動画配信サービスから配膳ロボットまで!“U−NEXT”デジタルビジネスの裏側:読んで分かる「カンブリア宮殿」

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配膳ロボットからBGMまで〜飲食店85万軒を支える黒子



ハンバーグレストラン「びっくりドンキー」の配膳ロボット。2024年の5月からこれまでに159台を導入した。


【動画】動画配信サービスから配膳ロボットまで!“U-NEXT”デジタルビジネスの裏側

人手不足や人件費の高騰もあって配膳ロボットを導入する飲食店が急増しているという。それを日本で広めているのが「USEN」。1960年代から店舗などに向けてBGM用の音楽を流してきた「有線」だ。

曲選びは今も人の手で行っている。担当者が世界中の楽曲を実際に聞いてチャンネルを作成するのだ。例えばあるジャズチャンネルは、コーヒーが売りの店などに向けてジャズ1800曲以上を選曲している。


「コーヒーに合うかわいいジャズ、レトロでビター、カフェっぽくもあるものです」(USENコンテンツプロデュ―ス統括部・小島万奈)

こうして作られたチャンネルは今や1000を超え、契約する店舗に向け、ネットなどを通じて24時間休みなく放送している。

「びっくりドンキー」の店内BGMももちろん「USEN」。さらにタブレットを使った注文システムも、「USEN」と同じグループの企業が手掛けた。セルフレジも同じグループ企業。いまや「USEN」に頼めば、店舗のあらゆる設備がワンストップでそろう。

飲食店を裏で支える「USEN」は2017 年、動画配信の「U-NEXT」と統合した。グループ従業員数は約5000人、売上高は右肩上がりで今期は3000億円を突破する見込みだ。「USEN」を中心とした店舗サービスや「U-NEXT」などのコンテンツ配信、さらには通信やエネルギー、金融・不動産など、グループ企業は約30社になる。

年に一度の経営会議で「私たちが必要とされ続けるためには今まで世の中になかったサービスを時に打ち出す。長期的な安定成長には、必ず新しい挑戦が必要」と語るのはU-NEXT HOLDINGS社長・宇野康秀(61)だ。

ネット動画配信で急成長〜実は泥臭い営業力が武器



〇USEN&U-NEXTグループの強み1〜「かゆいところに手が届く!きめ細かな営業」

「USEN」に入社して7年目、営業本部南関東支社マネージャー・布金真優がこの日やってきたのは、東京・渋谷のレストラン「港町のイタリアン モンテロッソ」。5月にオープンした、建設関連の会社が初めて出した飲食店だ。話を聞きつけた布金は1年間通い詰めて、注文システムやレジシステムなどの契約にこぎつけた。

「オープンの前日で、決済端末と連携しないというご連絡が入って、そのとき商談で松戸にいて、電話を受けた瞬間に『分かりました』と言って急いで渋谷に来ました」(布金)

「システム会社さんは、コールセンターとかメールでしか対応しないところが多い中で、『布金さん助けて』と言える相手がいるのはすごくありがたい」(「日建リース工業」事業開発部・三浦俊樹さん)

さらに店側から、イタリアの雰囲気をつくりたいという要望を聞いて、あるサービスを提案した。それが大きなモニターに映し出される「USENミュージックエンターテインメント」。


「USEN」の音楽チャンネルだけでなく、ミュージックビデオやイメージ映像、日本や世界の観光地などの風景も流せる。今回はプロジェクターで壁にイタリアの映像を映し出せるようにした。

「『USEN』にはBGMのイメージしかなかったのですが、お店を開けるときにいろいろと手伝っていただきありがたかったです」(三浦さん)

〇USEN&U-NEXTグループの強み2〜「旧作から新作まで!動画配信の百貨店戦略」

家電量販店のテレビ売り場も、売っているのはほぼすべてインターネットに接続できるスマートテレビ。リモコンにネット動画専用のボタンがあるのはいまや当たり前になった。


動画配信サービスはいま戦国時代。国内市場でトップを走るのが外資系の「NETFLIX」で会費は月額790円から。トップ3のうち外資大手のもう1社が「アマゾン prime video」。会費は月額600円からで、動画視聴だけでなく、ショッピングで割り引きがあるなどのメリットがある。

