配線器具などの電材で国内トップのシェアを誇るパナソニック エレクトリックワークス社(以下、EW社)は、災害時にも生産を途絶えさせないため、部品の供給網を強靭化することを発表しました。同社の最新の取り組みについてレポートします。

↑EW社の大瀧 清社長

 

グローバルで20万品番以上の部品の情報を可視化

EW社は国内のみならず、海外でも多くの国で事業を展開しています。同社の生産拠点は国内外に25か所もあり、部品を提供する企業は3000社以上にのぼります。同社が製造している配線器具などの製品は、社会を支えるインフラの一部であるため、常に安定して生産を続ける必要があります。

 

しかし、世界をまたいで広がるサプライチェーンを、災害や社会情勢の変化があったときにも確実に維持するのは大変です。

↑グローバルに展開するEW社の事業。インド、トルコ、ベトナムでは、配線器具のシェアで1位を獲得

 

そこでEW社は、2024年4月からサプライチェーンマネジメントシステム(以下、SCM)「EW-Resi.」を導入しました。富士通の協力を得て開発した、EW社オリジナルのシステムです。

↑EW-Resi.導入までの経緯

 

2023年4月から運用していた従来のシステムでも、全社での情報共有や、災害などの有事に供給が滞りそうな部品を把握することは可能でした。しかし、生産、販売、在庫などの各システムの連動性が弱く、オペレーションが属人化し、マニュアル対応が必要だったといいます。

 

そこでEW-Resi.では、20もある既存のシステムを統合し、グローバルで20万品番を超える部品の在庫・供給状況を可視化。どのサプライヤーがどの部品をどの程度供給しているのか、全てが見えるようになります。

 

そして、有事の際には、供給への影響度合いを自動で計算し、既存の在庫の融通とあわせて対応策を提案するシステムを追加しました。平時にも、AIが精度の高い需要予測を行い、生産の効率を向上させます。

↑災害発生時のサプライチェーンへの影響を素早く可視化

 

EW-Resi.が有事対策を行う災害のレベルは、地震なら震度5以上、洪水なら気象庁が発する大雨洪水警報の警戒レベル4(避難指示発令相当)以上。気象庁のシステムから常時情報を受信しているため、これらの大きな災害が起きた場合にも、すぐに対応をとれる体制になっているそうです。

 

EW-Resi.は、国内の17拠点に加え、海外ではインドの1拠点に導入済み。今後、国内外全25拠点へ導入先を広げていくとしています。

 

AIの活用により短い期間で開発成功。発展性も秘める

EW-Resi.のシステム開発に協力した富士通の執行役員EVP 大塚尚子さんによると、自社のAIにEW社のSCMについての既存情報を学習させたことによって、需要予測モデルをわずか2か月で構築できたといいます。データモデルを一度作成すれば、そのモデルの組み合わせを変えていくことで、在庫管理、需要予測、レジリエンスなど、様々な目的を持ったアプリケーションを開発できます。

 

大塚さんは、このデータモデルを応用することで「温室効果ガスの排出量の可視化・削減策構築のシステムも作れる」と語っており、EW-Resi.は、サプライチェーンの強靭化策だけにとどまらない可能性を秘めています。

 

EW-Resi.の導入により、有事下での事業継続計画状況の把握にかかる日数は、従来システムの平均3日から1日に短縮されました。製品の信頼性の高さから、グローバルで高いシェアを誇っているEW社。今回の新たなシステムの導入は、同社の信頼性をさらに高めるものとなりそうです。