この記事をまとめると

■現在のポルシェは4ドアGTやSUV、EVまでもラインアップする

■911以外のポルシェでも「ポルシェ感」を味わえるのかを考証

■ポルシェ感はポルシェが作るモデルには必ず漂っている

スポーツカーメーカーから総合自動車メーカーとなったポルシェ

 ちょっと前までポルシェというメーカーは911以外には4気筒かV8エンジンを積んだFRモデルをラインアップするだけの小規模メーカーだったかと。たとえていえば、老舗とんかつ屋さんのメニューみたいなもので、とんかつ定食を筆頭に、かつ丼とカツサンドだけしか扱ってない、みたいな感じでしょうか。いずれもジューシーな肉感やほんのりとした甘みを味わえる老舗の逸品、そんなショルダータイトルが似あいそうです。

 ところで、いまやポルシェは4ドアGTやSUV、さらにはEVまでラインアップするプレミアムメーカーというポジション。語弊を恐れずにいえば、とんかつ屋がかつカレーや焼きしゃぶ、さらにはお子様ランチにまで手を広げたかのような様相かもしれません。となると、お客さんの立場ではとんかつ以外の料理でも老舗の味わいを楽しめるのかどうか、気になって仕方ありませんよね。

 つまり、ポルシェが作る911という老舗の味わいは、ほかのモデルでも楽しめるのでしょうか。いってみれば「ポルシェ感」はすべてのメニューで感じ取ることができるのか? そんな疑問をおもちの方が少なくないようです。

 むろん、スポーツカーととんかつを一緒くたに論ずることはナンセンス。ですが、バリエーションを広げる際、忘れずに老舗の味やテクノロジーを注ぎ込むといった姿勢に変わりはないはず。

 たとえば、手ごろな価格で乗り出しやすいSUVのマカンなどはVWをベースとしながらも、独自のステアリング特性や、比較的重量のあるボディをさも軽量スポーツカーのようにキビキビと走らせるコンプライアンスチューンなど、じつにポルシェらしい工夫や知恵が注ぎ込まれているのです。

 また、EUのエネルギー方針から無理やり作らされた感のあるEV、タイカンにしても他社をリードする低重心をはじめ、運動性能に全振りしたようなパッケージは、ポルシェでなければ追究しえないモデルに仕上がっています。

 当然、バリエーションを開発していく際に得られたテクノロジーは、911へとフィードバックされていることも見逃せません。とんかつ屋でいえば、焼きしゃぶ向けにはロースかつ用の肉よりもグレードを低くしたって味は変わらない、みたいな知恵かと(笑)。

ポルシェ感とは911ならではのものならず

 それゆえ、いまのポルシェから911以外のモデルを購入したとしても「ポルシェ感」を味わえるといって差しつかえないはず。ですが、ここで厄介なのが「自称グルメ」とのたまう方々の存在。ネット社会、情報がオープン、かつハイスピードで拡散される世の中ですから「あの老舗がカレー作るって!?」「豚肉が同じならクオリティも変わらんだと、笑止」みたいなことをいわれがち。

 たしかに「マダムでも簡単に転がせるオートマSUV」なんて、それまでのスパルタン、シンプル、それでいて懐の深いスポーツカーからは一番かけ離れているモデルに違いありません。とても同系統のテイストが味わえそうもないはずで、自称グルメたちによる炎上も仕方ないのかと。やはり、ポルシェ感=老舗のとんかつテイストは911以外では味わえないと嘆かれるのも無理はないのでしょう。

 もっとも、味わいという感覚はヒトを欺くことでも定評があります。カップラーメンだって、山登りで腹が減ったころに大自然に囲まれて食べたら「ウマ!」となるのが好例。それと同じで、911以外のポルシェだってシチュエーションさえ選べばバッチリとポルシェ感が味わえること請け合いです。サーキットにパナメーラをもちこんだって、もしかしたらホンダS660の後塵を拝するかもしれませんが、横浜あたりのちょっとしたホテルのエントランスならぶっちぎりでパナメーラの勝ち!

 また、箱根の山をカイエンでターボに任せて登っていっても、マツダ・ロードスターの軽やかさには及ばないかもしれません。が、キャンプ場でカイエンからスノーピークをおろすアナタを見る周囲の目は羨望のまなざしに違いなく、思わず鼻の穴からフフンと勝者の息吹がもれるはず。

 つまり、ポルシェ感というのは911だけにまとわりつくものではなく、ポルシェが作るモデルには必ずや(しかも、少なからず)漂っているのです。これぞ、さすが「老舗スポーツカーメーカー」と呼ばずしてなんでありましょう。