Vol.139-2

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回のテーマは新たに登場したiPad Pro。高価な製品となった理由を解説する。

 

今月の注目アイテム

アップル

iPad Pro

16万8800円〜(11インチ) 21万8800円〜(13インチ)(※)

※ いずれもWi-Fiモデル

↑13インチモデルは最薄部で5.1mmの驚異的な薄さを実現。次世代プロセッサーとなるM4プロセッサーと強力なGPUでM2プロセッサーよりも4倍の高性能なレンダリング性能、同様にCPUは約1.5倍高速化している

 

IT機器の価格は上がる傾向にある。理由はいくつもある。

 

日本にとって一番大きな影響があるのはもちろん円安の影響だ。ただ、値上がり傾向は世界的なものでもある。技術的にも価格が下がりづらくなる要素もあるわけだ。

 

タブレットにしろスマートフォンにしろ、価格を決める大きな要素は、ディスプレイパネルとプロセッサーだ。iPad Proの場合、ディスプレイパネルは有機EL、プロセッサーも最新のものなので当然価格は高くなる。

 

タブレットの場合、コンテンツを見ることが中心の要素となるので、差別化要素はディスプレイになる場合が多い。

 

昨今は有機ELが採用されることも増えてはきた。有機ELは液晶に比べ輝度を高めにくいが、テレビではなくタブレットであれば大きな問題にはなりにくい。しかしiPad Proの場合には、過去の機種よりも輝度を下げるわけにはいかないので、発光層が2枚ある「タンデムOLED」というパネルを採用している。

 

タンデムOLEDはLGディスプレイが製造しているもので2019年ごろに開発されたものだが、価格が上がっても高輝度を実現したい……という製品がテレビくらいしかないことから、広く使われては来なかった。アップルがハイエンド製品に使ったことから、今後は差別化のために採用するメーカーも増えてくるかもしれない。

 

プロセッサーについては、過去に比べ価格を下げられる要因が減りつつある。半導体自体の製造技術が減速し、省電力化・低コスト化しづらくなっているからだ。差別化については、半導体を組み合わせてひとつのプロセッサーにまとめる「パッケージング」に依存する部分も大きくなってもおり、複雑化し、結果として価格は下がりづらくなっている。

 

iPad Proの場合はアップルのフラッグシップ・タブレットであり、そのタイミングで最高の機能を備えたものであることが望ましい。今回は特に高価なものとなったが、一方でコストパフォーマンスの良い「iPad Air」を同時に出すことで、“ディスプレイとプロセッサーのスペックを抑えて同じサイズの製品”を求めることができるようになっていた。

 

タブレット市場はPCやスマホに比べても価格重視の側面が強いが、ここまでコストをかけて、高い製品を作っても“売れる”のはアップルだけだ。iPad Proは高価な製品になったが、良くも悪くもアップルだから許容される価格帯である……といえる。ただ、タブレットの価格としては上限に近いだろう。今後もこの価格帯で行くのかどうかは、世界的に今回のiPad Proが支持されるかどうかにかかっている。

 

前述のように、高価格の一端はプロセッサーの価格が担っている。特に今回は、アップルの最新プロセッサーである「M4」が導入されたのが大きい。

 

では、アップルはなぜ最新のプロセッサーをiPad Proから導入したのだろうか? M4の差別化点はどこになるのだろうか?次回解説する。

 

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