甘いものや炭水化物は魅力的だ。健康的に摂取する方法はあるのか。格闘家で産業医の池井佑丞さんは「糖質は脳や体を動かす力となるが、摂りすぎは急激な血糖値の上昇をもたらす。食べ物の種類や摂取するタイミングに気をつけたほうがいい」という――。
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■血糖値の変動が疲労感やイライラ感を引き起こす

疲れた時、元気を取り戻すために口にしたくなるものは何でしょうか。焼肉、アルコール、ニンニクたっぷりの餃子、それとも手軽にエネルギー補給できるチョコレートでしょうか。食べ物にはそれぞれ栄養素が含まれており、疲労回復に役立つとされています。一方で、摂りすぎは体にさまざまな不調をもたらすことがあります。

今回は、その一つである糖質について考えてみたいと思います。甘いものがやめられない、甘い飲み物が習慣になってしまっている、そんな方にはぜひ読んでいただきたいと思います。

糖質は穀類やイモ類、果物、砂糖に多く含まれ、摂取してから最も早くエネルギー源に変換される栄養素です。このエネルギーが脳や体を動かす力となりますが、摂りすぎは急激な血糖値の上昇をもたらします。また、食べ物の種類や摂取するタイミングによっては血糖値が急激に上昇し、インスリンが大量に分泌されます。インスリンが大量に分泌されると、今度は血糖値が急激に低下します。そして、体が低血糖になると、脳はそのエネルギー不足を補うために「糖分を摂取して血糖値を上げろ」と指令を出します。このような血糖値の変動は疲労感やイライラ感を引き起こし、再び糖質を摂取することでこれらの不快な感覚を和らげようとする悪循環を生み出します。

■「もっと欲しい」糖質依存になる仕組み

少人数で行われた実験の結果ではありますが、糖質(ブドウ糖摂取)による甘味の感知と血糖値上昇が合わさると、ストレスによる活気低下が抑制されたり、作業の正確性が維持されたりすることがわかっています。気分転換をしたい、ほっと一息つきたいと思った時に、糖質を欲することは自然なことと言えるでしょう。(農畜産業振興機構「糖や甘味が精神的ストレス応答に及ぼす影響」2014年6月)

また、糖質には脳の報酬系を刺激し、ドーパミンの分泌を促す働きがあります。ドーパミンは予測報酬誤差に基づいて行動をコントロールします。予想以上の報酬(=快感)が得られた場合、次はもっと多くの快感を得ようとして、その行動を繰り返す可能性が高くなります。例えば、体が求めている以上の高糖質食品(菓子パン、スナック、甘い飲み物)を頻繁に摂ることは、ドーパミンの分泌を促進し、もっと欲しい、もっと欲しいと糖質に依存するようになるのです。

このように、血糖値の変動と脳の報酬系の働きは糖質依存に深く関わっています。

■糖類の摂取量基準を設けている国もある

世界保健機関(World Health Organization: WHO)は2015年に、Free sugars(製造、調理、消費の過程において食品や飲料に添加される単糖類、二糖類を含む糖類およびハチミツ、シロップ、果汁、濃縮果汁にもともと含まれている糖類)の総エネルギー摂取量に占める割合を10%以下に減らすことを推奨しています。さらに、これを5%未満に抑えると、より健康につながる可能性があるとしています。

韓国や欧米など、糖類の摂取量基準を設けている国がありますが、日本では摂取量の把握が難しく、基準の設定はされていません。しかしながら、日本人における糖類摂取量を調べた研究によれば、その平均摂取量(男児・男性/女児・女性)は幼児(18〜35カ月)6.1/6.9%エネルギー、小児(3〜6歳)7.6/7.7%エネルギー、学童(8〜14歳)5.8/6.0%エネルギー、成人(20〜69歳)6.1/7.4%エネルギーであったと報告されており、欧米に比べて摂取量は少ないものの、過剰摂取に注意すべき状態であることが示唆されています。(Aya Fujiwara et. al “Estimation of Starch and Sugar Intake in a Japanese Population Based on a Newly Developed Food Composition Database” Nutrients. 2018 Oct10; 10(10): 1474)。

