キリンビバレッジの「午後の紅茶」が発売から38年も人気を得ている理由

写真拡大 (全2枚)

あのロングセラー商品はどのようにして生まれ、どのようにヒットをつづけてきたのか。その道のりをたどる「ロングセラー物語」。今回は、発売から38年となる、キリンビバレッジの「午後の紅茶」にスポットを当てる。現在のブランド担当者が商品の歴史と今を語る。

〔撮影:岡田康且〕

原英嗣さん はら・えいじ/'83年、兵庫県生まれ。早稲田大学人間科学部卒業後、'06年にキリンビール入社。営業、マーケティングを経て、'22年より午後の紅茶シニアブランドマネージャー。

初年度から大ヒット。さらに転機は2人のアイドルが

発売当時はちょうど大型のペットボトル飲料が拡大し始めた時期。新しい飲み物を模索していたとき、若手女性社員から紅茶のアイデアが出てきたと聞いています。

ところが、紅茶は冷ますと、クリームダウンと呼ばれる白い濁りが出てしまうんです。綺麗な液色にならない。

そこで試行錯誤の末、冷やしても濁らない技術「クリアアイスティー製法」を開発。ようやく世に送り出したのが、'86年でした。

実は初年度の通算目標は10万ケースだったんですが、1ヵ月で約5万ケースを売り切ってしまいました。

紅茶は当時、一般的には手淹れが主流。しかも、手淹れは毎回、味が変わってしまったりして、案外難しい。おいしい紅茶が手軽に飲めることが、爆発的なヒットにつながったのだと思います。

ただ、大きなターニングポイントになったのは、'96年の500ℓのペットボトルの発売でした。それまではファミリー向けの1・5ℓのペットボトルと缶入りしかありませんでしたが、持ち歩けるサイズの商品が出て、大ヒットするんです。

このときのCMキャラクターが小泉今日子さん。長く飲んでいただいているお客さまに聞くと、小泉さんの印象が強く残っている方が多いですね。'97年には飛躍的な伸びを見せることになります。

ところが、その後、清涼飲料市場で無糖ブームが到来。お茶やミネラルウォーターなどの市場が拡大し、甘さのある紅茶は苦しい時期を迎えます。一時は販売数がピーク時の半分近くまで落ち込みました。

市場のトレンドが変わっていくとき、どこまで追いかけるのか、はとても難しい判断です。このときも、甘さを求めて「午後の紅茶」を選んでくださる方も多かったですから、簡単にトレンドに振り切れませんでした。

転機は、'06年からの新しいキャンペーンでした。本来の紅茶の良さに立ち戻ろうと、紅茶を飲むときの気分の上がりをコミュニケーション含めて改めて変えていきました。この頃のCMキャラクターが、松浦亜弥さん。

ここでブランドに新しい風が吹き込むイメージを作り出すことができたんですね。30代、40代の方は松浦さんの印象が強いようです。

また、いろんなシーンで飲めることを打ち出し、次々に挑戦的な新ラインナップを出していったのも、このタイミング。紅茶をいつ飲めばいいのか、なかなかシーンが思い浮かばなかった。だから、提案をしていったんです。

フレーバーが異なるごとに、異なる茶葉を使用

そして大きなエポックになったのが、'11年の「おいしい無糖」の大ヒットでした。実は無糖はそれまでも出していたんですが、なかなかうまくいきませんでした。単に糖なしの紅茶では損した気分になる、と思われたこともあったようです。

「おいしい無糖」はネーミングがわかりやすかったのと、やはりシーンの提案が新しかったのだと思います。おにぎりと一緒に食べる、というコミュニケーションです。驚かれる一方、意外と合うことにも気づいていただいて、一気に広がっていった。

食事のとき以外でも、香りもいいし、1日を通してこれ1本でいける、と知ってもらえたんです。

さらに、新しい若い顧客も獲得できた。甘い飲み物から、ちょっと背伸びした甘くない大人の飲み物、という捉え方をしてもらえたんですね。こうして'19年には、5300万ケースという過去最高の出荷を記録することになります。1ケース24本ですから、10億本を超える本数です。

