「桜の開花宣言」の北上に大異変…新聞記者たちが伝える「気候変動」の影響

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「本当に暑いですね。もはや亜熱帯です。日本の生態系も変わるんじゃないの?」

「9月なのに暑い…日本はいつから常夏の国になった?」

こんな言葉がSNSに溢れた2024年の夏。9月2日の気象庁の発表によると、2024年の日本は2023年に続き「最も暑い夏」となりました。地球温暖化は科学的なデータを見ても明らかです。深刻さを増していく地球温暖化による被害を食い止めるために国連は「1.5℃の約束」というキャンペーンを打ち出しました。これは「温暖化を2030年までに1.5度以内におさめようよ」というもの。しかしすでに夏だけを見ると1.76度高くなってしまっています。実際何が起きていて、私たちは何ができるのでしょうか。

そこで2023年に引き続き、メディアの気候変動報道を強化することを目的とした〈Media is Hope〉の取り組みに賛同した各メディア(東京新聞(中日新聞社)、朝日新聞、毎日新聞、読売新聞、日刊工業新聞)の記者の皆さんと座談会を実施。

3回目は、昨今の気候の変化によって実感した「社内や読者の反応の変化」などについてお伝えします。

座談会に参加したメンバー(アンケート回答順)

東京新聞(中日新聞社)・福岡範行さん、朝日新聞・香取啓介さん、毎日新聞・八田浩輔さん、日刊工業新聞社・松木喬さん、読売新聞・中根圭一さん、東京新聞(中日新聞社)・押川恵理子さん

オブザーバー/Media is Hope・名取由佳さん、西田吉蔵さん

司会/FRaUweb編集部

「なぜ暑さの記事を一面に載せないのか」

――2023年は過去最高気温の猛暑を記録しましたが、今年の夏はさらに過去最高を記録しました。こういった状況も受けて、社内や読者の反応に変化はあったのか、事前にみなさんに伺ったアンケートを拝見すると、「基本的にはそんなに変わっていない」というのが共通の認識のようですね。

そのなかでも、福岡さんからは「社内の変化は感じてないけれど、気象予報士のみなさんが気候変動の情報を伝えていこうと共同で宣言したことを伝えた記事の反響には手応えを感じた」とのお答えもいただいておりました。それは、会社以外の部分で変化を感じていらっしゃるということでしょうか?

東京新聞・福岡範行さん(以下、東京新聞・福岡)そうですね。大きな変化というほどではないかなと思ってるんですけれども、暑いっていうところで温暖化を連想して、こういう動きに反応してくれる方はじわじわとでも広がっているのかなというようには感じています。

――朝日新聞の香取さんはどうでしょうか?

朝日新聞・香取啓介さん(以下、朝日新聞・香取)私は社内もそうですし、読者の反応も割と高くなってきたように感じていて、最近で言うと「なんでこんなに暑いのに、暑さの記事を一面に載せないのか」みたいな反応もいただきました。また、全国各地の記者が積極的に書いていますが「どこでどんな魚が、野菜がとれなくなっているのか」ということなどに関しても「一度国内でまとめた方がいいんじゃないか?」「気候変動報道をやろう」といった意見が普段気候変動報道を担当していなかった部署から編集局全体の会議の場で出てきたりと、社内の意識も変わってきているように感じています。

毎日新聞・八田浩輔さん(以下、毎日新聞・八田)私が感じていることとしては、部活とかオリンピック、競技など、スポーツの観点から運動系の記者が気候変動に関わる記事を書くことがすごく増えたなと感じていて、いい傾向だなというふうに思っています。

読者の関心ごとをフックに気候変動を伝える

――ここまで、よく読まれていた記事や手応えを感じた記事、読者や社内からの反応などについて伺ってまいりましたが、そういった経験を経て、今記事作りで意識されていることはなんでしょうか?

東京新聞・福岡私は、機会があれば多くの読者が興味を持つテーマに気候変動を引きつけて書く努力はしていて、「いかに届けるか」と気にすることもとても増えています。たとえば東京新聞の読者でいうと、政治のあり方などに強い関心をお持ちの方も多くいらっしゃるので、「高校生が温暖化対策の国会審議に参考人として出席することができなかった」という出来事をフックに、「「高校生に受け答えできるの?」と議員が心配 17歳の国会発言は幻に終わった 「大人側の認識不足」影響か」という記事をまとめました。若者の政治参加のあり方が主なポイントですが、高校生の意見を少し深掘りして伝えることで気候変動にも関心を持ってもらえないかとか、読者の関心とうまくつなげる工夫をしようと心がけています。

