[10.19 J1第34節 湘南 2-1 広島 レモンS]

 旧友でもある相手のキーマンと互角以上のマッチアップを繰り広げ、同点で迎えた後半アディショナルタイムには劇的な決勝ゴールをアシスト--。後半開始から左ウイングバックで途中出場した湘南ベルマーレMF畑大雅が、攻守にわたる大きな存在感でJ1残留に近づく勝ち点3を手繰り寄せた。

 畑は負傷からの復帰途上でベンチスタートとなった首位・広島戦、0-1で迎えた後半開始時からピッチに送り出された。対面には今季の広島を躍進に導いている立役者の一人で、前半に豪快なスーパーボレーで先制点を記録していたDF中野就斗。畑にとっては、小中学生時代にAZ86東京青梅で共にプレーした“幼馴染み”とのマッチアップだった。

 年齢は畑のほうが一つ下だが、出会ったのは小学生の頃。「小学校と中学校で一緒だったのでそんなに上下関係もないし、いじったりしていたので特に先輩とは思わずに接していました(笑)」。クラブチームの後輩としての気負いも、ましてや日本代表入りが期待される存在に対する畏敬の念もなく、「とにかくまず就斗にやられないことを第一に」という対等な気持ちでピッチに立った。

 前半は中野のサイドから深い位置に侵入される場面が多く、畑に託された役割は1対1で上回ること。畑はユーモアを交えながら出場時の心境を次のように振り返った。

「“シュート”も決められていたし、あっ、これは名前(就斗=しゅうと)とかけたわけじゃないんですけど(笑)。前半は結構、起点になられたシーンもあったので、あそこのところはもっと強く行こうという話を(山口智監督らコーチングスタッフに)されていた。前に出てこられないように強くプレッシャーにかけようと思っていました」

 チームメートだった当時は畑がFW、中野がDFという攻守の関係性だったが、J1で実現したのはウイングバック同士でのマッチアップ。試合中には「(中野が)『走んなよ』みたいに言ってきたんで、『俺もそれやんなかったら怒られるから』って(笑)」という旧友らしいやり取りもあったというが、畑の頭の中には中野の当時のプレースタイルも、プロ入り後の印象もインプットされていたという。

「そんなに就斗も速いほうじゃないし、一人でゴリゴリって来るタイプじゃないからそこは絶対に止められると思っていた」

「もっと昔はドリブル下手だったんですけど、試合を見ていると意外と“ヒュッと”抜いたりしてるんで、その一発のところは頭に入れて対応しました」

 そんな言葉どおり、畑がピッチに立ってからは序盤こそ押し込まれる流れになったものの、後半3分に同点として以降は締まったマッチアップを継続。「もっと走ってもいいんじゃないかと思っていたのでアクションのところを増やすこと、プレスのところでもっと潰しに行こうと意識していた」という先手を取る動きも光り、互角以上の対峙を繰り広げていた。

 その結果、1-1で迎えた後半34分に広島のDF荒木隼人が負傷交代し、中野がリベロに回るまでの間、両者ともに大きな決定機はなし。前半に中野が見せていた高いパフォーマンスを考えれば、「もっと長い時間やれればよかったけど楽しい時間を過ごせた」という畑が形勢を引き戻したと言える結果に終わった。

 さらに後半アディショナルタイム2分、畑はチームの結果を大きく動かす大仕事も成し遂げた。直前のプレーで中央寄りにポジションを取っていた中、FW福田翔生のスルーパスに抜け出してシュートを狙うと、惜しくもGK大迫敬介に阻まれたが、すぐにこぼれ球を拾って二次攻撃を開始。素早く中央にパスをつけ、MF田中聡の劇的な決勝ゴールをお膳立てした。

「逆まで走った流れで前に残っていたので、まずは球際のところでしっかり勝って、本当はシュートを決めたかったけど、当たってすぐリカバリーしたら聡がいい位置に入っていた」。そう振り返った畑は「あれはほぼ聡がよくやってくれたのでありがとうって感じ」と謙遜したが、脚力がモノを言う終盤の展開で持ち味を活かしたビッグプレーだった。

 こうして旧友との再会戦で、見事な大活躍を果たした畑。しかし、シーズンを通じた個人の実績では向こうが上回っていることもあり、現状のパフォーマンスに満足はしていないようだ。自身もかつては2019年のU-17W杯などで世界舞台を経験した身。A代表入りへ期待の声も上がっている中野の飛躍からは複雑な刺激を受けているという。

「やっぱり悔しいですね。近くでやってきた存在だし、僕はその(代表入りの声が上がる)立ち位置にいたいと思う。でもその上の代表にしっかり入るところでは、就斗より先に入れればなと思います。年末に帰ったらいつも会うので、それまでに僕がちょっとでも上にいられるように頑張りたいです」(畑)

 そのために残された試合数はあと4つ。3連勝で13位に浮上したチームにとっても、どれだけ早くJ1残留を決められるかが鍵となる。「いまはみんながノビノビと自信を持ってやれていると思うし、僕自身も非常に充実してプレーできている。そこは落とさず、もっとプレーの質や判断のところを上げていって、それこそまず代表の候補に名前が上がるくらいにやっていきたい」(畑)。見据える先は東京五輪世代の活動以来の”日の丸”。目標をさらに高く掲げ、個人としてもチームとしてもラストスパートをかけていくつもりだ。

(取材・文 竹内達也)