「ご褒美がないですと!?」ショックのあまりに飼育員さんに思わず憤慨してしまう動物園のパンダ…

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ちょっと短めのおみ足にまるいボディ。唯一無二のフォルムを持つ、神戸市立王子動物園のメスのジャイアントパンダ「タンタン(旦旦)」。そのかわいい姿と優雅な所作から、親しみを込めて、“神戸のお嬢様”とも呼ばれています。

2021年に心臓疾患が見つかり、治療を続けていたタンタンですが、2024年3月31日に虹の橋を渡りました。国内最高齢の28歳でした。いつでも笑顔をくれた神戸のお嬢様・タンタンをしのび、在りし日の日常を振り返りながらお伝えします。

竹の旬を知る匠

タンタンが竹を気に入らなかったのは、連載34回目(https://gendai.media/articles/-/84908)。取材日はザッと雨が降り、湿度の高い一日。お部屋のガラスも曇り気味で、警備の方が何度も曇りガラスをスキージーで拭いてくれていました。タンタンは観覧開始の10時には起き出し、ニンジンとペレットをペロリ。ただ、用意された竹には目もくれずに寝てしまいました。「朝ごはんを食べた後、あまり動いていなかったので、おなかがすいていなかったんでしょうね」と話すのは、飼育員の梅元良次さん。

11時25分頃に、いったん寝室へ入ると、手つかずの竹が片付けられ、ニンジンとペレット、そしてタケノコというにはあまりに大きな物体が置かれました。タンタンが室内に再登場してタケノコを食べ始めると、団体の子どもたちが「パンダ、ずっと木を食べてる〜!」。育ちすぎたタケノコは、まるで木のようなビジュアルなのです。

食事が終われば寝台でおやすみに。ときおりペロッと舌で鼻を舐めます。梅元さんによると、これもタンタンがよくやるクセのひとつなのだそう。犬や猫の場合は、感覚を研ぎ澄ましたり、気持ちを落ち着かせるために鼻を舐めるといいますが、タンタンはどうなのでしょう。気になりますね。

食欲旺盛なタンタンですが、竹の枝と葉っぱには、味や栄養に違いはあるのでしょうか。梅元さんによると、タケノコの季節には枝や軸の部分に、秋冬は葉っぱの方に栄養があり、その部分を中心に食べるのだとか。

「秋冬の食欲が上がってくる時期は、葉っぱを食べて、さらに足りないから枝も食べるという感じですね。旬のものを本能的に理解して食べているんでしょうね。そのあたりは、パンダにしか分からないところですが……」。

竹以外のものもしっかりと食べています。「パンダ団子も気に入ってくれているようなので、もう少し増やそうかなと思いますが、これはあくまでおやつ。本当は竹をしっかり食べて欲しいですね」と、梅元さん。野生では、ほぼ竹を食べているんですものね。

朝の室内展示場掃除の際には、寝室からよく圧タンをされるのだそう。「道具を取りに、横の通路を通ったりすると、出せと圧をかけてアピールしてきますね。外に出たら、ごはんがもらえるのを知っているので」(梅元さん)。暑い7月でも食欲は旺盛のようで、安心です、お嬢様。

七夕のごちそう

連載35回目(https://gendai.media/articles/-/85156)は、2021年の七夕を紹介。休園日であいにくの雨でしたが、飼育員の吉田憲一さんから、ごちそう付きの七夕飾りがプレゼントされました。寝台の柱にくくりつけた竹飾りに、カットしたリンゴ約10切れと、大きなブドウを10粒ほどセッティング。寝台の上に颯爽と登場したタンタンは、まず大好きなリンゴに手を伸ばしてパクリ。ガサガサと竹を探って次々にくだものをゲットしていきました。

その後は、さらなるくだものを手に入れるため、立ち上がって竹の中に頭を突っ込みます。

一瞬「もうないのかな」という様子で動きが止まりましたが、タンタンはあきらめませんでした。気を取り直して竹を揺らし、ポロッと落ちたリンゴをゲット。まるで宝探し。素敵な七夕の贈り物になりました。

タンタンへのごちそうを作る際に、気をつけていることを、梅元さんにうかがうと「一番は、タンタンにケガをさせないようにということです。飾りの竹を固定するのにも、丈夫な針金ではなく、麻ひもを使用しています。基本的に、タンタンが触ったり、口にしたりしても大丈夫なものだけを使います」と話します。

