日本株、活発化する「株主還元」に期待大の「プロ厳選・健全な財務体質企業5選」を実名紹介

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日本企業による株主還元が活発化している。東証上場企業による2024年4月以降の自社株取得枠の金額は史上初めて10兆円を超えた。さらに今2025.3期に増配を計画している企業数は全体の4割相当の約900社で、こちらも過去最高となる見通しだ。

こうした流れは3月期中間決算(2024年4月-9月)が終了すると、さらに勢いを増しそうだ。過去10年間のデータからは、自社株買いの発表額がもっとも多い月は本決算発表時期と重なる5月で、全体の約25%を占めている。次いで上期決算発表時期の11月、3Q決算時期となる2月が続く。つまり、中間決算を通過したタイミングからは株主還元策の発表が格段に増えるのだ。

株主還元を積極的に行う企業には、いくつかの特徴がある。まず、足元の業績が好調であること、そして内部留保(企業が保有する利益の蓄え)を潤沢に抱えた好財務体質を持つことだ。これらの企業は、安定したキャッシュフロー(事業活動から得られる現金の流れ)が期待できる収益基盤を持つことに加え、一時的に経営環境が厳しくなったとしても、株主還元を維持できる余裕もある。

これより本格化する2024年4月-9月期決算と併せて、多くの企業が新たな株主還元策を打ち出す期待は高まりつつある。すでに1Q(2024年4-6月)段階で経常利益の通期計画に対する進捗率が高い企業のうち健全な財務体質を持つ企業には、追加の株主還元を実施する期待感が高まってくるだろう。

上村工業(4966)

■株価(10月18日時点終値)10820円 1Q経常利益進捗率 38.7%

同社は金属やプラスチックなどの材料の表面に別の金属層をコーティングするメッキ薬品のエキスパート企業。メッキ薬品の製造は高度な技術と管理が必要なため、同様の効果を持つ薬品を同業他社が模倣することは極めて困難となる。同社はメッキ薬品の製造に関する特許や独自のレシピ(製造の配合方法)を持つことで、差別化と高い競争力を実現している。

浴液の管理、ろ過装置などの周辺分野の事業も強化していることも参入障壁を高めている。これらの独自体制を持つことは、高付加価値品の製造現場で同社に対する選好度と収益率の向上にもつながっている。

今後注目すべきは、半導体の高機能化やICパッケージ基板の大型化・多層化の進展だろう。電子部品をつなぐICパッケージ基板向けにおいて、同社の無電解銅メッキ薬品は約9割のシェアを占めているが、2024年度以降は次世代先端品が本格化する期待がある。なお株主還元では、配当金200円以上の維持を中期経営計画のKPI(重要業績評価指標)に掲げていることも心強いかぎりだ。

日油(4403)

■株価(10月18日時点終値)10820円 1Q経常利益進捗率 36.4%

2026年3月期までの中期経営計画では、総還元性50%程度を目標水準に掲げているキャッシュリッチ企業だ。油脂化学と有機合成化学を組み合わせる複合技術を駆使することで、ニッチ市場向けでも高付加価値製品を提供できる点を強みとしている。こうした利益を新製品開発に再投資することで、バイオ医薬品市場や新規素材市場において存在感を強めてきた。

第1四半期(4-6月)の高進捗をリードしたのは化粧品向け界面活性剤だ。日本国内のインバウンド需要が回復する中で、高機能なスキンケア・ヘアケア製品向けの需要好調が続いている。また、顧客ブランド化粧品の設計・製造を受託するODM製品も生産能力の増強体制を整えていることも今後の期待材料となる。

バイオ医薬品市場の主力は医薬品原料ドラッグデリバリーシステム(DDS)だ。体内における薬物の効果を最大限に高め、副作用を最小限に抑える制御技術に用いられている。足元は短期的な在庫調整の影響を受けているが、抗体医薬などバイオ医薬品市場の拡大を背景に安定成長が期待できる。

スクウェア・エニックスHD(9684)

