ニュウニュウ「20年のキャリアの中で最も特別な時間になる」 人生の感情と旅路を表現する『Lifetime』への思い

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2024年10月13日(日)・14日(月・祝)二日間、ピアニスト・ニュウニュウが浜離宮朝日ホールにて最新アルバム『Lifetime』を冠したリサイタルを行う。それぞれゲストにCocomi(フルート)と上野耕平(サックス)を迎え、全世界15名の作曲家によるポピュラーな曲目を演奏し、人生の機微や旅路を表現する。

最新アルバムを引っ提げてのツアーは、すでに日本を含め数か国で行われているが、アルバム全曲プログラムは今回が初めて。コンサートにかける思いをきいた。

ニュウニュウ

――2024年10月13日&14日のプログラムでは、曲目の多くを昨年2023年にリリースしたアルバム『Lifetime』から取り上げています。

今回の二日間の特別なリサイタルで、私のアルバム『Lifetime』の全曲を日本で初めて演奏することとなります。お客さまは、世界中の15人の作曲家による15曲の小品と、私のオリジナル作品《即興曲第2番「Miss」》を聴くことになります。このプログラムを通して、私たちの人生における16種類の異なる感情や旅路を表現したいと思います。

『Lifetime』の収録曲のほか、前作『Fate & Hope』に収録したベートーヴェンの「Fate」(運命)交響曲と私が作曲した《即興曲第1番「Hope」》も、『Lifetime』のコンセプトと関係していると思い、プログラムの最後に入れています。”Lifetime”(生涯)において、私たちは運命を予測、あるいはコントロールすることは不可能かもしれませんが、希望は常に私たちにより良い明日をもたらしてくれます。

――アルバム『Lifetime』の制作についても教えてください。

アルバム『Lifetime』のアイデアは、パンデミック中に人生におけるさまざまな感情や旅路を経験し、見たときに、インスピレーションを得て、それを音楽を通して表現したいと制作しました。

例えば、自作曲「Miss」は、幼い頃から私を気遣ってくれていた人生の先輩が突然亡くなったことを追悼して2021年に作曲したもので、今回のリサイタルが日本初演となります。この曲を通して、【SORROW】(哀れ)という感情を表現するだけでなく、人生に満ちる無常というか、聴いてくださった方が、今このときに愛する人をもっと大事にすることを願っています。

――プログラムには、1曲1曲に感情などを表わすタイトルがつけられています。

これらの副題は、中国で有名な四字熟語「喜怒哀楽」「生老病死」(編集注:仏教用語で、避けることのできないこの世での人間の4つ苦悩を表す)などからインスピレーションを得ました。最初にこのアイデアをユニバーサルミュージックのドイツ人A&Rと相談し始めたとき、これらの感情や旅路は全世界のバックグラウンドが異なる人々にとって同じものだと言っていました。『Lifetime』のコンセプトを表現するだけでなく、ポピュラーな楽曲を選びたかったので、約70曲の候補の中から選び始め、半年以上をかけて最終的に17曲に決定しました。

――バッハ=ジロティの《プレリュード》に、ニュウニュウさんは【AGING】とのテーマをつけていますね。”前奏曲”すなわち始まりのイメージを持つものとは、一見すると反対のようにも感じられますが。

私たちは、生まれたら人生の終わりに向かって始まりますよね。何か宿命的に感じられますが、それが現実です。

――曲を弾き進めることによって、一つの旅ができるのですね。曲目を見ていると、ロシア音楽が多く取り上げられています。ロシア音楽はお好きなのですか。

はい。特に、ラフマニノフは私の大好きな作曲家の1人です。彼の音楽は、ロマンティシズムに満ちあふれています。ここ数年、ラフマニノフとショパンの音楽に魅せられています。ベートーヴェンもそうですね。ロマンティックなメロディのある作品が好きです。私も作曲の際、メロディを大切にしています。

――ロマンティックと言えば、シューベルト=リストの《セレナーデ》も演奏します。ニュウニュウさんにとって、【PATHOS】(パトス)を表わす作品なのですね。

シューベルトのこの作品は、最も複雑な感情を含んでいます。彼が書いた最後の作品の一つですよね。パトスは単なる悲しさにとどまりません。シューベルトの作品には彼の短い人生のさまざまな思いや感慨が融合されているのです。

>自身で編曲も手掛けるニュウニュウ。アレンジで心掛けていることとは?

Rossini William Tell

――ニュウニュウさんも編曲を手掛けていますが、シューベルトのこの作品を編曲したリストは、数多くの作品を編曲しました。

リストは、私がめざす音楽家です。彼は200年前、多くの聴衆の喝采を浴びるスター・ピアニストになりました。私はステージの上で演奏するとき、リストのようなカリスマ性のある魅力的な演奏ができたらといつも思っています。

――このコンサートでは、ニュウニュウさんがアレンジした曲が多く演奏されます。アレンジの作業のとき、心がけていることがあったら教えてください。

編曲の際には、原曲の雰囲気をキープしながら、ピアノの豊かな音色を活かして新しい感覚を生み出すことが大切だと思います。だからこそ、私がオペラや歌曲をアレンジしたり、他の方がアレンジしたものを演奏する際には、もとのストーリーを調べたり、もとの歌詞を研究したりしています。そうすることで、ピアノ一台で演奏しても、オリジナル曲の持つ雰囲気をより表現できるように思うのです。

ピアノと他の楽器のデュオのために編曲するのもとても楽しいです。編曲したことない楽器のためにアレンジしているときは、まずその楽器の個性、音色、音域を研究するようにしていますし、各楽器独特の美しさのバランスが保てるように努めています。ピアノは、強いハーモニーの基盤を作ることができる数少ない楽器の1つなので、ピアノはハーモニーのサポートとして考えています。