「午後の紅茶」のパッケージに描かれている女性は、イギリス人のアンナ・マリア・ラッセル。世界に知られるイギリスの習慣「アフタヌーンティー」を始めた人物だと伝わっています。彼女が描かれたのは「日本にも本場英国のアフタヌーンティー文化を根付かせたい」という開発者の思いからです。そして「午後の紅茶」というネーミングは、まさにそのアフタヌーンティーを直訳したもの、なんです。

ご支持いただけた背景には、当初からの味への徹底的なこだわりも大きかったと思います。まずは、こんな味を作りたい、という思いがあって、それに合った茶葉を選定していくんですね。それが、インド産でもなく、中国産でもなく、イギリス産でもなく、スリランカ産だった。特長がまったく違うんです。しかも'88年にミルクティー、'89年にレモンティーとフレーバーを広げていきますが、それぞれ違う茶葉を使っています。

スリランカもそうですが、茶葉は栽培されているエリアが起伏に富んでいて、高地で栽培された茶葉と低地で栽培された茶葉では、味が変わります。

ミルクティーは、低地で栽培され、コクがあり、まるみのある柔らかさが特徴の「キャンディ茶葉」を使用しています。渋みの元であるタンニンが少なく、クセのないまろやかな味わいがミルクティーに合うんです。

ストレートは、中〜高地で栽培され、バラのような華やかな香りと心地よい渋みが特徴の「ディンブラ茶葉」を使用。セイロン紅茶の女王とも言われる香りと渋みのバランス良い味わいは、ストレートティーにぴったりです。

レモンティーは、もぎたてのフルーツのような爽やかな香りが特徴の「ヌワラエリア茶葉」を使用しています。フルーティーで軽やかな味わいは柑橘と相性がよく、レモンティーによく合います。

冬に売れる「午後の紅茶」が夏にも売れるようになった

30年以上前、こうやって茶葉を使い分けていたと聞いたときには本当に驚きました。しかも、何%入れてブレンドすれば最も理想に近づけるかも、とことん追求している。今も微調整が行われていますが、スタンスは変わりません。

大きなリニューアルが3年に1度くらいの頻度で行われていますが、今年のリニューアルでも味は変わりました。

ストレートは後味の良さを強め、飲んだときの華やかさは高めながら、飲んだ後はちょっとすっきりするように。

レモンティはレモン感をもう少し感じていただけるような変更を。ミルクティーはミルクのコク感が求められるので、それをより感じていただけるように。

私たちがさまざまに情報収集をして、こうした方向性を出すと、開発チームから10種類ほどのサンプルが出てきます。それを飲んでフィードバックして、と繰り返していきます。そうやって、理想の味に近づけていきます。それにしても、味を開発するチームのすごさをいつも思います。

大学時代は、競走部に所属。大学2年から3年間、箱根で7区を走りました。飲む、食べるのが好きだったことが、入社動機でした。ビールの営業からマーケティングに異動し、「キリン のどごし〈生〉」「麒麟特製」「氷結®︎」などを担当。

「午後の紅茶」を担当することになったときはうれしかったですね。これほど多くの方に愛されているブランドは、なかなかないですから。

まず取り組んだのは、夏対策でした。もともと紅茶は冬によく売れていたんです。でも、アイスティーはよく飲まれますよね。そこで夏の紅茶のイメージを作っていくアイスティーキャンペーンを始めたんです。

氷を入れたグラスで飲む提案をしたり、ビーチで飲むシーンを想起してもらったり。社内でも当初は懐疑的でしたが、「夏に売れたら、すごくないですか」と粘って展開したら、大きく火がつきました。前年度比20%増になった月も。

まだまだポテンシャルは潜んでいると思っています。

ファミリーマートの「ファミチキ担当者」が明かした「誰もがやみつきになるヒミツ」