夏ドラマ16本「視聴率ランキング」 若者には物足りない「科捜研の女24」 “月9バッシング”が起きない「海のはじまり」
視聴率調査で分析
元フジテレビのヒットメーカーで6月に系列の関西テレビの社長に転じた大多亮氏(65)は、就任会見で視聴率について「支持率であり、人気率であり、ヒット率」と語った。「ずっと取りたいと思ってきた」という。全ての制作者に共通する思いだろう。夏ドラマも終盤に差し掛かった。制作者の思惑通りに高い数字が取れている作品はどれか。【高堀冬彦/放送コラムニスト、ジャーナリスト】
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プライム帯(午後7〜同11時)の民放作品16本の個人視聴率とコア視聴率、T層視聴率を見てみたい。
個人視聴率とは4歳児以上の全体値である。コア視聴率は調査対象を13〜49歳に絞った個人視聴率で、この数値が高いとCMが高く売れる。T層は13〜19歳の個人視聴率で、テレビの将来を左右する。(8月12〜18日、ビデオリサーチ調べ、関東地区)
1位:TBS「ブラックペアン シーズン2」(日曜午後9時)
18日放送の第6回は個人が7.0%、コアは3.2%で1位、T層は2.1%で2位
2位:フジテレビ「海のはじまり」(月曜午後9時)
12日放送の第7回は個人が4.0%、コアは1.8%で4位、T層は2.0%で3位
3位:テレビ朝日「科捜研の女 シーズン24」(水曜午後9時)
14日放送の第6回は個人が3.5%、コアは1.0%で12位、T層は0.5%で12位
「ブラックペアン2」の視聴率は前作「アンチヒーロー」と同レベル。高い水準だ。勝因はエンタメ色の強い医療ドラマに徹したことにあるだろう。毎回、死と背中合わせの患者が登場するが、不思議と悲壮感がない。むしろ明るい。
主人公で東城大の外科医・天城雪彦(二宮和也)が軽いキャラクターである上、手術をショーのような形で扱うからだろう。敵役である維新大の菅井達夫教授(段田安則)が、ドジな悪役レスラーのような存在であることも大きい。菅井は失敗ばかりでちっとも怖くない。
月9「海のはじまり」は堅調。前作「366日」など大半の月9日は恋物語か青春劇だが、今回は家族をつくる物語。このため、視聴者の年齢層も通常より高い。
“月9バッシング”が起きていないのも特筆点だ。月9は森七菜(22)が主演した「真夏のシンデレラ」(昨年7月)以降、例外なく叩かれた。若者をメインターゲットにした作品は批判を浴びやすい。ラブストーリーが世間の全面支援を勝ち取るのは難しい。
「科捜研の女24」は刑事ドラマの特徴が鮮明に表れている。中高年以上には根強いファンが多いが、コア層の視聴率は極端なまでに低い。内容がパターン化しているから、若い視聴者には物足りないのである。T層の視聴率はもっと下がる。どの刑事ドラマも傾向は一緒だ。
「笑うマトリョーシカ」浮上
4位:TBS「笑うマトリョーシカ」(金曜午後10時)
16日放送の第8回は個人が3.4%、コアは1.7%で6位、T層は1.4%で7位
5位:テレビ朝日「スカイキャッスル」(木曜午後9時)
15日放送の4回は個人が3.0%、コアは1.1%で9位、T層は1.5%で5位
〃 TBS「西園寺さんは家事をしない」(火曜午後10時)
13日放送の6回は個人が3.0%、コアは1.1%で9位、T層は1.5%で5位
〃 フジテレビ系「マウンテンドクター」(月曜午後10時)
12日放送の6回は個人が3.0%、コアは1.1%で9位、T層は0.8%で8位
「笑うマトリョーシカ」は序盤こそ裏番組に押されて苦戦したが、浮上してきた。今後の興味も尽きない。若き有力政治家・清家一郎(櫻井翔)を操っているのは誰なのか。40歳を過ぎていながら他人に操られる清家とはどんな男なのか。
「スカイキャッスル」は韓流ドラマのリメイク。高級住宅地・スカイキャッスルでの物語。 主人公の浅見紗英(松下奈緒)は夫の英世(田辺誠一)がエリート医師で、絵に描いたようなセレブ妻だった。
しかし、人に知られたくない秘密を抱えていた。養護施設出身で学歴も偽っていたのだ。それを向かいに引っ越してきた南沢泉(木村文乃)に見抜かれる。人の虚栄心のバカバカしさを楽しめる。
「西園寺さんは家事をしない」はロケットスタートを切ったが、7月30日放送の第4回で失速してしまった。主人公の西園寺一妃(松本若菜)が、純粋な善意で年下の同僚・楠見俊直(松村北斗)とその娘を自宅に住まわせたのだが、楠見に恋心を抱いてしまったのである。
