どう言い繕っても、本気で疑惑を解明するつもりはないのではないか。県民の負託への裏切りと言うほかない。

 鹿児島県警の不祥事もみ消し疑惑に関し、県議会は調査特別委員会(百条委員会)の設置を求める決議案を、自民、公明両党などの反対多数で否決した。野党会派の県民連合が提案していた。

 県警を巡っては昨年から警官による性犯罪などが相次ぎ、隠蔽(いんぺい)疑惑が浮上している。メディアに内部告発して国家公務員法(守秘義務)違反の容疑で逮捕、起訴された前生活安全部長は、野川明輝本部長による隠蔽指示があったと主張している。

 県警は不祥事の原因分析の結果と再発防止策を8月に公表した際、本部長による隠蔽指示はなかったと結論付けた。特別監察を行った警察庁も同様の結論を出した。

 しかし疑惑は何ら解明されていない。県議会での県警の説明は、県民の納得を得られていない。会派に関係なく、県民から疑惑を徹底究明してほしいとの意見が寄せられているのはその証左だ。

 第三者による検証が欠かせない。地方自治法100条に基づき強い調査権限を持つ百条委は、それにふさわしい場であった。関係者の出頭や記録の提出を要求でき、虚偽証言には刑事罰が科せられる。

 自民県議団は設置反対の理由を「裁判と並行した調査は困難」と説明するが、ふに落ちない。裁判で審理されるのは、犯罪事実に関わる部分に限られるからだ。

 なぜ盗撮事件で本部長の指示を捜査中止と「誤解」したのか。ストーカー容疑事件で捜査が遅れ、防犯カメラ映像を消去したのはなぜか。別のストーカー容疑事案で、当初は事件化を望んだ被害女性が最終的に翻意した不自然な経緯はどうしたことか。

 県民が知りたいのはこうした疑惑の経緯であり、裁判と切り分けて調査できる。自民県議団の「設置自体に反対ではなく、現時点で設置しない」という決定は人ごとに過ぎる。県議会は行政機関のチェックという役割を放棄してはならない。

 隠蔽疑惑の大半が、女性への性加害であることは許されない。性暴力の軽視など人権意識が欠如していないか、百条委は司法が裁かない県警の体質にも切り込めるはずだ。

 自民県議団の背後で、地元選出の国会議員が動いていたことも見過ごせない。複数の県議が本紙取材に「設置の世論がこれ以上拡大する前に反対を決めるべきだ」などと求められたと語っている。

 警察庁も警察全体への信頼低下を招きかねない重大事と改めて自覚すべきだ。

 百条委設置は今後も困難だろう。国家公安委員会は、民間有識者らで構成したかつての警察刷新会議のような組織を立ち上げ、調査し直すべきではないか。

 真相究明を求める県民を置き去りにしてはならない。