なぜ、薬の副作用が高齢になるほど重症化するのか。知れば知るほど多剤併用が怖くなる理由を明かそう

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今まで副作用など起きたことがない人でも、高齢になるにしたがって危険度が増します。

なぜそうなるかよく知ることで、医療とよりうまくつきあっていけるはずです。

残りの人生を楽しんで生きる高齢者が一人でも多くなってほしい、という目的で書かれたのが『医者にヨボヨボにされない47の心得 医療に賢くかかり、死ぬまで元気に生きる方法』です。

今回は本書から、なぜ薬で高齢者がヨボヨボになるか、高齢者の体のしくみからわかりやすく解説します。

年とともに薬の効き方が変わるから要注意

「今まで薬を飲んできたが、気になるような副作用は起きたことがない」と言う人でも、年齢とともに、副作用が現れることがあります。しかも、その副作用は、若い人に比べて高齢者では重症になりやすく、さまざまな臓器に及びやすいのが特徴です。

高血圧と診断された70代の女性は、なんと血圧の薬だけで5種類も処方されていました。同年代の友人から「私はそんなに多く飲んでいない」と言われて不安になり、別の内科医にかかると「やっぱりこれは多すぎる」と言われたそうです。

なぜ、こんなに薬が増えてしまったのか。おそらく薬を出した医者が、高齢になるにつれ体がどう変化するかよく知らないことが原因ではないかと思われます。薬の効き方は、若い人と高齢者ではまるで違うからです。

薬の作用が予想できない事態に

薬が体内でどんな動きをするのか、少し説明しましょう。

薬は通常、服用すると胃や小腸から吸収され、血液によって全身を循環します。そして、目的の臓器に到達してはじめて、薬の効き目が現れます。効き目の長さは薬によって違いますが、時間の経過とともに肝臓などで薬が代謝・分解されたり、腎臓から排泄されたりして効き目が消えていきます。

しかし高齢になると、肝臓や腎臓の働きが低下するため、薬の代謝・分解が遅れて効き目が必要以上に長引いたり、薬の排泄が遅れて薬が体内に長く残ったりします。そのため薬がいつまでも体内にとどまり、効きすぎたり、副作用が起こりやすくなったりしてしまうのです。

薬には「半減期」があります。血液に吸収された薬の濃度がピークに達してから、半分に減少するまでの時間のことです。半減期が短い薬は、代謝と排泄のスピードが速いので、薬の効き目も短くなります。半減期が長い薬は、反対に代謝と排泄のスピードが遅いので、体の中で薬が作用する時間が長くなります。

前述のとおり高齢者の体は薬が体内にとどまりやすいため、半減期の一般的な基準が通用しにくくなります。

薬の半減期は、若い人の体を基準にして決められているので、若い人と同じ量の薬を高齢者が服用するだけで副作用は起こりやすくなります。しかも、高齢者は何種類もの薬を服用しています。それだけ薬害の危険性も高まるのは当然でしょう。

問題は高齢者の体をよく知る医者が少ない

高齢者では、薬の影響が長く残りやすいという特徴がある一方で、薬による効き目がはっきり出ないことがよくあります。高齢者の薬の効き方は、若い人より個人差が大きいのです。5種類の血圧の薬が処方されていた例は、おそらく、初めの薬でなかなか血圧が下がらず、次々と薬を加えていった結果なのでしょう。「基準値にすることが絶対」と考える医者で、ときどきこうした例が見られます。

問題は、高齢者のことをよく知る医者が身近に少ないということです。また、高齢者に適した薬の処方もあまり研究されていません。

日本では、15歳以下の「子ども」には、薬の量や種類を規定して、安全に薬を服用できるような配慮がされているのに、高齢者にはそうした配慮がまったくないのです。その結果、高齢者は薬の種類も量も多くなり、副作用でヨボヨボにされていく危険性が高まります。

続きは<予想外のアクシデントを起こす「薬剤性せん妄」。実はハイリスク薬を私たちは当たり前に使っていた>にて公開中。

予想外のアクシデントを起こす「薬剤性せん妄」。実はハイリスク薬を私たちは当たり前に使っていた