【平面から4次元が出現!】不思議な図形「クラインの壺」。3次元空間では作ることができない図形が「4次元空間」だったらできる!

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宇宙はどんな形をしているのか? その謎に迫るために取り入れられているのが「トポロジー:位相幾何学」と呼ばれる数学です。このトポロジーの中でも、超弦理論との関係から近年注目されている「結び目理論」や、宇宙空間を考えるうえで重要になる「高次元幾何学」を中心に、この不思議な世界を紹介する新刊『宇宙が見える数学』。その中から、この記事では本書のテーマである「高次元の幾何学」をもとに4次元の世界に進んでいきます!2次元図形の工作を考えていると「4次元」の世界が見えてくるんです!

*本記事は『宇宙が見える数学』(ブルーバックス)を再構成・再編集したものです。

宇宙空間は4次元の世界だ!

我々は宇宙空間の次元を3より大きいと見なして研究しています。そもそも「数学的に4次元空間を考えられる」のも、「自然界を記述するのに『たて・よこ・たかさ・時間』の4個要る」のも、大昔からまじめな科学者ならみんな知っていました。

アインシュタインが相対論発表したあたりから宇宙の研究のために、4次元以上を、それ以前よりも深く考える必要が生じました。ただ、アインシュタインが「宇宙は4次元だ」と初めて言ったわけではありません。

そこで、4次元、さらにはそれ以上の高次元を見るための準備を始めたいと思います。

不思議な図形「クラインの壺」

次の図形を考えましょう(図1左)。正方形ABCDを用意します。この正方形はまわりの辺だけでなく中身もあります。この正方形の4つの辺に図1左のように矢印を付けていきます。

この図形の、辺ABと辺DCを同一視します。このとき矢印の向きが合うように注意してください。辺DAと辺BCを同一視します。これも矢印の向きが合うようにします。これらの同一視をして新図形を自己接触しないように作ります。さて、どんな図形ができるでしょうか。

以前の記事で紹介したように「同一視」というのは、その点、その線分など決まったところでぴたっと貼り合わせることでした。「自己接触」というのは、その図形が自分自身ににふれていないことです。

以前の記事で「トーラス」という図形を作りました。トーラスとはアニュラスを引き延ばしてつなぎ合わせたドーナツの表面のような形でした。

さて、図1を見ると辺ABと辺DCの矢印は同じ方向を向いていますが、辺ADと辺BCの矢印は反対方向を向いています。

この工作は完成できるでしょうか? もし可能なら、どういうものができるのでしょうか?

できそうなところから、順番にやってみましょう。

まず、辺ABと辺DCを矢印の向きが合うように貼り合わせましょう。これは以前、トーラスを作ったときと同様にできます(図1右)。

続いて、辺ADと辺BCを矢印の向きが合うように貼り合わせなければなりません。

どうすればよいでしょうか。貼るときに正方形ABCDを引き延ばしたり曲げたりしてもかまいません。新図形は自己接触しないものとします。

なんだか無理そうです。

先に捻ってから、つないでみる……?

では、こうしたらどうでしょう。

さきに辺ADの矢印と辺BCの矢印を同じ向きに合わせた(半捻りした)メビウスの帯を作ります。当然、辺ABの矢印と辺DCの矢印は図2のような向きになります。

では、ここから辺ABと辺DCを矢印が同じになるように貼り合わせられるでしょうか?

これも無理そうです。

では、両方を同時に貼れば……そんなことを言われても、どうやったらいいのかわかりません。

この工作、3次元空間では無理なんです!

じつは、この工作は、我々の住んでいる空間、3次元空間ではできないことが知られています。

新図形(=できあがる図形)は、どうしても自己接触してしまいます。しかし、「4次元空間」の中では、新図形が自己接触しないように工作できます。できあがる図形を「クラインの壺」と呼びます。先に、クラインの壺の形をお見せしましょう。

クライン(1849-1925)は偉大な数学者の名前です。この図形を考案したので、その名を冠しています。

このクラインの壺は、このように考えることができます。

まず、「曲面」とは2次元空間(平面=たて・よこの自由度のある空間)を曲げたものです。曲面の次元は2次元ですが、それについて深く考えようとすると、上述のように4次元が自然に出てくるのです。

この図形の工作では、2次元の平面を曲げて、つなげる工作考えました。しかし、その工作をするためには、「4次元空間」が必要なのです。

クラインの壺と3次元空間

では前述の、この工作は3次元空間の中では自己接触なくできないが、4次元空間の中ではできる、とはどういうことでしょうか。

そのためにクラインの壺がどんな形をしているのか説明します。

もちろん、4次元空間の中の図形を空想します。想像してください。気合いを入れて、本気で空想しましょう。だんだんと見えてきます。コツさえつかめれば4次元空間を見ることはそれほど難しいことではありません。

なぜ、クラインの壺は4次元空間の中では自己接触なく実現できるのか、それを理解する準備をします。さきほどの条件を少し緩めて「少しなら自己接触をしていてもいい」としましょう。

3次元空間にはめこまれた「クラインの壺」の作り方

図4をご覧ください。

まずアニュラスを作ります。円柱の上の円周を内側にへこませていきます。

次に、下の円周をギュッと引き延ばします。伸ばした下の円周の先端を円柱の側面をくぐるようにして、内側にへこませた上の円周とつなぎ合わせます。

どうでしょう。たしかに一部は自己接触していますができました。

図4の完成形を大きく描いたものがさきほどの図3です。これは「3次元空間にはめこまれたクラインの壺」と呼ばれます。「はめこむ」というのは数学用語です。

この図形は側面(円を描いてあるところ)で自己接触しています。

クラインの壺を3次元空間にはめこむやり方はほかにもありますので、興味のある方は調べてください。また、本によっては図3をおおらかに「クラインの壺」と言います。ですが、自己接触しているので厳密には正しくありません。

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