――曲目の中には、オペラや歌曲など、ピアノ関係以外の音楽も含まれていますが、普段からよく聴いたり観たりされるのでしょうか。

『Lifetime』のコンセプトはとても大きくて広いので、選曲をピアノ曲だけにとどめたくないと思っていました。オペラや歌曲は、歌詞やタイトルがあるのでよりはっきりとしたストーリーや感情を伝えることができると思います。

実は、私の父は元テノール歌手なので、子どもの頃からオペラのDVDをたくさん買ってくれて、幼少からアニメを見るかのようにオペラを見始めていました。ピアノを演奏するときにも、「もっと歌うように演奏しなさい」と父に言われて育ってきたのです。

――オペラや歌曲にはテキストがありますが、ピアノなど器楽の演奏には言葉はありません。ニュウニュウさんにとって、ピアノはそこに言葉を発見していく営みのような存在ですね。

『Lifetime』の選曲の方法は、主観と客観の組み合わせです。

オペラや歌にはテキストがありますので、具体的で客観的です。例えば、グルックのオペラには、基本的に別れが描かれています。だから、そこから誰もが「別れ」を感じることができると思います。

それに対して、歌詞を持たない曲は、アーティストの主観が重要になります。今回のプログラムでは、【DEATH】(死)とつけた《ソング・フロム・ア・シークレット・ガーデン》は、よい例だと思います。人生の終わりは新たな始まりであるかもしれません。綺麗な音楽が流れる「シークレット・ガーデン」(秘密の花園)で再会できると、私は信じているのです。

Niu Niu, Cocomi - Løvland: Song from a Secret Garden (Arr. Niu Niu for Flute and Piano)

>(NEXT)各日、Cocomi(フルート/13日)、上野耕平(サックス/14日)がゲストで登場。共演への期待とは?

――その《ソング・フロム・ア・シークレット・ガーデン》を一緒に演奏されるCocomiさんとは、これまでにも何度か共演経験がありますね。

今年の5月末に、2公演を終えたばかりです。それは、Cocomiさんの香港デビューとなりました。

Cocomiさんの音楽は心から湧き出るものだと思いますし、音楽を通して表現したいアイデアもたくさんあります。この2年間のコラボレーションを通じて、より深く、息が合うようになりましたし、10月の公演は約半年ぶりの共演にはなりますが、すぐに呼吸を合わせられると思います。

Cocomi(C)Akinori Ito

――上野さんとは、今回は初共演だそうですね。

共演こそ初めてですが、上野さんの録音や、YouTubeにあげられている動画はたくさん見ました。上野さんの高度なテクニック、心を動かす演奏は、本当に素晴らしいと思います。また、上野さんはさまざまなスタイルの音楽を多くのアルバムでリリースし、コンサートも行っている、非常に経験豊富なミュージシャンだと思います。今回初めて共演できることがすごく嬉しいです。『Lifetime』の曲以外にも、特別なアンコールを演奏しようかと今相談していますので、楽しみにしていてください。

――上野さんと共演する「ラフマニノフのパガニーニの主題による狂詩曲」第18変奏は、ニュウニュウさんはご自身でアレンジしています。

私にとって、サックスは最もロマンティックな楽器のひとつで、その音色はロマンティックな感情を引き出すことができると思います。私自身、ケニー・Gの「Forever in Love」や「Going Home」を小さい頃から聴き育ちました。ラフマニノフの曲と「Butterfly Lovers」は、どちらも愛とロマンスに関係しているので、ピアノとサックスの組み合わせに最も適した選択だと思います。

上野耕平(C)YujiUeno

――ニュウニュウさん自身は、ピアノ以外の楽器を演奏した経験はありますか。

10歳から10年間バイオリンを練習していて、最近また練習し始めました。ピアノは打楽器とも言えるので、バイオリンを練習することで音楽のメロディ性をより深く理解できますし、表現力や想像力を広げ、より歌うような演奏ができるようになると思います。

――お二人との共演について、どんなことを期待していますか。

『Lifetime』のプログラム自体は、これまで他の国でも演奏してきましたが、ゲストを招いての公演は日本が初めてです。私がお二人と演奏できることをとても楽しみにしていますし、お二人の演奏がこれらの作品にさらに感動的になり、より思い出深いものにしてくれると信じています。

――この2日間のコンサートは、浜離宮朝日ホールで行われます。過去にもニュウニュウさんはこのホールで演奏しています。

浜離宮朝日ホールで演奏するのは、今年の3月に続いて3回目となります。雰囲気も響きも良く、この『Lifetime』のプログラムの没入感を生み出すのに非常に適していると思います。前回のコンサートでは、力強い演奏も柔らかい音色も、最もドラマチックなコントラストを引き出すことができましたので、今回の『Lifetime』の旅をお客さまと一緒に体験できることをとても楽しみにしています。

――このインタビューで、ニュウニュウさんはすべて日本語でお話してくださいました。いつから本格的に日本語の勉強を始めたのですか。

2年前から始めました。最初の半年は日本語能力試験のために勉強していました。その後は、日本の方とたくさんお喋りして、身につけていきました。

――ファンのみなさまへメッセージをお願いします。

日本での15年間のキャリアでも、この『Lifetime』のプログラムはおそらく最も特別なものだと思います。ジェットコースターに乗っているような刺激になると思います。みなさまと一緒に、思い出深い時間を過ごせることを楽しみにしています。

取材・文=道下京子