そしてビッグ3の中で唯一の国内組が「U-NEXT」。国内市場ではシェア2位で会員数は430万人以上。会費は月額2189円と他より高めだが、映画などの動画は30万本以上が見放題と、最も多い。8月からはサッカー・プレミアリーグの独占配信もスタート。また、電子書籍も100万冊以上と充実している。


古い映画が多いのも「U-NEXT」の特徴の一つ。また韓国やアジアのドラマが充実しており、韓国のドラマは1000作品以上と、配信サービスの中で最も豊富だ。

地上波テレビとの連携にも乗り出している。各局が配信サービスを展開する中、「U- NEXT」が手を組んだのは「Paravi」。TBSとテレビ東京の人気ドラマやバラエティが好きな時に見られる。

「見たいものが見られる状態。ラインナップをそろえたことで他社と差別化できたと思っています」(宇野)

地獄を見た二代目社長〜「あきらめない男」の復活劇



夜の六本木。宇野のとなりでグラスを傾けているのは「サイバーエージェント」の藤田晋社長だ。「AbemaTV」を手掛け、ゲームやネット広告事業などで売り上げ7000億円を超えるITベンチャーの第一人者だ。


藤田さんは宇野が最初に起業した「インテリジェンス」という会社に1997年、新卒で入社。以来20年以上の付き合いになる。

「宇野さんはあの頃からオーラが漂っていました。尊敬している人です」(藤田さん)

実は「サイバーエージェント」は「インテリジェンス」のグループ企業からのスタート。宇野は金銭面も含め全面的にバックアップしたという。

「そもそも起業家志望の若者を採用していたので、話を聞いてくれた。宇野社長は志が大きくて、そこに惚れたという感じです」(藤田さん)

そんな宇野は過去に2度の修羅場を経験、それを不死鳥のように乗り越えてきた。

宇野の父・元忠がU-NEXT HOLDINGSの前身、「大阪有線放送社」を創業したのは1961年。主にバーやスナックなどの飲食店とケーブルを結んで店舗向けBGMを配信していた。


その2年後、1963年に宇野は生まれる。中国系移民の家系に生まれた元忠は24時間、仕事一筋。家庭をかえり見ることのなかった父に反発していたと、宇野は言う。

「尊敬している部分もあるのですが、人間性では、こういう人にはなりたくないなという思いも一方にあり、反面教師的に強くなっている部分もあって、跡を継ぐのだけは嫌だと思っていました」(宇野)

バブル絶頂期の1988年、大学を卒業した宇野は「リクルートコスモス」に入社。わずか1年で会社をやめ、25歳で仲間たちと人材派遣会社の「インテリジェンス」を創業する。

順調に会社は成長。株式上場の準備を進めていた矢先、宇野に人生の岐路が訪れる。

母から一本の電話があり、急いで大阪の病院に駆け付けると、父は末期がんだった。ベッド脇の宇野に、父は「会社を継いでくれ」と言った。

実は、有線は大きな問題を抱えていた。当時、国会議員団が有線の違法状態を調査する映像が残っている。音楽を流すため、全国の加盟店とケーブルをつないでいたのだが、有線は電柱を無許可で使い、使用料も払わないという違法状態を続けていた。それが国会でも問題となっていたのだ。


「父の後始末は身内がやるべき」と、宇野は社長を継ぐことを決断。だが、解決には莫大な人手と費用が必要だった。

「これをやらないと会社の未来はない。いずれサービス停止に追い込まれる可能性は非常に高い状況でしたから、『やり遂げなきゃいけないんだ、やれるんだ』と」(宇野)

宇野は社員を鼓舞し続け、全国に3000万本という途方もない数の電柱の調査を断行した。そして1年後、郵政省への届け出が完了。過去の電柱使用料の未払い分も含め、約500億円の返済を約束した。その時、宇野はこう述べている。

