葛藤を乗り越えたアーティストデビューから現在へ──伊波杏樹の想い、「NPNL」でたどり着いた“私にしかできないやり方”とは?

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声優・舞台女優として活躍の場を広げる伊波杏樹が、自身のレーベル「Queue me! Disque」(キューミー・ディスク)より第2弾シングル「NPNL」をリリース。FAKE TYPE.のトップハムハット狂による表題曲をはじめ、収録された3曲ともにインパクト抜群の意欲作となった。このインタビューでは昨年のレーベル立ち上げ時から現在までの音楽活動を振り返りつつ、第2弾シングルに込めた想い、そして“アーティスト・伊波杏樹”の目指すものを聞いていく。

INTERVIEW & TEXT BY 仲上佳克

アーティストとしての新たなスタートラインに着いた1年間

――2023年に自身のレーベル「Queue me! Disque」を設立され、同年6月14日に第1弾シングル「Killer Bee」をリリースされました。改めて設立の経緯や当時の思い、意気込みなどを振り返っていただけますか?

伊波杏樹 アーティスト活動を始めるにあたって、色んな流れや場所での可能性がありましたが、なにぶん私自身が軸をブラすつもりがまったくなくて。その軸というのは「役者である」ということで。そこもふまえて、どういう形が自身に一番合っているのかというのをチーム全体で考えた末の昨年でした。

――自分の思うタイミングでアーティスト活動をしたいということが大きかった?

伊波 様々なジャンルのお仕事をしているうえで、1年以上前からいただいていたお話や、もっと先の未来のご提案が決まったりしていくなかでロードマップを敷いていくと、タイミングなどもコントロールしやすい形が取れるとベストだよね、ということで自主レーベルとして「Queue me! Disque」を設立してのアーティスト活動が始まりました。

――レーベル名はなかなか聞き慣れない言葉ですね。

伊波 「キューミー」というのは造語です。私のオフィシャルファンクラブにモチーフにしている動物がいまして、それは“キツネ”。キツネはいろんなものへ変化するという昔話や逸話があります。伊波杏樹は、役者として代わるがわる様々な役を演じてゆく。そんな部分に共鳴してモチーフアニマルにしました。キツネってあまりいい印象を受けない部分もあるとは思うんですけど……。

――変化することで人を化かすとかいいますからね。

伊波 だからこそ私は愛してあげたいなと思ったというか。キツネにも素敵な言い伝えはたくさんあって、その“変化”することでいい風を吹かせられることを知ってもらえたらなと思っています。そこで「九尾の狐」の「九尾」と、パブロ・ピカソの「キュビズム」に通ずる要素を掛け合わせて、また「ミー」は、私自身という意味もありつつ応援してくださる一人ひとりが「ミー」であって、みんなで創ってゆくのが「Queue me! Disque」であるという意味を込めています。

――デビューシングルをリリースしたときのファンの皆さんの反応はいかがでしたか?

伊波 デビューに向けては自分の中でも色んな葛藤がありつつも、ファンの皆さんが伊波杏樹の歌が好きで、歌ってくれることを心待ちにしているという声が年々大きくなっていって。その思いに呼応するように私も気持ちが固まっていったことで、「Killer Bee」を出させてもらったという経緯があるんです。デビューにあたりどういう曲がいいかとなったときには社内会議があって、そこで満場一致でロックに決まったんですけど(笑)。それに私も賛同して。「Killer Bee」というめちゃくちゃかっこいい曲でデビューさせてもらったことで、皆さんが本当に心待ちにしていてくれたんだというのをすごく感じました。

もちろん、ここまでアーティスト活動へ踏み切らなかったのには明確な理由があり、自分が守ってきたもの、これから守っていきたいもの。深く考えてきたことがたくさんよぎるからこその「アーティスト活動はまだしない」という選択であって、応援してくださる方もそんな想いをなんとなく汲んでいてくれた所もあったかもしれません。そして、いざデビューするとなるとものすごく喜んでくれて、たくさんの嬉しい言葉を投げかけてくれて。しっかりと意志を固めて一歩踏み出して良かったなって改めて実感しました。

――”アーティスト・伊波杏樹“として活動してきた1年間で、特に印象に残っている出来事はありますか?