▼「高校生に受け答えできるの?」と議員が心配 17歳の国会発言は幻に終わった 「大人側の認識不足」影響か

https://www.tokyo-np.co.jp/article/330567

――政治で若者の声を聞く、聞かないっていうのも、本当に気候変動だけでなくどんな問題にもつながることだなと私も感じました。あとは事前にアンケートでお答えいただいた「桜前線の記事」とかもそうですよね。

東京新聞・福岡はい。桜前線に関しては誰もが絶対に気になる話題だというのは分かっていたのですが、ただ「桜前線にも温暖化の影響が出ているよ」っていう話自体はもう散々色んなところで書かれていることではあったんですよね。だから「桜が咲かなくなるって知ってる? 高知で開花宣言、東京など続く 変わる「前線」、北上が過去のものに…」という記事では、どこを強調したら読者の皆さんがより読み進めたくなるのかな?と考えて、同僚にも協力してもらい、実際に図を出して、過去の前線と今の前線っぽくない開花予想の図を並べる形で紹介してみました。

▼桜が咲かなくなるって知ってる? 高知で開花宣言、東京など続く 変わる「前線」、北上が過去のものに…

https://www.tokyo-np.co.jp/article/315442

やはり、パッと見で分かるっていうのは紙面にしろWebにしろ伝える上で大事だなと思っているので、今後も一目でわかるものを大切にしていけたらと思っています。

日本と海外での「気候変動の情報ギャップ」を埋めたい

――毎日新聞の八田さんは、国際問題の担当というお立場もあり、まずは「日本語圏と外部との気候変動の情報ギャップをリアルタイムで埋める」ということを意識していらっしゃるとのことですが、より詳しく伺えますでしょうか?

毎日新聞・八田日本語圏と外部とでの気候変動の情報ギャップがずっと大きくて、いまだに全く埋まっていないですし、むしろどんどん広がる一方だと感じているので、それをなるべく時差なくリアルタイムで届けようと意識しています。

またもう1つ意識しているのは、新聞や弊社のニュースメディアだけでなく、他の媒体の方にもお声がけいただいたらなるべく断らず引き受けて記事を書くことです。たとえば新興経済メディアであるNEWS PICKSや小学生新聞、シニアにも読んでいただける『世界』などの媒体等々、世代も幅広くより多くの方に届けられるように、それぞれ異なるユーザーを意識してテーマや切り口や文体を変えたりしながら発信する努力をしています。

▼今月のポイント 根拠のない「エコ」は禁止 EU(毎日小学生新聞)

https://mainichi.jp/maisho/articles/20240227/kei/00s/00s/004000c

▼「トランプ氏にとっての関心事は地球の未来ではなく、バイデン政権の政策や実績を無効化することなのである。」(『世界』)

https://x.com/WEB_SEKAI/status/1769199575401926999

▼【超理解】COP28で、笑ったのは誰か(NEWS PICKS)

https://newspicks.com/news/9356631/body/

――私自身「FRaU SDGs edu こどもプレゼン・コンテスト」で子どもたちの作品を拝見すると、むしろ子供の方が危機感を抱いているのではと感じることもあるのですが、八田さんはどうお考えですか?

毎日新聞・八田今の子供の教育は本当にすごいなと思っていて。たとえば学校の授業で学んでいたりして、これは何番の問題だ、というふうにSDGsの番号と目標をそらんじて言えたりしますよね。自分の問題として捉えて素直に受け止めているなと感じるので、やはり海外の情報をなるべくバイアスかけずに日本の未来を担う子供たちにも届けたいと思ってやっています。実際にとても素直な反響もいただけているのでやりがいがあるなとも感じています。

「科学に忠実でいること」は大事、その上で「どこまで前面に出すか」

――企業に向けた記事を多く発信していらっしゃる日刊工業新聞社の松木さんはいかがでしょうか?

日刊工業新聞社・松木喬さん(以下、日刊工業新聞・松木)私はやはり「身近に思ってもらえるように」というところを意識していて、たとえば「IPCCが……」とか「1.5度目標が……」とかって言うと、どうしても遠い世界の話のように感じる人もいるのかなと思うので、なるべくそういった言葉は使わず、読者のニーズを意識して、温暖化で大変だっていう話やソリューションにつながる話として伝えられるように心がけています。

▼熱中症対策、企業人が社外に伝授… 「予防指導士」活躍中

https://newswitch.jp/p/42148

▼トラック・バス…商用EV、定額制に脚光のワケ

https://newswitch.jp/p/42214

▼温暖化対策をそっと後押し…「ナッジ」が示す効果

https://newswitch.jp/p/41825

――では、香取さんはいかがでしょうか?