■食べすぎても太らない秘訣は糖質コントロール

糖質の過剰摂取を防ぐためには、血糖値をコントロールすることが大切です。糖質コントロール=血糖値コントロールです。まずは自分の食生活を見直しましょう。不規則な食事や炭水化物に偏った食事は血糖値の変動を大きくします。食事の際には、白米や食パンより玄米やライ麦パン、パスタやうどんよりそばといった低GI食品を選ぶことで、血糖値の急激な変動を防ぐことができます(GI=Glycemic index。ブドウ糖と比較して血糖値の上昇度合いを表す数値)。

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また、食物繊維を多く含む食べ物も糖分の消化に時間がかかるため、血糖値の上昇が緩やかだと言われています。さらに、食べる順番も大切です。最初に消化に時間がかかる野菜やきのこなどから食べ、次にたんぱく質や脂質、最後に糖質を多く含む炭水化物を食べることで、血糖値の上昇は緩やかになります。食事を抜くと血糖値は低下しますので、食べる時間帯にも注意が必要です。

当然、過剰に摂りすぎた糖分は脂肪として蓄積され、それが肥満の原因となります。『食べ放題ダイエット』にも書きましたが、食べても太らない秘訣は糖質コントロールにあります。糖質制限食は糖尿病治療にも用いられる方法の一つであり、体重減少の効果が期待されます。しかしながら、長期にわたる制限は、タンパク質や脂質の摂りすぎへと傾かせ、今度は老化や死亡のリスクを高めかねません。摂取量については、上限下限を意識できると良いでしょう。

■「砂糖の入った飲み物」は血糖値が上がりやすい

また、日本では間食として飲まれることが多い加糖飲料についても注意が必要です。加糖飲料は液体であるがゆえに胃から腸への移行が早く、咀嚼による満腹感を得られることもありません。にもかかわらず、糖質によるエネルギーがあり、血糖値を上げやすく、手軽に飲むことができます。

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先進国におけるBMI≧25の割合と個別の食品や飲料の消費量の相関解析を行った結果では、食材総重量0.244、肉類0.461、野菜類0.021、果実類0.345のところ、ソフトドリンク0.274、炭酸飲料0.625(g/人/日)と炭酸飲料の消費量は肥満者の割合と正の相関にあることが示されていました。さらに、そのほかの研究結果と合わせると、炭酸飲料のうち加糖飲料の寄与度が高いことが分かっています。(御堂直樹「日本に肥満者が少ないのは加糖飲料の摂取量が少ないためか?」日本調理科学会誌 Vol.44, No.1, 79〜84, 2011)

■心血管疾患のリスクが上昇する調査結果もある

糖類が多く含まれるジュースやコーラなどの加糖飲料を飲む習慣のある人は、全く飲まない人に比べて心筋梗塞などの心血管疾患のリスクが20%上昇するという調査結果や、果糖などが加えられた果汁飲料を毎日1杯以上飲んでいる人は心血管疾患リスクが42%高いといった報告もあります。(American Heart Association “California study finds drinking sugary drinks daily may be linked to higher risk of CVD in women” 2020年5月13日)食文化が欧米化されつつある今、甘味のあるコーヒーや紅茶、ジュースの飲みすぎには、ぜひ見直しが必要です。

糖質は美味しさや栄養、リラックス効果のあるものとして私たちの食生活には欠かせないエネルギー源ですが、糖質依存や摂りすぎは健康に悪影響を及ぼす可能性があります。糖質との上手な付き合い方を見つけ、より健やかな毎日をお過ごしください。

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池井 佑丞(いけい・ゆうすけ)
産業医
プロキックボクサー。リバランス代表。2008年、医師免許取得。内科、訪問診療に従事する傍らプロ格闘家として活動し、医師・プロキックボクサー・トレーナーの3つの立場から「健康」を見つめる。自己の目指すべきものは「病気を治す医療」ではなく、「病気にさせない医療」であると悟り、産業医の道へ進む。労働者の健康管理・企業の健康経営の経験を積み、大手企業の統括産業医のほか数社の産業医を歴任し、現在約1万名の健康を守る。2017年、「日本の不健康者をゼロにしたい」という思いの下、これまで蓄積したノウハウをサービス化し、「全ての企業に健康を提供する」ためリバランスを設立。
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(産業医 池井 佑丞)