石川県・金沢にEGO-WRAPPIN′、TENDRE、ハナレグミが揃い踏みーー愛にあふれた心温まる夜『BABY Q 金沢場所』
『BABY Q 金沢場所』2024.8.3(SAT)石川・金沢市文化ホール
2024年8月3日(土)、弾き語り形式の回遊イベント『BABY Q 金沢場所』が金沢市文化ホールで開催された。『Q』は、2019年に神戸ワールド記念ホールや両国国技館で、「CUE=素晴らしい音楽に触れる“キッカケに”」、「休=最高の休日に」という想いを込めて立ち上げられたインドアフェス。そして、コロナ禍の2021年の夏に東京・大阪で弾き語り形式の『BABY Q』が始まり、2021年の冬に広島、2022年は1月に北海道、8月に横浜、9月に大阪、12月に福岡、そして2023年7月には東京でも実施された。今年は3月の名古屋、6月の沖縄に続いての開催となる。
会場ロビーでは、厳選した能登の物産や『BABY Q 金沢場所』のオリジナルグッズ(エコバッグ、出演者のサイン入りポスター<限定>)が販売された。オリジナルグッズの売り上げは、製造費を除いて全額が能登半島地震の被災地に寄付される。主催者に話を聞くと、今年1月1日の震災が起きて、すぐに今回の開催を企画したという。全国を回るイベントだからこそ、各地への配慮を感じるし、意義のある金沢場所だと心から想った。
TENDRE
1番手はTENDRE。ふらっと緩やかに舞台に現れて、下手から上手まで歩き、親指でグーサインをしたり、拍手をしたりと、観客とのコミュニケーションを取っていく。「暑いですね、楽しんでいきましょう」と鍵盤を弾いていくが、その音色からして涼しげで、さっきまで外で猛暑に参らせられていた事をすっかり忘れさせてくれる。
1曲目「DOCUMENT」の<頃合いのいい頃に>という歌い出しの歌詞から心を掴む。曲終わり、「こんな感じで」という一言からライブの雰囲気が全て伝わるのも素敵だった。「どうですか、夏を楽しんでいますか?」というフランクな語りかけから、日差しは強いものの「気持ちは納涼祭」という言葉も、『BABY Q』自体を見事に表現していた。本来は全然若手ではないものの、今回の面子では若手であることを笑いながら話して、続いて「NOT EASY」へ。やはり歌い出しの<見ての通りさ>という歌い出しの語りかけるような歌詞がとても沁みわたる。曲終わり、「人生、楽じゃないこと多いですよね。ごめんなさい、ひとりごと喋ってました」なんてつぶやいていたが、そういう押しつけがましくないスタンスが愛される理由のひとつでもある気がした。
今日は色んな音を出してライブを、と軽く説明をして「いけ!」と号令をかけると同期の気持ち良いビートが鳴り「SELF」へ。2階後ろの立ち見観客もみんな気持ち良さそうに揺れている。曲終わり、今年初の金沢であるものの自身が所属するRALLYE LABELのボスが生まれも育ちも金沢で、現在も拠点にしているので思い出深い場所であり、金沢でライブができることへの感謝も述べる。その街との関係性を丁寧に話してもらえると、特に地元の観客は嬉しいし、より距離も近くなる。改めて今日の面子の凄みを話して、ハナレグミ、EGO-WRAPPIN'それぞれとの関係性も細かく説明してくれるので、縁深い3組だということもわかる。で、20歳の頃のガールフレンドからハナレグミを教えてもらったことも恥ずかしそうに明かしながら、グランドピアノへと移動する。言葉を一区切りずつ発音する「HOPE」の歌い方に惹きつけられたし、何よりもメロディアスな楽曲に惹きつけられた。
グランドピアノの後ろにあるパソコンにタッチして、同期の音と共に「MOON」へ。曲終わり、「ウッドベースの音が聴こえたと思うんですけど、僕の父親に弾いてもらっていて、パソコン上で父親を呼んでみたという」という粋な紹介を。下手側の観客に背中を向けていることや、グランドピアノを弾いていると発表会感があると笑いながら、弾き語っていくが、何とハナレグミ「家族の風景」が歌われる。突然の出来事にその場にいる全員が驚きながらも喜ぶ素敵すぎる光景に……。父親の話をしていただけにぴったりな選曲だが、そのまま「GIVE」が歌われるが、この曲は母親のために作ったという曲であることも打ち明けられる。この2曲は、にくすぎる流れであった。
