2ndでも最強シングルが誕生!伊波杏樹「NPNL」発売インタビュー
2024年6月26日(水)に伊波杏樹2ndシングル「NPNL」が発売となった。ソロアーティストデビューシングルとなった「Killer Bee」同様に個性豊かな3曲組みの構成になった本作。その仕上がりには実に「最強!」と自信を覗かせる。今回は楽曲の世界観についてはもちろん、アーティスト・伊波杏樹を形成する要素についてもインタビューを行ってみた。
■「思っている以上に…!?」
――伊波さんはアーティスト活動を開始した初期の頃からご自身で作詞作曲をされていますが、例えば幼少期にピアノを習っていたとか、元々、音楽的なバックボーンがあったのでしょうか?
伊波:実を言うと、私は音楽的な習い事の経験はなくて(笑)。小さい頃は外で遊ぶことが好きで、水泳を習っていたり、中学生になってからは空手を始めたり……とにかく身体を動かすことが好きでした。ただ、母親がディズニー好きだった影響もあり、常にそういった音楽が耳に入ってくる環境でしたね。読み聞かせてもらった絵本も昔話とかではなくて、ディズニーの絵本とかプリンセスのお話だったりしたので、今考えてみると、大きな意味合いとして、私のバックボーンとしてそういう音楽があるのではないかなと思いますね。
――やはり歌う事と同様に役を演じる事も好きな伊波さんならではというか、どちらかといえばミュージカル的な所がスタートにあるのかもしれませんね。自分で作詞作曲をするまでに至るには、そこからどのような経緯があったのでしょう?
伊波:ソニー・ミュージックアーティスツ(SMA)という事務所に入ったタイミングから、お芝居以外に、歌唱の機会も増えていったんです。役者になるために通っていた声優の専門学校では、年に4コマくらいだったかな? 歌唱の授業もあったりして、そこで「私、歌うことが好きだな」と自覚していたのですが、当時はそれが仕事に繋がるなんて思ってもいませんでした(笑)。
――歌う事に対して、好きな気持ちだけじゃなくて仕事として向き合うようになっていくのですね。
伊波:事務所に入って、ようやく「もしかして、私が思っている以上に歌って大切?」という事に気付きはじめて(笑)。というのも、その当時、事務所に来ていたオーディションには歌唱審査有りのものが多かったんですね。今でもそうなんですけど、舞台にせよ、声優のお仕事にせよ、オーディションに歌の審査がある。それが自分にとって大きな起点になりました。事務所には音楽に精通してる方がたくさんいるのですが、そんな中、「普段から自分が思った事や考えた事はメモに残しておいた方がいいよ」という言葉がすごく残っていて。
――感情をその場で流さないで、ちゃんと記録しておいたほうが良いと。
伊波:そうですね。「いつかそれが自分の糧になるよ」と言われました。それ以来、とにかく書き留めていたのですが、活動を続けていく中で、パッと見返してみたことがあって。その時、当時書き出していた出来事や言いたかったこと、モヤモヤしていた気持ちを、これまでに聴いてきた音楽や、歌ってきた様々なキャラクターソングで得た感覚や経験をもとに、なんとなく鼻歌で思いついたメロディーラインに乗せてみたら、なかなか素敵に仕上がった。そんな所から始まって、徐々に今に繋がっているのだと思います。本当に一つひとつ、小さな積み重ねでしたね。
――SMAに入ってなかったら、作詞作曲はしてなかったかもしれませんね。
伊波:間違いなくここじゃなかったら出来ていないと思います。この事務所だからこそ出来る活動でもあると思うし、そういう部分を大切にしてきて正解でしたね。
――そんなアーティスト活動についてなのですが、役者としてでではなく、歌手活動で特に表現したいことは何なんでしょうか?
伊波:やっぱり”伊波杏樹”を知ってもらう事、でしょうか。
――それは色んな自分を知ってもらいたいという思いですかね?