伊波 まだメジャーデビューをする前のことになりますが、東名阪のツアー(“Re merveilleux VOYAGE”/2023年5月)ですね。そもそもデビューするよ、というのを発表させてもらったのがこのツアーで、ファンの皆さんのおかげで私はデビューするんだという感謝を伝えることで気持ちよくデビューができるなと思って開催させてもらいました。

デビュー後には東名阪+福岡の全国4都市で“伊波杏樹 1st LIVE KILLER MIRROR GIG”をスタートさせてもらいました。今までもイベントやライブをやっていたのに“1st”という名は周りからしたら変わった感じがすると思うんですけど、アーティストとして大きく一歩を踏み出したのはこの“KILLER MIRROR GIG”で、私自身はここから新しくスタートラインに立ち走り出したような感覚でした。2ndシングルの楽曲もここで全て初披露させてもらって、2ndへの助走をみんなで分ち合ったりもして。

あと、それまでのライブはファンクラブ内のみでのチケット販売だったりしていたものが、1st LIVEで初めてチケット一般発売をして、伊波杏樹のライブに初めて来るよという方が多くいらっしゃったのも嬉しかったです。「初めての方も一緒に楽しもうね」と分かち合ってくれるファンの皆さんの優しさに、これこそが、今まで私たちが一緒に歩んできた道のり、絆だなということを強く感じて最高の1st LIVEとなりました。今までやってきたことも、届け示し続けてきた想い、言葉も、デビューがあのタイミングになったことも。1つとしてムダなことなんて無かったのだと心が強くなった1年でしたね。

インパクトだけではなく、芯は絶対に外さないように届けたい一曲

――約1年ぶりのリリースとなった第2弾シングル「NPNL」の制作にあたっては、どんなことを考えられましたか?

伊波 とにかくインパクトを大事にしたいと思っていました。そのインパクトというのは、ただ曲が強いとかではなく、伊波杏樹という人がどういうインパクトを出すのか?……なんだか技みたいな言い方になっちゃっていますけど(笑)、そういう感覚ですね。伊波杏樹が解き放つものは何なんだ?ということをファンの人には楽しみにしてほしいし、私のことを知らない人には曲を聴いてもらったときに振り返ってほしい、みたいなところで。

――FAKE TYPE.のトップハムハット狂さんの楽曲提供による表題曲「NPNL」は、実際にかなりのインパクトがある楽曲になりました。

伊波 元々いつかFAKE TYPE.さんとご一緒したいというのを、憧れのような感覚でプロデューサーに話していたんですけど、今回叶うことになって、めちゃくちゃドキドキしました。本当に叶ったら叶ったで嬉しすぎて、心臓が飛び出そうなくらい(笑)。

――「Killer Bee」はロックでしたが、今回の楽曲のジャンルは……。

伊波 スウィング系とか、ボーカロイド系な感覚がありますね。この曲をいただいたときは、仮歌の段階から「うわ、FAKE TYPE.さんが本当に曲を書いてくれたんだ!」って思うと同時に、「これ、私が歌えるのかな?」というくらい、めちゃくちゃ完成されていたんです。ラップとかもかなりありますし、今までの伊波杏樹だったらやるとは思われなかったような空気感の楽曲が届いたので、相当頑張らないといけないなという気持ちになって。でも、すごくワクワクしたんですよ。自分の中でも細かくディレクションしながら試行錯誤を繰り返して、出来上がっていくのを楽しむ楽曲だなと思っていました。

――ラップの部分も含めて、伊波さんの色んな声を楽しめる楽曲でもありますね。

伊波 始まりから終わりまで目まぐるしいほどにインパクトが続くので、聴いていて楽しいのはもちろんですけど、楽曲自体はものすごく芯の強い楽曲だと思っていて。「NPNL」というタイトルは「No pain No love」の略で、傷とか痛みとか、それを愛情というものでしっかりと受け止めていくとか、信じていくことを大事にした楽曲だと思うので、私は景色をしっかり思い浮かべながらも、そういう芯を絶対に外さないように届けたいと、ライブで歌っていてより思いました。そのなかで、最後にこの曲が終わったときに残るもの、何回も何回も聴いて残るものは何だろう?というのをリスナーの皆さんに考えてもらえたらいいのかな、という楽曲に仕上げているつもりではあります。

――最初に聴いたときはインパクトに圧倒されるかもしれないけど、何度も繰り返し聴くことで楽曲の伝えたいことがわかってくるという。

伊波 伝わると思います。歌詞だけ読んでも私は共感することがすごく多かったので。パッと見て難しいなと思っても、読み解いていったり調べたりしていくと、すごくよくできているリリックで。歌っていて気づくこともたくさんありましたし、ライブで歌うたびに成長していく自分がいて、すごく楽しかったですね。

――ライブで初めて披露したときのお客さんの反応は?