「素敵な2組が、みなさんの素敵な夜を彩るでしょう」と伝えて、ラストナンバー「HANASHI」へ。鍵盤のサウンドがリズミカルで、金沢やEGO-WRAPPIN'や永積さんなどを歌詞に入れ込みながら歌っていく。最後はマイクを通さず「楽しんで~」と言って、舞台を去っていった。観客みんなの心を温めてくれた素晴らしきトップバッター。
ハナレグミ
譜面を持って現れただけで、物凄く大きな歓声が起きる二番手のハナレグミ。「はい! じゃあ授業を始めますね! 出席は取ったかな? TENDRE君の授業どうだった? 彼、新人だから!」なんて永積崇は言いながら朗らかに始まっていく。能登半島地震への義援金についても触れて、何て言ったらいいかと言葉に迷いながらも、「お見舞い申し上げます」と誠実真摯な態度で丁寧に言葉を選ぶ。実際に能登へ向かい、福島へ行った時のことも踏まえながら、外から観ているだけでは胸がざわざわしていたものの、現地を観させてもらうと地に足がついて心が落ち着いたと明かす。迷っている人は一度観に行かせてもらうと道が拓けるのではとも話した。
「記憶とか思い出とかメモリーに向けて選曲をしたい。記憶を塗り替えるというよりは、記憶と伴走する。そんな感じの歌を歌いたいと思っています」
少し時間をかけながら丁寧に想いを届けてから、1曲目「祝福」へ。
<急ぐな さがすな 勝手に見つかるまで>
<究極 孤独 幸福>
とにかく歌詞が響く……。
続く「きみはぼくのともだち」の<眠れないのなら そばにいるよ 星の見えない夜 心の奥に沈む悲しみ そこまでゆこう>という歌い出しから、永積の歌が僕らの心に寄り添ってくれていると思える。全ての歌詞が心に刺さり心に響く。<小さなあかりともして>という歌詞では、思わず舞台下手のキャンドルライトに自然に目がいく。曲終わり、「ともだち~!」と明るく叫んで、場の空気をしんみさせすぎない心遣いも素敵であった。
こんな年になっても子供の頃の夏休みのフィーリングを思い出す、と家族とのドライブ旅行の話題に。その頃に車内でよくかかっていた曲で、能登半島にかけて、山本コウタロー「岬めぐり」へ。客席からも気付くと手拍子がおきるテンポの良いフォークナンバー。本人いわく「僕の中の音楽成分は、この曲とマイケル・ジャクソンでできあがっています!」と言い、「車は家に着きましたから」とぼそっとつぶやき、爪弾くギターからあのメロディーが聴こえてくる。明るかった舞台が夕暮れ時の様な照明へと変わっていく。「家族の風景」は、いつ聴いても情景描写が脳内で再生されると気付かされる名曲である……。
アコギを替えて爪弾くと、より音がホールに響く。涙、瓦礫、マンホール、悲しみ、前を向く若者といった言葉が散りばめられた詩を朗読していく。<THE WORLD IS HERE>、<帰る場所は未来しかない>という言葉が胸を打つ。そして、「音タイム」へと繋がっていく。歌われると大きな拍手が巻き起こり、歌い終わると、また大きな拍手と歓声が起きる。それは、まるでオペラやオーケストラコンサートの光景みたいで感激してしまう。そこからの「明日天気になれ」の流れは心地よすぎて、観客も手を上げたり、手を叩いたり、口ずさんだりと歌と一体になって楽しんでいる。曲終わり、歓声と指笛などがホールに大きく鳴り響き圧巻であった。
毎年5月に福岡で開催される野外フェス『CIRCLE』と『BABY Q』の主催者が同じであることも説明して、「この企画は間違いないんで!」と太鼓判を押す。演者と主催者の関係性は本来観客には関係ないことかも知れないが、そんな関係性から魅力あふれるイベントが生まれる事を、観客が知れるのも素敵じゃないかと想う。
以前、“超バター犬”というバンドをやっていたこと、そこには歴史を一生懸命伝えている人がいて、その人は福井出身で、ルネス金沢という今はない施設のことをずっと言っていて、そこの深いプールに当時一緒に入ったこともあると思い出を話す。その頃から約25年以上、彼らの音楽を聴き続けている身としては、そんな何気ない話を聴けただけで本当に嬉しかったし、同じ想いを感じた人は多かったのではなかろうか。そして歌われるラストナンバー「さよならCOLOR」。
<サヨナラから はじまることがたくさんあるんだ>
<自分をつらぬくことは とても勇気がいるよ>