伊波:アーティスト活動を始める上で、一番のターニングポイントは応援してくださっているファンの皆さんの声が大きかったことで。私はやっぱりファンの皆さんが伊波杏樹を「好きだ」とか「推しだ」とか、誇りに思ってもらえるような存在であり続けたいと常に思っています。だからこそ、みんなに「好きだ」と思ってもらえる伊波杏樹の姿を、これからもドンドン増やしていきたいですね。
――伊波さんのシングルにいつも色んなアプローチで制作された楽曲が収録されている理由が垣間見えた気がします。
伊波:例えば「実は私、こういう音楽が好きだったんですよ」みたいに、自分の嗜好を織り込んだ楽曲を作ったら、それってみんなにはお話していないことなので、意外性にも繋がるでしょうし、それが私の事を知らない方だったとしても、私の歌声を耳にした時に、 ふと立ち止まってくれたり、振り返ってくれたりするような、小さな輝き、微細な輝きを音楽に込めていきたくて。その微細な輝きって、私としては自分が生きてきた証を入れ込むことなんです。 伊波杏樹って、実はこういう人だったんだと感じてもらえる音楽を作り続けたいですね。
■「最強のシングル、出来ちゃいました。」
――それではより具体的に楽曲の内容にフォーカスした質問へと流れていきたいのですが、まず全体的な所感として、伊波さん的には今回のシングルはどのような手ごたえ、どのような仕上がりになったでしょうか?
伊波:え、最強(笑)。
一同:(爆笑)
伊波:今、思い返してみると、正直、デビューシングル「Killer Bee」をリリースした時も「スゴイものが出来たかも」とすごく胸を躍らせていた反面、やっぱりデビュー第1弾なので「どんな方向性で行くんだ?」という周囲の目に緊張していた部分もあったのかな?と思うんですね。でも、今作はもうそういう部分をすべて取り払って「これが私のセカンドです!」と胸を張って自慢できる仕上がりになりました!
――おっしゃってた通り、前作もそうでしたけど、よりパワーアップして色んな伊波さんが感じられる1枚になっているな、というのが正直な感想で、3曲ともに個性的だからこそ、例えば並び順などは意識された部分だったのではないですか?
伊波:そうですね。先ず表題曲の「NPNL」はもうホントにインパクトがあって、私の好きがものすごく詰まっている楽曲ですし、伊波杏樹をまた一段階アップデートしてくれる歌詞にもなったと思っています。その流れから2曲目を「マーメイド」にしても良いのかなとも考えたのですが、そこを「なんでもない日。」にしたところがまた面白いポイントかなと。
――ズバリ、その心は?
伊波:「なんでもない日。」では、結構ありのままの自分を曝け出しているんです。ステージを降りた後のいわゆる一番”素”に近い自分とでも言いますか。だから3曲目に持ってきた方が締まる楽曲だとも思っていたのですが、1曲目の「NPNL」が完全にオンステージな楽曲だとすると、その「NPNL」でライブを終え、2曲目の「なんでもない日。」で帰路に就く。そして3曲目の「マーメイド」で余韻に浸りつつ、完全にチル……みたいに、個人の流れとしてはバッチリな曲順になっているんですよね。皆さんが一枚を通じて聴いてくれた時の、心地のよさみたいなことにも繋がればいいなと思っています。
■「だから私は”痛み”を歌う」
――それでは表題曲の「NPNL」についてですが、この曲はトップハムハット狂さんがガッツリ作詞と作曲で入っているかと思います。それこそ世代的には激アツなクリエイターさんなんじゃないですか?
