「東京のバックアップは大阪」で良いのか…「巨大地震」発生時に起こる「衝撃的な事態」

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シビアコンデションに「バックアップは大阪」でいいのか?

日本の経済を左右するのが、企業の南海トラフ巨大地震対策・BCP(事業継続計画)。前述したように、南海トラフ巨大地震で企業の主要産業や経済活動が停止してしまえば、世界へも波及する。被害を最小限にすることが、企業の社会的責任でもある。南海トラフ巨大地震では東京の被害は軽微で、事業活動に影響はなしと安心している企業。首都直下地震が発生し東京が被災したら、大阪のオフィスをバックアップオフィスとし、本社機能を一時的に大阪に移行しようと考えている企業も多い。

しかし、そこに落とし穴がある。首都直下地震だけであればそれでいいが、南海トラフ巨大地震が発生すれば、東京の社会機能に甚大被害が出る可能性がある。前述したように東京は津波や長周期地震動に見舞われるだけでなく、地震後の富士山噴火も過去に起きている。遠く離れた江戸でも昼間が夜のようになる降灰が続いたこともある。つまり、南海トラフ巨大地震で、東京と大阪が同時被災する危険性があるのだ。

大地震後に火山が噴火するケースは過去に何度もある。私も現地調査したフィリピン北部・ルソン島中部で発生したバギオ地震(M7.8)。この地震は1990年7月16日に発生し1621人が犠牲になっている。そのバギオ地震から約1年目の91年6月12日、バギオ市南西約100kmにあるピナツボ火山が大噴火を起こした。噴火と共に火砕流が発生。火山灰は約40km上空に吹き上がった。そして台風の大雨が降り積もった火山灰を巻き込み、大規模な火山泥流(ラハール)が発生。街が埋まり、流され、数千戸の家屋が損壊、死者・行方不明者870人、被害者約120万人という大規模災害となった。バギオ地震とピナツボ噴火との因果関係は科学的には明確にされていないが、バギオ地震の地殻変動がピナツボ噴火を誘発させたとする火山学者、地震学者も多い。ほかにも04年インドネシア・スマトラ島沖地震の4か月後、インドネシア西スマトラ州のタラン火山が噴火、その15か月後には西スマトラ州・ムラピ火山が噴火している。10年チリのマウレ地震(M8.8)の2か月後に約200km離れたチリ・チャイテン火山が噴火するなど、地震後の火山噴火は決してレアケースではなく、世界各地で発生している。

南海トラフ巨大地震と連動して富士山が大噴火する可能性もゼロではない。1707年、江戸時代の南海トラフ巨大地震発生の49日後に、富士山が大噴火を起こしている。南海トラフ巨大地震発生でも、東京は震度5強の揺れだけで終わらない可能性がある。揺れの後、長周期地震動、津波でダメージを受け、さらにその後の降灰被害によっては、発電所などのインフラ、交通機関、通信機能などが深刻な障害を起こす可能性がある。それによって長期間にわたり社会機能が混乱状態に陥るかもしれない。噴火は1日や2日で終わらない。宝永の富士山噴火は約2か月で終わったが、貞観の富士山噴火(864年)の時は、終息まで約2年かかっている。しかし、国の被害想定に南海トラフ巨大地震と富士山噴火の連動というシビアコンデション(最悪事態)は組み込まれていない。大地震と富士山噴火はレアケースとしており、企業のBCPもそれに見習って作成されているが、本当にそれでいいのだろうか。

東日本大震災の福島第一原発事故も、非常用発電設備を浸水させ、全電源喪失を起こす大津波、というシビアコンデションを想定していなかった。その結果、とりかえしのつかない重大な原子力災害を引き起こしてしまった。一般人が大津波や複合災害を「想定外」というのは当然だが、最悪のリスクを洞察し対応すべき防災関係者が、想定外という言葉を使う資格はない。「想定外とは、想定できることを想定しなかったものの言い訳」にしか聞こえないからだ。

それに、バックアップオフィスと頼む大阪は、南海トラフ巨大地震で最大震度6強の揺れ、最大5mの津波、揺れ幅6m以上の長周期地震動、大規模な液状化で甚大被害の可能性大である。「東京と大阪が同時被災」したらどうするのか。その上、東京から大阪までは、最大震度7の震害、大津波、富士山噴火に襲われている地域になる。新幹線も東名高速も不通となり、広い地域で甚大被害が見込まれ、膨大な被災者が助けを待つ広域被災エリアである。

その上、南海トラフ沿いの大地震は一度で終わるとは限らない、最初の地震が半割れ地震で、その後また巨大地震が再度発生する可能性があると「判定会」が判断すれば、気象庁は臨時情報(巨大地震警戒)を発表する。そうなると、その危険区域は立ち入り禁止区域か避難指示発令地域になる可能性がある。南海トラフ巨大地震発生時、大阪から東京、東京から大阪への移動は極めて困難になる。仮に日本海側ルートで迂回するにしても、救援・救助隊を優先すべきルートを企業のキーパーソンが移動することそのものが、レピュテーションリスク(企業の評判・信頼低下)になりかねない。東京が被災したら大阪、大阪が被災したら東京という、安易なBCP戦略は事業継続に重大な支障をきたす。防災・危機管理のポイントは、想定リスクを過小評価せず、シビアコンデションを前提に、実践的対策が重要となる。そのためにも、東京と大阪だけでなく「第3のバックアップオフィス」が必要ではなかろうか。

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