土地の所有権を移転させるだけで″1億円”の借金をチャラに?複雑怪奇な『地面師詐欺事件』の発端となった「不可解な取引」

写真拡大 (全3枚)

今Netflixで話題の「地面師」...地主一家全員の死も珍しくなかった終戦直後、土地所有者になりすまし土地を売る彼らは、書類が焼失し役人の数も圧倒的に足りない主要都市を舞台に暗躍し始めた。そして80年がたった今では、さらに洗練された手口で次々と犯行を重ね、警察組織や不動産業界を翻弄している。

そのNetflix「地面師たち」の主要な参考文献となったのが、ノンフィクション作家・森功氏の著書『地面師』だ。小説とは違う、すべて本当にあった話で構成されるノンフィクションだけに、その内容はリアルで緊張感に満ちている。

同書より、時にドラマより恐ろしい、本物の地面師たちの最新手口をお届けしよう。

『地面師』連載第31回

『夏場の《白骨死体》にも、警視庁「事件性はなし」...《地面師たちの暗躍》のウラで遺体となった資産家女性の身に起きたナゾ』より続く

計画に加わったある人物

地面師詐欺事件の主犯について、不動産業者の初村はこう指摘する。

「もともと、この一帯を地上げしようとしてうまくいかなかったとき、内田マイクが話に加わってきた、と聞きました。おそらく計画にかかわっているのでしょう。それともう一人、A社に話を持ち込んだのが、D社の部長の肩書を持っていた椙浦照明(仮名)です。D社は最終的にNTT都市開発にこの物件を売っている会社ですが、椙浦はA社に土地の所有権を移させるときすでに、出口戦略としてNTT都市開発に引き取らせる絵を描いていたフシがあります。

私は椙浦から直接話を聞きましたが、A社にはいっときここを所有させるだけのつもりで、NTT側はこのときすでに土地の地上げの費用として椙浦あてに12億円を用意していたといいます。つまり地面師グループが、それを分配しようとした。もとはといえばそのアイデアを出したのが内田であり、そこに乗ったのが椙浦ではないでしょうか」

もう少し、細かく見ていこう。初村が説明してくれた。

借金返済と見せかけの所有権移転

「椙浦から聞いた話では、この取引にかかわる前、もともとD社の椙浦はA社から借金をしていたといいます。金額は1億ほど。いわば借金を返すため、椙浦は高橋礼子さんの土地の所有権をA社に移し、そこで資金づくりをした。これが事件の始まり。このときになりすまし役を手配したのが秋葉紘子だと見られています」

土地は、大田区大森南のワンルームマンションに住んだことになっているニセ高橋礼子からA社に所有権が移る。なぜその所有権移転が1億円の借金返済になるのか。

「あくまで名義だけの所有権変更ですが、A社は所有者として土地を担保に金融機関から融資を受けられる。椙浦は融資金で自分自身の借金を返した。そのあとの金融機関への返済は椙浦がおこなうというわけです」

実際、登記簿によれば、新橋にある高橋礼子が所有してきた4階建ての建物の底地を担保にA社は15年4月28日、1億5000万円の融資枠で金融機関から相当の金を借り入れている。4月28日はA社に所有権が移ったその日である。

ちなみに登記簿からすると、それからひと月半のちの6月9日、A社の所有権が抹消されている。それは何を意味するのか。初村の解説はこうだ。

「つまりA社はここで一連の土地取引から切り離されて関係ないことになっているわけです。椙浦はA社への借金返済のために一時的にA社に所有権を移しただけでしょうから、A社は本当に何も知らないかもしれません」

実のところ6月9日、A社の所有権が抹消されたと同時に、融資枠1億5000万円の根抵当権も消えている。つまり借金返済が完了したということだ。

「取り調べ」はできても「摘発」はできない!?いまだ未摘発の『地面師詐欺事件』の犯人たちが使った「カラクリ」』へ続く

「取り調べ」はできても「摘発」はできない!? いまだ未摘発の『地面師詐欺事件』の犯人たちが使った「カラクリ」