菊池風磨

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 バラエティ番組に欠かせない名物企画「ドッキリ」。これまでさまざまな番組で名ドッキリが生まれてきたが、「芸能人が本気で考えた!ドッキリGP」(以後、「ドッキリGP」)が生んだ菊池風磨(timelesz)へのドッキリは、バラエティ史に新たな1ページを刻んだと言っても過言ではないだろう。同番組の企画・チーフプロデューサーを務める蜜谷浩弥氏に誕生の裏側を聞いた。【我妻弘崇/フリーライター】

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【写真を見る】もはや誰か分からない…アイドルとは思えない仕打ちに「許せない!」と菊池風磨が絶叫

事務所からの「まさかの返答」

 STARTO ENTERTAINMENT(旧ジャニーズ事務所)所属の現役アイドルが泥まみれになる――これだけなら珍しいことではないかもしれない。だが、その泥を落とすために入ったシャワー室で再びドッキリを仕掛けられると、生まれたままの姿で絶叫。さらには、着替えとして用意したパンツの股間部分に異常にスースーする液体を塗られて悶絶する。

菊池風磨

 人気アイドルがここまで体を張ること自体、常識破り。“見たことがない”画力に加え、仕掛けられた後に飛び出した「許せない!」の名言まで含めた、菊池風磨の卓越したバラエティスキル(エンターテイメントスキル)の爆発力たるや。そのインパクトは、裏番組として放送されていた「24時間テレビ」のコア視聴率(ファミリー層の個人視聴率)を瞬間的に抜き去り、X(当時Twitter)では、「ドッキリGP」が世界1位のトレンドワードとして急浮上したほどだ。

 同番組で企画・チーフプロデューサーを務める蜜谷浩弥氏が、画期的ドッキリの裏側を振り返る。

「当時は、若い視聴者層に番組の魅力を届けるにはどうしたらいいだろうと模索している最中でした。その中で、菊池君をレギュラーに加えたら面白そうだなという話になったのですが、ドッキリ番組ですから何か仕掛けないといけない。そこで、「秒でドッキリ」の担当ディレクターだった中川将史(現在の総合演出)とドッキリの企画を考えることになりました」(蜜谷氏、以下同)

 中川氏から提案された企画を見て、蜜谷氏はあ然としたという。“泥”“ハダカ”“スースー”の3段階で罠にかける――。「絶対に無理だろうと思いました」、そう笑って打ち明ける。

「とは言え、もしこのドッキリができるなら、ものすごいインパクトを残すことになるだろうと。そこで、普通を装ってしら〜っとSTARTO ENTERTAINMENTのチーフマネージャーさんに企画書を持っていきました。15分ほどだったかな、ジッと内容を吟味している。やっぱりダメですよね……なんて言葉を用意していました」

 息が詰まるような時間。返ってきた言葉は、「3つともやりましょう」だった。まさかの返答が、静寂を切り裂いた。

菊池風磨が「名フレーズ」を生み出せたワケ

「何度も確認しました(笑)。“本当に3つともいいんですか”って。今でも、この企画にGOサインを出してくれたSTARTO ENTERTAINMENTさんには感謝しかないです」

 収録当日、何も知らない菊池風磨は、“まさか”すぎる内容のドッキリ三連続を仕掛けられると目が点になった。まさに茫然自失。思わず「許せない!」と叫んだ。

「『スターが誕生した』とスタッフ全員が確信しました。それほどまでに菊池君はリアクション、コメント、すべてにおいてすごかった。後日、彼に会ったとき、どうしてあのとき『許せない!』という言葉が咄嗟に出てきたの?と聞いたんですね。すると、菊池君は『僕は男子校だったから、カッコイイだけでは生き残れなかった。面白さが求められるので、その経験がいきたんだと思います』と教えてくれました。さらには、バラエティ番組が大好きだとも話してくれた。彼の来歴やこれまでの生き方が、あの奇跡的な瞬間を生んだ。番組が求めていたピースが埋まった瞬間でした」

 この番組を機に、菊池風磨バラエティ番組へ出演機会は急増。ついには、特番ではあるものの初単独冠バラエティとなる「菊池風磨の許せないTV」までスタートした。ドッキリによって、その魅力が知れ渡った好例だろう。

ディレクターたちにおカネの話はしない

 蜜谷氏の言葉を借りれば、ドッキリは引っかかる側の人間性があらわになる。これは他番組でも変わらない。

 例えば、「水曜日のダウンタウン」(TBS系)で放送された「ドッキリの仕掛け人、モニタリング中にターゲットのエグい秘密知っちゃっても一旦は見て見ぬフリする説」。高野正成(きしたかの)が、楽屋泥棒を働く後輩芸人の姿を見て頭を下げ、涙を流す姿は、往年の松竹映画を見ているような情感があった。彼の人間的な引き出しが、一つのドッキリを名ドッキリにまで昇華させた。いつの時代も、どうしてドッキリから新しいスターが生まれるのか? それは、ターゲットとなる人物が歩んできた人生、本質が、ドッキリという舞台装置によってほとばしり、「ハネる」からだ。

 蜜谷氏は、「作っている僕たちが意地悪な存在に見えて、演者は愛されるような存在になる。それが僕たちの目指すところ」だと説明する。そのためには、「全力でどっきりを仕掛けるしかない。ですから、ドッキリを考えるスタッフのスイングが小さくならないようにしている」と続ける。

「一例を挙げると、ディレクターたちに予算の話はしません。今は時代が変わりましたが、僕が入社した当時は、“ディレクターにお金の話はしない”という文化がありました。『予算がこれだけしかない』と伝えてしまうと、その枠の中で考えてしまい、アイデアが尻つぼみになってしまう。予算の中でどうやりくりするかを考えるのは、僕たちプロデューサーの仕事ですから」

信頼関係がなければドッキリは面白くならない

『ドッキリGP』の名物企画である「逆バンジー」は、クレーンを数台使うことで地上から空中へと放り出す。スイングが小さければ、こんな“頭がちぎれた”アイデアは出てこない。全力で向き合うからこそ、菊池風磨、向井康二(Snow Man)、松田元太(Travis Japan)といったアイドルたちの新たな一面が開花する。

「演者との信頼関係がなければドッキリは面白くなりません。信頼関係があるからこそ、『これならきっと面白くなるだろう』とか『この仕掛け方だとバレるな』ということが僕らも分かる。それこそ菊池君は頭が切れるタイプだから、『見破ってやろう』くらいの気持ちで臨んでくる。それをかいくぐって、僕たちは仕掛けないといけない。実は、ドッキリってなかなか“エモい”バラエティでもあるんです(笑)」

 引っかかった演者の輝きが増し、愛される。そう受け取れるのは、その関係性を、きっと視聴者も感じ取っているからだろう。ドッキリは、仕掛ける側と仕掛けられる側が本気だからこそ、カタルシスが生まれるのだ。

我妻 弘崇(あづま ひろたか)
フリーライター。1980年生まれ。日本大学文理学部国文学科在学中に、東京NSC5期生として芸人活動を開始。約2年間の芸人活動ののち大学を中退し、いくつかの編集プロダクションを経てフリーライターに。現在は、雑誌・WEB媒体等で幅広い執筆活動を展開。著書に『お金のミライは僕たちが決める』『週末バックパッカー ビジネス力を鍛える弾丸海外旅行のすすめ』(ともに星海社)など。

デイリー新潮編集部