辻井伸行が壮絶かつ難易度の高い「ハンマークラヴィーア」に再び挑む ドイツ・グラモフォン・デビューアルバム、11/29(金)日本先行発売が決定
2024年4月、日本人ピアニストとしては初めて、世界最古のクラシックレーベル、ドイツ・グラモフォン(DG)との専属契約を発表したピアニスト、辻井伸行。今回、DGからのデビューアルバムとなる『ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ 第29番《ハンマークラヴィーア》、遥かなる恋人に』が、2024年11月29日(金)に全世界でデジタル配信されることが決定した。なお、国内盤CDも同タイミングで発売されることが決定。CDでの販売は世界に先駆け、日本先行発売となる。
DGでのキャリアのスタートとなる今作には、べートーヴェン作曲の「ピアノ・ソナタ 第29番《ハンマークラヴィーア》と、リスト編曲による連作歌曲集「遥かなる恋人に」が収録される。
「ハンマークラヴィーア」は、辻井が2009年のヴァン・クライバーン国際ピアノ・コンクールで優勝した際に披露した作品で、ベートーヴェンのピアノ・ソナタ全32曲中、技術的にも、頭を使う点でも、そしてその規模からしても演奏者にとって最も難しい作品の一つ。1817年から1818年の1年間で書かれ、ベートーヴェンが個人的な苦悩と創作の停滞期を迎えていた時期に誕生したが、完成とともに彼に新たな創作の活力をもたらした。
「ハンマークラヴィーア」というタイトルは、ベートーヴェンが「ピアノ」にあたるドイツ語を使いたかったことに由来する。ソナタを作曲中、ロンドンから、当時ウィーンで入手できたピアノよりも低音域を持つブロードウッド・ピアノがベートーヴェンに贈られた。この音域の広がりを取り入れるべく、ほぼすべての調号を使用して書かれたのが「ハンマークラヴィーア」だ。それは、ベートーヴェンと同時代の音楽家にとって、弾くことが非常に難解に思える曲だった。そして、「ハンマークラヴィーア」が初演されたのは、ベートーヴェンの死から約10年経った1836年にパリでフランツ・リストによって初演された。
全ての楽譜を暗譜して演奏する盲目の辻井にとって「ハンマークラヴィーア」は、すべてのピアニスト同様、弾きこなすのが実に難解な作品だった。辻井は「長尺な曲なので、集中力を維持するのが大変でした」と言う。「レコーディングの準備には多くの時間を費やしました。特に苦労したのは第3楽章です。音楽を自分のものにすることも含め、演奏すればするほどその深さを感じるようになりました。ベートーヴェンの境遇は、僕自身の経験と重なる部分があります。彼は聴力を失いながらも、このソナタのような素晴らしく、かつ難解な作品を残しました。だからこそ、私はベートーヴェンへの敬意を持って取り組んだのです」
そんな辻井の敬意に満ちたポジティブなアプローチは、コンサートなど生演奏を体験した観客の心を魅了してやまない。同様のことが、レコーディング・スタジオでもいえた。レコーディング二日目の終盤、辻井は翌朝の本収録に備えて「ハンマークラヴィーア」の長く、複雑な第3楽章の通し稽古を行った。さらにもう一度、プロデューサーの要望で、少し速いテンポで演奏。翌朝、レコーディングに臨んだ辻井の集中力は非常に高く、最初の演奏は、録音チームが感心する正確さと表現力、感情の深さに達していた。今回はそのヴァージョンがアルバムに収録される予定だ。
もう1曲は、リストが1816年にソロピアノのために編曲した連作歌曲集「遥かなる恋人に」。レコーディングに備え、辻井は6曲の詩を音楽同様、深く掘り下げた。「詩に心打たれたのです。この表現力豊かな歌曲集と《ハンマークラヴィーア》は良い相乗効果を生むに違いないと思ったのです」と辻井は語る。
最初の連作歌曲集として知られる「遥かなる恋人に」は、第1曲と第6曲で同じ調(変ホ長調)を用い、終止部で冒頭の主旋律を響かせることで、その循環的な性質が強調されている。派手な技巧を加えることなく、原曲のシンプルさと切望感をすべて備えたリストのヴァージョンは、辻井がこのアルバムに寄せた思慮深い解釈にも反映されている。
「Nobuは、コンサートの舞台に立つ時と同じ高い集中力と、ポジティブな心構えでセッションに臨みました」とドイツ・グラモフォン社長のクレメンス・トラウトマンは言う。「対照的なふたつの作品を、それにふさわしいかたちで演奏したいという彼の強い意志と熱意は、チーム全員に感銘を与えました。彼のすばらしい解釈を世界中のリスナーにお届けできることを嬉しく思います」
国内盤CDは、高音質MQA-UHQ仕様の通常盤に加え、辻井の最新映像を収録したDVDが封入された初回限定盤の2形態で日本先行発売される。全世界でのフィジカルリリースは2025年3月21日となる予定だ。