これでは西園寺さんの全ての善意の陰に楠見への恋心があるように見えてしまう。展開が早すぎたのではないか。
「マウンテンドクター」の視聴率は安定している。長野県の山岳医・宮本歩(杉野遥亮)の奮闘記で、夏山シーズンらしい作品だ。
クドカンのハイクオリティ
8位:フジテレビ「新宿野戦病院」(水曜午後10時)
14日放送の7回は個人が2.9%、コアは1.4%で7位、T層は0.5%で12位
9位:日本テレビ「GO HOME〜警視庁身元不明人相談室〜」(土曜午後9時)
17日放送の5回は個人が2.9%、コアは1.1%で9位、T層は0.6%で11位
10位:日本テレビ「マル秘の密子さん」(土曜午後10時)
17日放送の5回は個人が2.4%、コアは1.4%で7位、T層は0.4%で14位
「新宿野戦病院」はクドカンこと宮藤官九郎氏(54)が脚本を担当している。いつもながらのハイクオリティだが、舞台である東京.新宿歌舞伎町の猥雑さを生理的に受け入れられない人がいるかも知れない。
11位:日本テレビ系「降り積もれ孤独な死よ」(日曜午後10時30分)
18日放送の7回は個人が2.3%、コアは2.8%で2位、T層は1.9%で4位
〃 フジテレビ「ビリオン×スクール」(金曜午後9時)
16日放送の7回は個人が2.3%、コアは2.0%で3位、T層は2.6%で1位
両ドラマは、全体値の個人視聴率こそ平凡だが、コアとT層の数字は突出している。若者の支持が分厚いドラマである。個人視聴率とコア、T層にここまで開きがある作品は珍しい。
「降り積もれ孤独な死よ」はこんな話だ。親から虐待を受けている子供ばかりを集め、育てていた男がいた。灰川十三(小日向文世)である。悪さに使おうとしていたのではない。愛情を注いでいた。
この灰川の屋敷で13人の子供の監禁死事件が起きる。主人公の刑事・冴木仁(成田凌)が捜査に着手し、灰川を容疑者として逮捕する。しかし、灰川は留置場内で死んだ。
真犯人は灰川の実子で冴木の後輩刑事・鈴木潤(佐藤大樹)だった。灰川が実子の自分を相手にせず、血縁のない子供たちばかり大事にしたことが動機だった。
この作品は「血縁とは何か」と繰り返し問い掛けてくる。登場人物たちは酷い虐待やネグレクトを受けている。そんな子どもは世間にも珍しくない。答えは簡単には出せない。一見、猟奇ミステリーなのだが、哲学的な作品である。
「ビリオン×スクール」は明るい学園ドラマ。日本を代表する財閥のCEO・加賀美零(山田涼介)が、身分を隠して高校教師になる。目的は教育用AIの開発だった。
配属先はダメ生徒の集まった3年0組(ゼロ組)。加賀美は適当に教師を務めようとするが、日々を真剣に送る生徒たちと接するうち、変わり始める。加賀美の秘書・芹沢一花(木南晴夏)が頼りになる副担任として支える。
少子化によってT層の視聴者が減ったため、学園ドラマは絶滅寸前だが、T層は求め続けているようだ。
生田絵梨花主演は大化けも
13位:テレビ朝日系「素晴らしき哉、先生!」(日曜午後10時)
18日放送の第1回は個人が2.2%、コアは0.7%で14位、T層は0.4%で14位
14位:フジテレビ「ギークス〜警察署の変人たち〜」(木曜午後10時)
15日放送の6回は個人が2.1%、コアは0.9%で13位、T層は0.3%で16位
15位:テレビ東京「しょせん他人事ですから 〜とある弁護士の本音の仕事〜」(金曜午後8時)
16日放送の4回は個人が1.9%、コアは0.6%で15位、T層は0.8%で8位
16位:テレビ朝日「南くんが恋人!?」(火曜午後9時)
13日放送の4回は個人が1.5%、コアは0.6%で15位、T層は0.7%で10位
「素晴らしき哉、先生!」はいつもほかのドラマより遅れてスタートする放送枠なので、勝負はこれから。いまどき珍しいストレートな学園ドラマで、かえって新鮮味があり、人気が出るかもしれない。生田絵梨花(27)が等身大の高校教師に扮する。
高堀冬彦(たかほり.ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。1990年にスポーツニッポン新聞社に入社し、放送担当記者、専門委員。2015年に毎日新聞出版社に入社し、サンデー毎日編集次長。2019年に独立。前放送批評懇談会出版編集委員。
デイリー新潮編集部