伊波 ツアー初日の福岡公演はどよめいていました(笑)。アンコールで歌ったんですけど、正直、私も緊張していたんです。「レコーディングではやったけど、ラップ、本当にいけるのか?」みたいな。でも、やってみたらめちゃくちゃ楽しくなっちゃって、お客さんも乗ってくれるのが早かったんですよ。色んなジャンルを普段から聴いているからなのか、スウィングなのに頭からちゃんとクラップしてくれたりして、飲み込みがすごく早かったですね。ラップのときは、みんなのびっくりしたというような反応を間近で受けられて、それも楽しかったです。

それぞれにまったく異なる景色を見せる3曲

――シングルの2曲目「なんでもない日。」は、第1弾シングル収録の「Discover」に続いて伊波さんご自身が作詞・作曲されています。

伊波 「なんでもない日。」は本当にありのままを歌ったというか、これを聴いたら伊波杏樹を知っている人はびっくりするかもという楽曲ですね。普段、身近にいてくれる人たちにもあまり吐露しないようなことを書いていて。役を演じていたり、介しているときの私を知ってくれている人たちにとっては、きらびやかなステージの上での姿を見ることだけで十分だと思うんです。だけど、それだけが私じゃない。案外、遠い存在ってわけでもないんだよと。私も人だし、同じように悩むし、苦しみも弱さもある。だからこそ分かち合ったり誰かに寄り添ったりできるんだよというのを知ってほしくて書いたような楽曲に仕上がった気がします。

「Discover」でも色々と吐露しているんですけど、そちらはまたちょっと違ったベクトルで、「寄り添い方」が違うと思います。肩を組んで寄り添ってあげているのが「Discover」で、「なんでもない日。」は横にちょこんと座っていたりとか、横にボケーッと立っていたりするだけという寄り添い方。どうしても自分で作詞・作曲をするとメッセージ性が強くなりがちというのはありますが、気楽に届くように「Discover」ならレゲエにしていたり、「なんでもない日。」ならイージーリスニングにしていたりという部分もあるので、自分が書く言葉のメッセージ性の強さと音楽のジャンルの調和をこれからも取っていって、こういう曲を書き続けられたら、私らしい味になるのかなというのは何となく思っています。

――やはり自分で詞や曲を書かれるときは自分の中にない、ある種ファンタジー的なものを想像して書くというよりは、自分の中にあるメッセージを書くほうがやりやすい?

伊波 書けないですね、ファンタジー(笑)。曲が降りてこないですからね。「なんでもない日。」とかでも、ラップの部分はあれよあれよという間に完成していくんですよ。言いたいことをいっぱい詰められるじゃないですか。だから読み返すと「うわ、すごい吐露したなあ」って思いつつ、そこはイージーリスニングのメロディーラインや空気感で柔らかくできているかなとは思ってはいるんですけど。ファンタジーを書けるようになっても面白いかもしれないですけどね。自分から出てくるものが発生源としてはまだ大きいので、いつかそういうものが書けたら「書けましたね!」って言ってください(笑)。

――3曲目「マーメイド」はどんな思いを込めて歌われましたか?

伊波 これは「甘くしすぎないように歌いたいな」というのがあって。最初はうたた寝で見ていた夢が鮮明に見えていって、「え? これ現実かも?」と思うときってあるじゃないですか。あの感覚になるといいな、ということに重きをおいてレコーディングのときは歌っていました。実はこのシングルで一番最初にレコーディングしたのが「マーメイド」で、ライブで歌った感じとCDに収録されている音源とでは結構違っているんですよ。ライブはかなり甘く歌っちゃったなというのがあって、だからライブを見に来てくれた人は特別で、「ライブバージョンの『マーメイド』よかったけど、CDの『マーメイド』もいいよ」という二軸で楽しんでもらえたらいいなと思っています(笑)。