伊波:そうなんですよ!もうホントに嬉しくて、心の底から感謝しています。曲の頭からFAKE TYPE.節が炸裂していて「本当にコレ、私に歌いこなせる?」と思ったのと同時に「でも、コレを歌えたら最高だな!」と燃えてきた感じでした。2ndシングルにして難易度が爆上がりでしたね(笑)。FAKE TYPE.さんが大好きすぎたこともあり、本番レコーディング前のプリプロを録る際にトップハムハット狂さんからいただいた仮歌をものすごく聴きこんで行ったんですが、またそれが本当にカッコ良くて「仮歌の通りに歌わなきゃ!」という意識が強くなってしまって。
――まだ曲を自分のモノに出来てなかったんですね。
伊波:そこから、この曲を”伊波杏樹の曲”として歌うにはどうすればいいのだろうと悩んだ結果、今の形にたどり着きました。ラップのニュアンスも自分で色々と歌詞を読み解いて、 こうしたい、ああしたい、この声色を使ったらおもしろいかもと試行錯誤を繰り返しましたね。
――いい意味でめちゃくちゃ声優さんっぽかったです(笑)。
伊波:ホントにそうだと思います。ここは逆にその強みを出さなくては、と。「Yummy」とか「Nothing」とか歌詞に出てくるカッコの部分は、仮歌に寄せてみたり。FAKE TYPE.さんの楽曲によく出てくるイメージのワードが並んでいたので、自分なりのリスペクトを織り交ぜつつ、私がこれまでの経験を通して得てきたいろいろな声色を混ぜ込んだり、伊波杏樹のラップとして「NPNL」に調和させて落とし込めました。
――曲の中でもコロコロと変わっていくと思うのですが、あえてお気に入りのパートを挙げるなら、どこでしょうか。
伊波:サビ前のパートですね。「愛があるほど感じちゃう、言わずもがな」とか「君だけの苦痛にさせない」の辺りが、すごく私らしいと思っていて。ほんの少しでいいから優しさを持って、包み込んで、巻き込んで、 音楽を楽しみたい、みたいな気持ちが自分の中にすごくあるので、だからこそ、苦しんでいる人たちの苦痛を「君だけじゃないよ」「私だけじゃなく、周りにいる仲間たちもきっと同じ思いをしているよ」と包み込むメッセージだなと思っています。吐露してみたら、少しは楽になることがあるかもしれない。だからこそ、痛みを歌う。「NPNL」は「No Pain No Love」の略なので、この楽曲のメッセージ性の強さがここに集約されているような気がしています。
■「なんでもない日。は、なんでもなくない!」
――それでは2曲目の「なんでもない日。」です。コチラはご自身で作詞作曲もされていますが、伊波さん的にはどんなシチュエーションで聴いてほしい楽曲でしょうか?
伊波:どんな季節にも、寒くも暑くもなく、歩きやすい時間帯ってあるじゃないですか。その時間帯と色味を想像して書きました。だから、色味でいうと灰色に近いような空間が広がっている楽曲ですかね。テーマとしては帰り道、皆さんがお仕事で疲れてスーツでちょっと重い鞄を持って、トコトコ歩いている、ホントに何も考えていない時間帯をイメージしています。私もお芝居をしていて、お芝居をすることはすごく好きですし、もちろん歌うことも楽しいんですけど、 気づかないうちに疲れている時ってありませんか。あれ?って。
――そういう瞬間もありますよね。
伊波:そういう時って、多分、頭がもう真っ白というか、何も考えていなくて、目に映る景色だけを見ている。そういう瞬間が私にもあるんだよ、と。好きなことを仕事に出来ている人って、大多数ではないのかもしれませんけど、ふと「自分はこれに悩んでるんだな」とか、「今って結構しんどいんだな」とかって、私はこういう瞬間に気付く事が多くて……なんか、それをものすごくリアルに歌詞に乗せて歌いました。
――この曲を聴きながらも思ったんですけど、なんでもないとは言いつつ、全然なんでもなくはないよなって(笑)。