おいしいものだけではなく、薬も毎日キチンと飲んでいるタンタン。この時に服用していたのは、血管拡張剤と強心剤です。以前は、苦い薬を吐き出すこともあると聞いていましたが「タンタンは、ちゃんと薬を飲んでいますよ。味にも慣れてきたのか、吐き出すこともなくなりました」と、梅元さん。

「人間なら朝夕と決まった時間に薬を飲みますが、タンタンには1日分の量を、あげられるタイミングで与えています。量に関しては、健診結果に応じて調整しています」(梅元さん)。加齢による心臓疾患なので、治療と言うよりは現在の安定した状態を続けて行くための投薬になりますが、しっかりしたケアのおかげで、いつも通りの状態で過ごせています。

取材時の神戸のお天気は、曇りのち雨。でも、空調が効いたタンタンのお部屋は快適です。雨の日が続き、外へ出られていませんでしたが、お部屋でゴロゴロするのが大好きなタンタンにとっては、苦にならないのだそう。寝台でゴロゴロした後は、圧タンでごはんをゲット。ニンジンを両前あしに持つ二刀流スタイルでおいしくいただきます。

お次は竹をモグモグ。豪快に竹の葉をちぎる様子を見て、子どもが「パンダって、強い歯があるんやね」と感心していました。外は大雨で雷も鳴っていましたが、タンタンは我関せず。大好きなお部屋でゴロゴロと過ごしていました。

「ご褒美がないですと!?」

かわいらしい「あ〜ん」を疲労してくれたのは、連載36回目(https://gendai.media/articles/-/85410)。公式ツイッターではハズバンダリートレーニングで、口をあける練習をしている姿が紹介されていました。そのときの命令語が「あ〜ん」。「口を開ける動作のかけ声が、あ〜ん以外に思いつかなかったんです」と、梅元さん。

ほかの動作のかけ声はどうなのでしょうか。停止する動作には「ステイ」、あおむけには「ダウン」を使います。「ダウンと言った後は、一瞬めんどくさい〜やるの〜?というような表情をしますが、タンタンはちゃんとやってくれますよ」と、梅元さん。ダウンのポーズが一番嫌いなんですよね、お嬢様。

床におなかをつけて、じっとする動作には「フセ」。「しゃがめ!のような、命令語にしたくなかったので、犬の訓練にも使う、フセにしました」(梅元さん)。フセは心電図を取るために必要な動作で、心臓疾患のあるタンタンには、とても重要なポーズなのです。

こうして賢くトレーニングをこなすタンタンですが、トレーニング途中にご褒美のリンゴがなくなってしまい、ショックを受けるタンタンの様子がツイートされていました。リンゴが途中でなくなることはよくあり、その場合は、新しいものを取りに行きますが、トレーニング中に梅元さんが目の前からいなくなると、タンタンはどうしたらいいかわからない。そこで、あの表情となるわけです。

そして、タンタンはリンゴの種の部分が大嫌い。一度口に入れても、種の部分が多いとペッと口から出すのだそうです。「これじゃ、言うこと聞けませんという表情をしますね。丸ごと与えたときは、種も一緒に丸かじりするのに……」と、梅元さん。なんともグルメなお嬢様なのです。

取材日には淡河のトウチク(唐竹)のタケノコを3本も平らげたタンタン。いつも通り、室内のタイヤに座ってお食事です。タケノコを食べ終わった後は、お隣の部屋との壁ぎわの床にゴロンと転がってお休み。

その後のごはん交換では、入り口に控えめなおみ足を伸ばして精一杯の抵抗を。中を警戒していたようです。その後、無事に食事をすませて、おなかいっぱいで床に転がりタンタンを、隣の部屋の壁越しに見守る梅元さん。この日もまったりと過ごしたお嬢さまなのでした。

NEXT:次回は2024年7月3日(水)に、お届け予定です!

※今回のおまけ写真は、2022年1月に撮影したものです。

<動物園の基本情報>

神戸市立王子動物園

〒657-0838 兵庫県神戸市灘区王子町3-1

TEL : 078-861-5624(代表)

公式ホームページ:https://www.kobe-ojizoo.jp

公式Twitter(@kobeojizoo):https://twitter.com/kobeojizoo

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