朝日新聞・香取色々な人がこの分野に関心を持って、社内の他の媒体でも記事が出てくるようになっていて、「これからどうなるの?」とか「どんな影響があるの?」と私自身聞かれることも多いのですが、今起きていることは『何十年も前から気候学者の方々がずっと言っていたことが、程度の差はあれ起きている』ということで、我々にとっては予想されたことでもありますよね。それを易しく伝える、そして何度も繰り返し伝えていくことがやはり大事だなと感じています。

最近では社内の若い世代の人たちも関心を持ってきていて、「温暖化でデング熱は増えるんですか?」みたいな話題も上がったりして私も新鮮だったりするので、そういうことを手を変え、品を変え伝えていく必要があるかなと思っています。

また先ほど「IPCC」といったワードで伝えると引かれてしまうといったご意見もありましたが、根底として「科学に忠実でいること」は大事なことだと思うので、なんでも温暖化のせいにしていると思われないように必要な情報はしっかりと明記したうえで、脅威や影響を正しく認識し、対策や解決法のヒントを提示することを大切にしています。

また、根底に社会の不公正があることを認識し、散らばっている問題意識を持つ人同士をつなげられるような取り組みもできたらと思っています。

――根拠としてIPCCとかのデータだったり、そこで報じられているものを伝えることは必要だけれども、それをどれだけ前面に出すか出さないか、といった書き方の問題なのかなと思いました。そういった言葉を全く使わない、ということではなく「IPCCが……」というようなタイトルづけをしない、といった意識が必要なのかもしれませんね。

「身近な出来事・場所」を入り口にキャッチーに伝える

――では続いて、東京新聞の押川さんはいかがでしょうか?

東京新聞・押川今年の夏も記録的な暑さでした。私は8月の特集面で、東京都心の再開発とヒートアイランド対策を絡めた記事を出しました。

その上で、基本の対策は王道の「緑化」だと思うのですが、1回目の記事で毎日新聞・八田さんがおっしゃったように、ニューヨークは都市森林の取り組みをするにあたって「樹冠被覆率※」という指標で表したりもしていますが、東京都ではざっくり「緑率」と公園や水面を加えたものを出していて、「樹冠被覆率」といった細かい分類とかまでは伝えられていないので、今後はより具体的に出していく必要があると感じています。

▼「過熱する都心冷やそう 再開発でヒートアイランド深刻 湾岸部は「風の道」に期待」

https://www.tokyo-np.co.jp/article/348032

※樹冠被覆率:ある土地の面積に対して枝や葉が茂っている部分(樹冠)が占める割合を指す

また、最近江東区の河川で大量に魚が死んでいたという出来事があり、その原因は高温の日が続いたり、大雨によるものということなのですが、そういった身近なところから気候変動と絡めた記事を書けたら良いなと思っています。

――続いて、読売新聞の中根圭一さんはいかがでしょうか?

読売新聞・中根以前、7月25日の読売新聞夕刊で取り上げたのですが、麻布台ヒルズ、渋谷、原宿など、今東京都心で100年に一度といわれるような大規模開発が相次いでいて、そういった高層ビルや複合施設にも新たな緑地が作り出されているということを紹介しました。

今世界の機関投資家たちの間で生物多様性保全や気候変動を意識した投資が活発化しているという流れに乗るように、不動産会社が積極的に環境対策として、そういった施設や場所にも気候変動対策のために緑地を作っているという背景があるんです。

麻布台ヒルズなどは、首都圏に住んでいらっしゃる方だったら行ったことがあったり、これから行ってみたいなと考えているところでもあると思うのですが、このように実際の現場のあるところを入り口として、読者に読んでもらえるようキャッチーに伝えていけたらと考えています。

▼緑地増やす試み都心が舞台…大規模開発相次ぐなか住民らへ配慮(読売新聞オンライン)

https://www.yomiuri.co.jp/science/20240911-OYT1T50056/

◇「社内や読者の反応の変化」や「多くの人に読んでいただくために記事作りで意識していること」をお届けした記事に続き、ラスト4回目の記事では、ここまで取材してみて「もっと報じるべきだと感じたこと」や「今後気候変動について記事を書くうえで持つといい視点」そしてさらに気候変動で影響することを伝える。

〈Media is Hope〉とは?

気候変動の正しい知識や今の状況、どんな意識を持って過ごす必要があるのかを広く読者に知ってもらうために、各メディアがタッグを組み、メディアの気候変動報道を強化することを目的とした組織です。

構成/FRaU web 野澤縁

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