<だれも一人ボッチにはなりたくないから>
観客それぞれが自分の状況に照らし合わせながら、色々な想いを抱いたはず。いつだってハナレグミのライブは特別な気持ちになれるが、この日は特に特別な気持ちになれる、心を揺さぶられるライブだった。
EGO-WRAPPIN'
三番手の大トリはEGO-WRAPPIN'。中納良恵と森雅樹が舞台に登場する。すぐに森は「いい近さですね。楽しめていますか? もう金沢、梅雨が上がったみたいで今日が夏の一日目!」と話せば、中納も「出席取ります~!」とハナレグミに便乗して煽る。金沢でのふたりアコースティックライブは初めてながらも、駆け出しの頃から金沢のラジオで可愛がってもらい、個性的なDJが多かったが、一番アルバムを聴き込んでくれて愛を感じたなど振り返っていく。
「愛のお返しをしましょう!」
森の粋な言葉から、1曲目「Finger」へ。森がギター、中納がピアニカを奏でながら歌う。TENDER、永積という男性の声とはまた違うホールを包み込んでいくような声の響き。声と音が深く深く溶けて交じり合っていく。「ちょっと懐かしい曲をやりますか」と2曲目「アマイ カゲ」へ。森がギターを弾き、軽くギターも叩き、そのふたつの音だけなのに惹きこまれていく。曲終わり、森は「これは相当貴重な曲です。駆け出し中のね。今はバンドでドッカンワッショイやっているけど、元々はふたりで暗くて!」と明るく話すが、その暗さがとてもとても心に沁みわたっていく。EGOの原点を聴けているようで、本当に貴重な気分になる。中納も「いいホール!」と言っていたが、声と音とホールの相性が抜群に良い。「涼しげな曲をやります」と「満ち汐のロマンス」へ。緩やかにリズムを取りたくなるナンバー。
家でやっている感じがすることから、ふたりは「良恵の部屋」と笑いながらも、『BABY Q』が全国的に盛り上げていかないといけないので!」とイベントのグッズ紹介をする。自分たちのグッズ紹介ならばわかるが、出演イベントのグッズ紹介はあまり聞いたことがない。製造費以外は寄付されることや、ホール入り口では地元の道の駅の方々による物産展も出店されていることも話す。出演者3組共に『BABY Q』を心から愛していることが本当に伝わってくる。いつの間にか、物産展の話から何故か椎茸の愉快な話になっていたが、「次こんなロマンチックな曲を!」と「admire」へ。優しいメロディーにほっとするし、中納の声に癒される。最後に「ありがとう」とメロディーに乗せて歌い終わるのも洒落ていた。
「幸せやわぁ! 嬉しい!」
中納は幸せのダンスを踊り出し、森は伴奏をつけていく。続く楽曲は「金沢にゆかりのある駆け出しの頃によくかけてもらった」という森の紹介から「a love song」へ。コール&レスポンスもあり、観客の元気さもまっすぐ感じられた。「やっと知っている曲が出てきた感じですか!?」と焚きつけて、中納は野生の動物の鳴き声みたいな神秘的な声でスキャットをしていき、「Neon Sign Stomp」へ。中納はカズーを吹き、黒いタンバリンも叩いていく。「今日はありがとうございました!」と言うと、あの温もりあるメロディーが聴こえてきた。ラストナンバーは「サニーサイドメロディー」。
<誰よりも愛しあって>
その歌詞が<明日を愛しあって><家族を愛しあって><故郷(ふるさと)を愛しあって>と「愛しあっていこう~!」と歌われる。「歌える人は歌おう!」と観客はハミングで歌う。それにしても良いメロディー……。観客全員座りながらも、みんな揺れている幸せな空間。中納は深い深いお辞儀をして、『BABY Q』トートバッグにタンバリンなどを入れて舞台から去っていく。
アンコール。すぐ現れたふたりは、「三番目を頂いたので、どあつかましく!」と「色彩のブルース」へ。途中、マイクを通さず歌う場面にはゾクッとしてしまう……。すると袖から緩やかに踊るTENDREと永積が登場! 中納は「サプライーズ!」と叫んだが、本当に予定にはなかったサプライズな登場に観客は大喜び! 曲終わり、中納はふたりに「言ってよ~!」と言いながら投げキッスを! 最後は4人横一列に並びお辞儀を。心温まるとしか言いようがない最高の夜であった。
取材・文=鈴木淳史 写真=『BABY Q』提供/撮影:山本裕太(PHOTO LOOP)