3rdシングルは…「みんなびっくりして腰が抜けちゃうかも」

――前作もそうでしたが、1枚のシングルの中で本当に色んな景色を見ることができて、また、伊波さんの色んな声や表情が楽しめるものになっていますね。

伊波 逆にこれは私にしかできないやり方なのかなと思っているので、これからもたくさん引き出しを増やしていって、みんなのことを色んな世界に連れて行ってあげたいなって。でも、言っていることは一貫して伊波杏樹という人の言葉であるということは忘れずに、大事に歌っていきたいなと思っています。

――伊波さんの顔が半分イラスト、半分実写になっているジャケットもかっこいいなと。

伊波 よかったです! 周りからも意外と好評で、びっくりもされました。これまでもジャケットは私自身でアイデア出しをさせてもらっていて、こういう半分イラスト、半分実写みたいなことがやれると絶対面白いというのはかなり前から思っていたんですけど、今回の「NPNL」という楽曲がまさにぴったりだったというところもあって、満を持して提案させてもらったんです。今回のアートワークは中面もすごくよく仕上がっていて、ちょっと清楚めな感じと、ドカンとかっこいいジャケット写真の感じと2種類を織り交ぜているので、どちらも楽しんでいただけると思います。ぜひ手に取ってもらえたら嬉しいですね。

――それにしても作詞・作曲からジャケットのアイデアまで手がけられて、伊波さんは多才ですね。

伊波 いやいや、全然です。でも、専門学校時代に口を酸っぱくして言われていたのが「役者をやるのであれば、常にアンテナを張って生活しなさい」ということで、そうじゃないと何も役には生かせないよということを教えられたんです。それが今になってもすごく生きているなと思いますね。人間観察をいっぱいしなさいとも言われましたし、自分のアイデアになるものってあらゆるところに落ちているので、日常からそういうことを拾い上げる力と、早さというのは大事にしなくちゃいけないのかなと思います。

――続く3rdシングルの制作も決定しているということですが、今後の音楽活動に向けての抱負をお聞かせください。

伊波 まずはこの2ndシングルが皆さんの元に届いて、日々のつらい思いだったり、鬱蒼とした気持ちだったりが「楽しい」に変わってくれるといいなと思います。3rdシングルの内容はもうだいぶ見えてきているんですが、多分みんなびっくりして腰が抜けちゃうかもって思うんですよ。本当に「ええっ!?」ってなると思うので、ぜひ楽しんでほしいなと思います。今年はフェスに出られることが決まっていたり、対バンも初めてやらせてもらったり、色んなアーティスト活動での経験を積んでいくので、3rdシングルも含めて、これからも楽しみが先にあることを信じてくれたらいいなと思っています。

●リリース情報
伊波杏樹
「NPNL」
2024年6月26日発売

品番:SLRL-10129
価格:¥2,500(税込)

<収録曲>
1.NPNL
作詞:トップハムハット狂 (FAKE TYPE.) 作曲:イワツボコーダイ, TAKAROT, トップハムハット狂 (FAKE TYPE.) 編曲:Shoma Yamamoto, TAKAROT
2.なんでもない日。
作詞・作曲:伊波杏樹 編曲:Hayato Yamamoto
3.マーメイド
作詞・作曲・編曲:Hayato Yamamoto
4.NPNL -Instrumental-
5.なんでもない日。 -Instrumental-
6.マーメイド -Instrumental-

●イベント出演情報
SMA 50th Anniversary×モンバス25th Anniversary 「五重の奏“こ〜んに〜ちは〜!! SMA50”」
香川県・国営讃岐まんのう公園にて開催される「MONSTER baSH 2024」とSMA50thのコラボが実現!

2024年8月25日(日) OPEN 9:00/START 11:00
会場:国営讃岐まんのう公園(香川県仲多度郡まんのう町)

<ラインナップ>
Vo 綾小路 翔(氣志團)/ CHEMISTRY / 木村カエラ/ 伊波杏樹 / 錦鯉
Band Gt:堂島孝平 / Gt:山本薫(クジラ夜の街)/ Ba:関根史織(Base Ball Bear)/ Key:渡辺シュンスケ(Schroeder-Headz)/ Dr:堀之内大介(Base Ball Bear)

関連リンク

伊波杏樹 公式ホームページ
https://www.anjuinami.com/

伊波杏樹 公式X
https://x.com/anju_inami

伊波杏樹 公式YouTubeチャンネル
https://www.youtube.com/channel/UCeLkP_euFOvTo62tyRNFkEg