赤身肉に含まれる「鉄分」が2型糖尿病のリスクを26%上昇させることが判明
スライスハムで2枚で糖尿病リスクが上昇するという研究結果が報告されたり、ジャンクフードが2型糖尿病を含む32種類の健康問題と関連していることが判明したりと、2型糖尿病のリスクにつながる食品としてよく加工肉が挙げられます。しかし、新しい研究により未加工の肉に豊富に含まれる鉄分と2型糖尿病との間に明らかな関連性があることが突き止められました。
Integration of epidemiological and blood biomarker analysis links haem iron intake to increased type 2 diabetes risk | Nature Metabolism
Heme iron and type 2 diabetes risk | News | Harvard T.H. Chan School of Public Health
https://www.hsph.harvard.edu/news/press-releases/significant-link-found-between-heme-iron-found-in-red-meat-and-other-animal-products-and-type-2-diabetes-risk/
Heme Iron From Meat Tied to Higher Diabetes Risk, Research Shows
https://www.verywellhealth.com/meat-type-2-diabetes-heme-iron-8699016
ハーバード公衆衛生大学院のFenglei Wang氏らの研究チームは、2024年8月13日付のNature Metabolismに掲載された論文の中で、動物性食品に含まれるヘム鉄と2型糖尿病との関連性を分析しました。
ヘム鉄とは、肉や魚などに含まれる吸収率が高い鉄分のことです。一方、野菜などに含まれている吸収率が低めの鉄分は非ヘム鉄と呼ばれています。
分析に使用されたデータには、看護師を対象とした健康調査の「Nurses' Health Studies I〜II」および、男性の医療従事者を対象とした「Health Professionals Follow-up Study」に参加した成人20万6615人の36年間分の食事報告と、参加者が摂取したさまざまな形態の鉄分(総鉄摂取量、ヘム鉄、非ヘム鉄、食事からの鉄分、サプリメントからの鉄分)の量に関する記録が含まれていました。
この分析の結果、ヘム鉄の摂取量の多さと2型糖尿病リスクとの間に有意な関連があることがわかりました。具体的には、ヘム鉄の摂取量が最も多いグループの人は、最も少ないグループの人に比べて2型糖尿病を発症するリスクが26%高かったとのこと。
その一方で、総鉄摂取量や非ヘム鉄の摂取量は、食事かサプリメントかにかかわらず2型糖尿病リスクとの間に有意な関連性はありませんでした。
研究チームは、「加工されていない赤身肉を食べることによって上昇した2型糖尿病リスク」の半分以上はヘム鉄で説明がつくことや、2型糖尿病に関連したいくつかの食事パターンで、ヘム鉄が発症リスクの「中程度」の割合を占めていたことを指摘しています。
これはつまり、ヘム鉄が2型糖尿病の原因のすべてではないにしろ、かなりの割合で2型糖尿病の発症に寄与していたことを意味しています。
一部の参加者からは食事記録だけでなく血液サンプルも採取され、3万7544人分の血中代謝バイオマーカーや、9024人分の代謝プロファイルが分析されました。これにより、ヘム鉄の摂取量が多いほど代謝疾患に関する値が高くなり、逆に健康に有益な指標の値は低くなることが判明しました。
この研究は、あくまで非ヘム鉄と2型糖尿病のリスクの相関関係を調べたものであるため、肉に含まれる鉄分が2型糖尿病を引き起こすメカニズムや因果関係まではわかりませんが、研究者らはいくつか仮説を提唱しています。例えば、過剰な鉄分、特にヘム鉄は体内の酸化を促進してしまうため、これが体組織の損傷や2型糖尿病の発症リスクの上昇を招いたおそれがあるとのこと。
また、非ヘム鉄の摂取量が多い人は地中海食や高血圧予防食(DASH食)をよく食べていたのに対し、ヘム鉄をよく摂取する人は超加工食品を含む西洋型の食事を食べがちな傾向があり、これが2型糖尿病のリスクにつながったとも考えられます。
つまり、ヘム鉄の摂取が直接2型糖尿病につながった可能性と、ヘム鉄を摂取しがちな食生活により間接的に生活習慣病が引き起こされた可能性、あるいはその両方が考えられるわけです。
赤身肉や加工肉の健康への影響が知られるようになるにつれて、植物由来の代替肉の人気が高まっていますが、代替肉には見た目や食味を改善させるためにヘム鉄が添加されることがよくあります。そのため、今回の研究結果は糖尿病を予防するための食事ガイドラインや公衆衛生戦略にとって重要だと位置づけられています。
ハーバード公衆衛生大学院の栄養学者で、論文の責任著者のフランク・B・フー氏は「この研究は、健康的な食事の選択が糖尿病予防に欠かせないことを強調しています。特に、赤身肉から摂取するヘム鉄の量を減らし、野菜中心の食事を増やすことは、糖尿病リスクを下げるのに効果的な戦略となるでしょう」と話しました。
その一方で、鉄分が体にとって重要な栄養素であることには違いありません。また、同じヘム鉄が豊富な食材でも卵や鶏肉は2型糖尿病のリスクとは無関係だという研究結果も過去に報告されているとのこと。
こうした点から、登録栄養士のメアリー・エレン・フィップス氏は海外メディアのVerywell Healthに「私の結論は、食生活にさまざまな植物由来の食品を取り入れることを重視すべきだというものですが、バランスの取れた健康的な食生活として適度な赤身肉を採り入れるのもいいでしょう」と話しました。