■株価(10月18日時点終値)10820円 1Q経常利益進捗率 38.2%

「ドラゴンクエスト」や「ファイナルファンタジー(FF)」の圧倒的なブランド力は、もはや説明不要だろう。1Q(4-6月)高進捗率の背景には、開発費の償却や広告宣伝費が剥落した一時的要因もあるが、2Q以降は「FF14」の拡張パッケージ投入による売上拡大や、PC版「FF16」やリメイク版「ドラゴンクエスト3」の投入が期待できる。

ゲーム開発体制を「量から質」へ見直したことで、今後は収益性の改善が期待できる点が注目される。多面的な収益源を持つ強みを活かしつつ、開発資産の圧縮を進めることで収益性を向上させる狙いだ。

中期経営計画では、2027.3期に「営業利益率15%、ROE(株主資本利益率)10%以上」の目標も掲げている。目標達成に向けて、最大1,000億円の戦略投資枠も設定している。直近5年間のPER(株価収益率)の推移は15倍から30倍の範囲で推移していることを踏まえれば、足元の20倍割れ水準には割安感が勝ろう。

ソシオネクス(6526)

■株価(10月18日時点終値)10820円 1Q経常利益進捗率 40%

生成AIの進化が世界を席巻する中、AI処理の効率化を図るためのカスタム半導体(SoC)の需要は急増している。SoC設計を担う同社は、2nmプロセスチップレット開発で台湾TSMCや米アームと提携するなど、最先端技術を積極的に取り入れている。

特に注力しているチップレットは、製造プロセスや用途の異なる小さなチップ「チップレット」をブロックのように組み合わせて1つのチップのように扱う技術だ。半導体設計の複雑化に対応し、性能向上に貢献できる重要な技術として期待は大きい。これまでの技術トレンドである微細化から、新しい差異化領域となる公算は大きいとみられている。

自動車、データセンター、産業機器など、幅広い分野の顧客に対してカスタムSoCを提供している顧客基盤も強みだ。短期的には、中国5Gネットワーク商談の売上減少による業績の足踏みも想定されるが、安定したフリーキャッシュフローを維持することは可能だろう。今後はさらなる株主還元の拡大が投資家の注目点となりそうだ。

美津濃(8022)

■株価(10月18日時点終値)10820円 1Q経常利益進捗率 36.1%

2025年3月期の業績見通しは、2期連続の最高益更新が期待されている。課題であった高い在庫水準の是正と値引きの抑制に目処がたったことで、第1四半期は粗利率を大幅に改善させている。第2四半期以降も収益性の改善トレンドが続く公算は大きく、段階的な値上げ効果も寄与しそうだ。

海外市場への注力も効果を発揮しつつある。国内市場では少子高齢化によりスポーツ用品の需要が低下するだが、海外ではランニングやゴルフなどのスポーツが根強い人気を誇っている。同社の成長ドライバーであるサッカースパイクの高付加価値品「モレリア」は、主戦場の欧米市場における認知度がまだ低く、今後の伸びしろ部分として注目される。

2027年度には海外売上高比率を50%程度へ引き上げたい方針を示すなか、足元はすでに40%程度まで高まりをみせており、前倒し達成も期待できそうなペースだ。配当性向の低さからは増配余地は大きいとみられ、株主還元のさらなる拡充も期待できる。海外展開の強化と株主還元の拡充が進めば、同業他社と比較して割安な株価指標の水準訂正が期待できるだろう。

日米の企業を比較すると、日本企業の株主還元を拡充する余地は依然として高い。「配当と自社株買いの合計額」が利益に占める「総還元性向」を比較すると、米S&P500種株価指数構成企業が80%を超えているのに対し、日本企業は約50%にすぎない。

2023年3月に東証が国内企業に対して資本効率の改善を要請して以来、企業はPBR(株価純資産倍率)やROE(株主資本利益率)の改善に取り組んできたものの、株主還元や資本効率のさらなる改善に取り組む余地は依然として大きいといえそうだ。

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