伊波:そうなんですよ!長い人生からしたら「なんでもない日」と思っていたけれど、いや、“なんでもある日”だなって(笑)。実はアーティスト活動として、歌を書く上ではそういう時間が大切な宝庫なんです。決してマイナスな曲ではないので、みんなが帰り道に足元ばかりを見て、アスファルトを踏みしめている時に、この曲を聴き終えて、ひとつ大きな溜め息をつき、空を見上げてくれたら最高だな。そんな曲です。
――最後の曲になりますけど「マーメイド」ですね。以前にも「Discover」というレゲエっぽい楽曲があったと思うんですけど、 この曲もトロピカルな感じですよね。
伊波:なんか私、好きなんでしょうね(笑)。レゲエに関して言えば、これまで全く触れてこなかったジャンルなんですけど、以前、とあるアーティストさんのライブに行ったときに、その方がレゲエを歌っていて、その時にみんなが横に揺れて、すごく心地いい空間だったんです。そこから色々とレゲエのルーツについて調べたりして、平和や愛を歌っていると知って。「Discover」も、結構自分を吐露した曲だったのですが、良い時は良いけれど、人間だれしもダメな時もあって。でも、そのダメな想いを誰かに向けるのは違うんじゃないですか?というメッセージをレゲエに乗せて歌ったら、ハマったんですよ。それで、今回もちょっと趣向を変えて、スティールパンという楽器を主軸にして作っていただいたのが「マーメイド」という楽曲になります。
――スティールパンの音色、良いですよね。
伊波:本当に聴いていてすごく楽しいし、歌もそうですが、楽器の音1つで、人ってハッピーになれるんだなとすごく感じるんです。生音を録っていただいているので、聴き心地がものすごく良くて。それに寄り添えるような、 かといって甘くなりすぎない空間で、この歌は広がっていくといいかなと思っています。
■「デビュー1年目の伊波杏樹です!」
――3曲ともに別ベクトルのパワーを持っているからこそ、変な話、中途半端にもなりがちかなと思うんですけど、でもちゃんと芯は食ってるというか、あまり軸は外してないのが伊波さんのパワフルな所だなと改めて感じました。
伊波:嬉しいです(笑)。多分、私にしかできない音楽ってそこにあるんじゃないかなと今は思っています。アーティスト活動を始める上で、私の本質ってどこにあるの?どんな音楽を届けていきたいの?と、ずっと自問自答していたんです。でも、それを決めこまないことこそが私なんじゃない?ということに気付いたというか。私って何にでもなれるから楽しくて役者をしていて、自分を見てほしいわけではなく、演じたその役が愛されること、演じたその世界が愛されることが1番の幸せと思って生きてきたので、アーティスト活動は難しいのかなと考えていたんです。なので、アーティストデビューについては慎重に考えていた時期もあったんですけど。
――確かに。ソロデビューまでかなり時間を取ったなという印象はあったんですけど、話を全部聞いてみると、伊波杏樹にとっては必要な助走期間だったんだな、というのも分かりました。
伊波:ライブをやってみて、お客さんは私の表現が多彩に変わっていく様を楽しんでくれているんだ、とすごく感じたんです。だからこそ、楽曲でも、もちろんライブでも、いろいろな伊波杏樹を見せていきたい。ファンの皆との絆が今の活動をする上での大切な基盤になっていますし、大きな支えになっています。
――最初におっしゃってましたもんね。結局はそういう部分で話が大本に戻ってくるのも、軸がぶれてない何よりの証拠だと思います。最後にファンの方へ向けてひと言メッセージを頂けると嬉しいです。
伊波:ソロアーティストデビューを果たしてからの伊波杏樹を知らない方がまだまだたくさんいると思います。私はアウェイな状況にこそ冒険心を感じるので、そういう道にドンドン足を踏み入れて、いろんな人たちと出会いたい。このインタビューを読んでくださった方々にも「なんか、面白そうなやつがいる」と少しでも思っていただけたら嬉しいです。
いろいろな音楽をお届けしていますので、その中から好きな音楽を見つけてもらえたら。まだまだ新米の、デビューして2年目の伊波杏樹ですが、これからを追いかけてくれたら嬉しく思います!
インタビュー・文=前田勇介