「ただいまをもちまして、届け出の受理が完了しました。本当に皆さんのおかげで、これが完了し、我々が起こした奇跡がきっと、我々の会社の歴史と日本の歴史と世界の歴史を変えていく瞬間になると確信している。みんなで力を合わせてこれからもがんばっていきたいと思います。ありがとうございました」

リーマンショック直撃〜「社長退任」からの復活



電柱の不正使用問題という最初の危機を乗り越えた宇野は攻めに転じる。光回線などインターネットのインフラ事業、動画配信の「GyaO」などIT事業に乗り出していった。

90年代後半は「ライブドア」の堀江貴文氏や「楽天」の三木谷浩史氏、「ソフトバンク」の孫正義氏などITベンチャーが急成長した時代。歩調を合わせるように宇野の「USEN」も拡大、社長就任3年でナスダック・ジャパンへの株式上場を果たす。

そこに2度目の危機が襲い掛かってきた。2008年のリーマンショックだ。世界的な金融危機で株価が大暴落。「USEN」グループも巨額の損失が発生し赤字となってしまった。

「当時、30行の銀行からまとめて一つの契約の中で借り入れをしていたが、将来性のある大事な事業を『とにかく売れ』と。『会社からの経営に対する関与を薄めろ』、要は『退任しろ』と」(宇野)

宇野はグループ内の事業を次々と売却、2010年には社長も退任した。唯一残ったのが、当時赤字で買い手のつかなかった、動画配信会社の「U-NEXT」だった。

「当時、300人の『U-NEXT』の事業に関わっていた社員がいましたが、彼らとともに外に出て新しい会社となり、『3度目の挑戦、3度目の上場を目指す』と。45歳になってまた上場を目指す、『また一からやるのか』というのもあったのですが、それでもこの事業にかけたいと」(宇野)

やがて動画配信時代が到来し、再スタートを切って4年、『U-NEXT』 は東証マザーズに株式を上場。宇野は2度目の危機も乗り越えてみせた。



未来を予測する会〜5年に一度「起業家」が集結



5年に一度、宇野が作った「インテリジェンス」の創業期メンバーが集まる会合がある。


集まる理由は恒例のイベントにあった。5年前に出した「未来予測」の答え合わせだ。

今回も答え合わせが始まった。最初はU-NEXT HOLDINGSの時価総額。宇野は5年前、3000億円になると予想したが、結果は「2859億円」(2024年6月14日終値)と、ほぼピッタリだった。


続いては日経平均株価。宇野は2万円と予想していたが、答えは「3万8814.56円」(同)。さすがにこの株高は読み切れなかったようだ。

その後も5年前の未来予測の答え合わせに会は大盛り上がりだった。

「5年前には『こうなるのかな』という時代が、どのくらいなるのか、あまりならないのか、みたいなことを予想するのが癖になっていって、自分がやってきたこととゲームとして楽しんでいることが一致している。未来予想ゲームは何回やっても面白いです」(宇野)

※価格は放送時の金額です。

〜村上龍の編集後記〜
U-NEXTの「U」は、USENの「U」グループ売上高約2800億円、会員数が430万人。1989年人材紹介の会社を、4人で作る。株式上場までこぎつけるが、大阪有線の創業者だった父親が倒れる。後継ぎを引き受けるが、当時の大阪有線は、電柱の不正使用で違法状態。解決不能と言われた負債に対し、1年で解決。電柱を1本ずつ調べたという。ところが2008年のリーマンショックで社長の座を追われる。宇野さんは、唯一の希望としてU-NEXTを残す。生き延びるための資源を残す。まさに不死鳥だ。

<出演者略歴>
宇野康秀(うの・やすひで)1963年、大阪府生まれ。明治学院大学卒業後、リクルートコスモス入社。1989年、インテリジェンスを設立。1998年、大阪有線放送社を父から受け継ぎ社長就任。2009年、U-NEXTを設立。2010年、U-NEXTがUSENから分離。2014年、東証マザーズ上場。2017年、USENと経営統合。2023年、U-NEXT HOLDINGSに商号変更。

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