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明日は我が身かもしれない地球規模のロシアンルーレットは続きます。

ジョギング並みのスピードで迷走を続け、大量の雨を降らせた史上最強レベルの台風10号は、交通網を遮断するなど、各地で大きな爪跡を残しました。また、7月にフィリピンなどに大きな被害をもたらした台風3号は、遠く離れた山形と秋田の豪雨と洪水に間接的な影響を与えたようです。

気候の専門機関がイベント・アトリビューション分析(温暖化があった場合となかった場合を比較して、特定の気象現象に温暖化がどれくらい寄与していたかを分析する手法)を行なったところ、どちらの台風も温暖化の影響を受けていたことが判明しました。

温暖化で台風10号は起こりやすく、風は強くなっていた

8月末に発生後、異常に温かい海洋をエネルギー源に史上最強レベルまで発達、ジョギングくらいの速さで予想進路をあざ笑うかのように九州から四国を進み、死者8人と120人を超える負傷者を出した台風10号(サンサン)。

イギリスのインペリアル・カレッジ・ロンドンに所属する研究チームは、Imperial College Storm Model(IRIS)と呼ばれるコンピュータモデルを用いて、産業革命前の温暖化が起こっていない気候と、1.3度温暖化した現在の気候の両方で起こり得る台風の強さを比較したところ、人為的な温暖化によって台風10号の風速が7.5%強さを増し、同様の勢力を持つ台風の発生頻度が26%増加していたと発表しました。

具体的には、海面温度と気温、湿度のデータを用いてシミュレーションした結果、温暖化によって台風10号の最大風速が毎秒2.9m速くなっていたそうです。また、台風10号と同じくらい壊滅的な台風の発生頻度は、10年あたり約4.5回から5.7回に上昇していました。

科学的な言葉ではピンときにくいですが、温暖化していなければ、台風10号は発生していなかったかもしれません。もし発生していたとしても、もう少し勢力が弱くて、死者や負傷者も少なく、建物やインフラの被害も小さくすんだ可能性があります。

7月の秋田と山形の豪雨洪水は台風3号が間接的に影響

7月末に秋田と山形で3人の死者と約1300棟の浸水被害をもたらした、記録的な豪雨とそれに伴う洪水に、台風3号の影響があった可能性が指摘されています。

国際的な気候分析機関であるワールド・ウェザー・アトリビューションが行なったイベント・アトリビューション分析によると、フィリピンなどに甚大な被害をもたらした台風3号(ケーミー)もまた、人為的な温暖化の影響で降雨量と発生頻度が著しく増加していました。発生頻度は、温暖化していない場合よりも約30%、年に1回から2回増加していたとのこと。

また、日本の気象庁は、山形と秋田の記録的な豪雨は、東北地方に停滞した梅雨前線に加え、暖かく湿った空気が流れ込んだことが要因と発表しました。上空1500m付近では、台風接近時と同じくらいの水蒸気が観測されたそうです。

さらに、同庁異常気象分析検討会は、山形と秋田両県の豪雨への台風3号の影響について、以下のように報告しています。

西日本に張り出した太平洋高気圧と中国南部を北西進した台風第3号との間で北向きの水蒸気の流れが強まり、多量の水蒸気が北日本に停滞していた梅雨前線に向かって流れ込み、梅雨前線の活動が活発化した。

台風10号とは違い、台風3号は間接的に北日本の豪雨に影響を与えたことになります。しかし、こちらもまた、温暖化していない気候だったら発生していなかったかもしれませんし、発生していたとしても山形と秋田の豪雨洪水被害はもっと小さかった可能性があるといえます。

温暖化の影響で発生するかもしれない未来の気象災害と、それによって失われる命や物理的被害、人々の生活への壊滅的な影響を未然に防ぐために、早急な温暖化対策が必要です。夏に日本中を襲った熱波や豪雨、台風を思い起こすと、最大の防災対策は、温暖化対策かもしれませんね。

Source: Imperial College London, World Weather Attribution, 気象庁 (1, 2)

Reference: NHK