「安くておいしい給食は当たり前ではなくなった」東洋食品・荻久保専務が学校給食の現状と課題について講演

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東洋食品の荻久保瑞穂専務が10月10日、東京ビッグサイトで開かれた展示会フードシステムソリューションのセミナーに登壇し、給食会社から見た学校給食の現状と課題について講演した。人件費高騰が続く中、価格だけで給食会社を選ぶ入札方式の問題を指摘し、安全・安心な学校給食提供に適した給食会社の選定方法を提案した。

東洋食品は全国43都道府県の給食調理・提供に携わる学校給食専門の給食会社。1日あたりの調理食数は約142万食。約6人に1人の子どもたちに給食を提供している国内トップの会社だ。

荻久保専務は、最低賃金の急上昇に伴う人件費高騰と深刻な人手不足などにより、給食会社の経営環境が厳しい現状を詳しく説明した。2023年は、広島県のある給食会社が16億円の負債を抱えて突然倒産。全国数十ヶ所で学校給食が突然ストップしたことが波紋を呼んだ。帝国データバンクが2023年に実施した給食事業者の業績動向調査によると、給食会社374社のうち、34%が赤字になり、63%が業績悪化となったことに触れて、「これは、コストの上昇分を価格転嫁できなかったことが要因だ。コストが100円上がったとき、給食会社が価格転嫁できたのは、わずか27円。全産業平均の44円を大幅に下回っており、いかに価格転嫁が難しいかが分かる」と語った。

なぜ、学校給食調理・提供を担う給食会社は価格転嫁が難しいのか。

荻久保専務はその要因について「学校給食は飲食店のように企業の独自の判断で値上げをするのは難しく、また、公共事業は儲けてはいけないという昔からの雰囲気もあるからだ」と説明した。また、業績が悪化し、倒産する会社が今後も増えることを危惧して、「子どもたちの健康を支える学校給食を止めるわけにはいかない。しかし、契約金額が上がらなければ人材を確保するための賃上げもできない。つまり、低価格路線では、子どもたちの食の安全を保障できなくなっている。もはや安くておいしい給食は当たり前ではなくなっている」と語った。

また、経営難の理由の一つとして、自治体と給食会社で交わす契約のあり方や選定方法の問題も指摘した。給食委託会社の選定方法はいまだに入札方式が多いという。入札方式では給食の質は関係なく、安い価格を提示した会社が受注することになるため、人件費を計算するとどう考えても、最低賃金を下回るような受託事例が全国で見られるようだ。その結果、低賃金となり、人材を確保できず、運営が不安定になり、業績も悪化するという悪循環に陥る。

実際、ぎりぎりまで人材を確保できず、開始直前になって給食会社が契約を辞退した事例や、学校給食の調理経験がないため、調理の失敗を繰り返し、契約を解除された事例があり、中には給食が一ヶ月以上ストップした事例もあるという。

荻久保専務は「無理な運営、ぎりぎりの経営を続ける会社に大事な給食を任せられるだろうか」と問題を提起し、「給食の停止は子どもたちだけではなく、社会全体に幅広く影響する。学校給食に入札はそぐわない。安定的な提供のためには、価格だけではなく、提案内容で評価する『総合評価方式』や『プロポーザル方式』が適切だ」と提案した。

また、「これからのインフレの時代には、精神論やスローガンで事業を続けるのは限界だ。入札による安い給食はデフレの時代だから成り立っていたビジネスモデルだ。これからは価格ではなく、質で給食会社を選ぶ時代だ。当たり前の安全の裏には、食中毒や異物混入を防ぐ厳しいルールや仕組みがあり、さらにそれを実現する高度な人材とノウハウがある。給食の委託先を選ぶ際には、その会社がしっかりと人材に投資をして教育体系ができているのか、そして経営が安定し、長期的に事業を継続できる会社なのかを見極めることが大切だ」と呼びかけた。