを持って選挙戦に挑んでいる。人は人。自分は自分だ」

――ネットの支持者には、マスコミを敵視する“マスゴミ論者”が少なくないようにみえるが、齋藤さん自身がマスコミと敵対することはほとんどなかったと理解している。2時間、3時間を超える記者会見に付き合っていた姿は印象的だ。その点は、アメリカの前大統領のトランプ氏や、橋下徹氏といった政治家と大きく違う。

「トランプさんや橋下さんのように、歯に衣着せずバシバシ言う人もいるが、私は仮想敵を作って分断を生んだり、誰かを強く非難すること自体が自分の性に合っていない。自分はそんなタイプではなく、目の前のことにしっかり取り組んでいく。その延長線上に、長時間にわたる記者会見があったと思っている」

勝算はあるのか?

――そうした政治姿勢は、大阪府で一緒に働いた松井一郎氏の影響も大きいと指摘する声もある。

「確かに松井さんが丁寧に記者会見に答えているのは参考にしている。それに加え、コロナ禍では、県民に県政の方針をしっかりと伝えなければならない、という思いが、知事時代の原点にあった」

――今回の選挙の勝算は?

「しっかり頑張って選挙戦での勝利につなげていきたい」

兵庫県知事選の投開票は11月17日に行われる。異例ずくめの選挙は、果たしてどのような結末を迎えるのか。

「週刊現代」2024年11月9日号より

【独占60分!】齋藤元彦・前兵庫県知事インタビュー「内部告発」と「県民局長の死」そして潜入ジャーナリストが問うた「ネット“分断”選挙」にいま思うこと