家族の幸せを願う“ハンサム”な父、恋や仕事に悩み人生に迷う三姉妹、そしてマイペースな母。伊藤家5人が織り成す“恋”と“家族”と“ゴハン”の物語が、2度のテレビシリーズを経て映画に! いよいよ6月21日(金)より公開される映画「おいハンサム!!」で主人公・源太郎を演じる吉田鋼太郎さんと、源太郎の妻・千鶴を演じるMEGUMIさんにインタビュー。2人の息の合った“夫婦対談”をお届けします!

 

◆2022年1月期にシーズン1がスタートし、今年4月期にはシーズン2(フジテレビ系)も放送されました。これまで周りからどんな反響がありましたか?

吉田:普段ドラマをあまり見ない妻が『おいハンサム!!』は好きなようで、ケラケラ笑いながら見ていました。題材と言いますか、ドラマにちりばめられている要素に身近なことが多いんでしょうね。だから共感できたり、思い当たることがあったり。逆に突拍子もないことが起きたりするのもすごく楽しいみたいです。

MEGUMI:私は周りの友人や通っているサロンの人、同い年かちょっと上くらいの女性からもこの作品が好きだという声をよく頂きます。私自身、人生において忘れたくないような、ハッとさせられるせりふもあって。そういう気付きをスケールの大きい話ではなく、日常生活の話からもらえるというのが好きなポイントなんです。忙しい現代人のみんなもそこに共感したり、こういうの忘れてたなと思い出したりしてくれているのかもしれません。

 

◆多くの支持があったからこそ実現した映画化ですが、最初に聞いた時は率直にどう思いましたか?

吉田:映画化するの!? 大丈夫!?って(笑)。

MEGUMI:全く同感でした(笑)。大きな話でもなければ、いろんなことが起こるストーリーでもないので、映画化して大丈夫かな…と。で、いざ台本をもらったら、見たことないくらいぶ厚くて。ちょっとした辞典ぐらいあったんです(笑)。

吉田:ハハハ! 厚かった! この作品はいつも台本どおりにはならないので、それをもらった時点でどうこうってことはなかったんですけど。ただ、映画とあっていろんなエピソードが詰め込まれていて、本当に2時間で収まるのかなと思いましたね(笑)。

MEGUMI:でも、私たちは監督のやり方にはもう慣れていますので。最初の台本はあくまで“地図”でしかなく、ここからまたいろいろ変わるんだろうなと身構えていました。

(c)2024映画「おいハンサム!!」製作委員会

 

◆源太郎と千鶴という役柄やその夫婦関係については、どう捉えていますか?

吉田:この作品はタイトルどおり、源太郎が毎回“ハンサム”に娘たちに訓示を垂れて、世の中の方向性や彼女たちがどうしていくべきかみたいなことを指し示して終わります。でも、シーズン2と映画を経て思ったのは、実は一番ハンサムなのは千鶴なんじゃないかと。隠れハンサムというか、影のハンサムみたいな。口数こそ少ないですけど、その何げないひと言が完全に的を射ていて。お父さんがたくさんしゃべるよりも、お母さんのひと言の方が戦闘力がある、というような図式になっているんですよね。

MEGUMI:社会に対しての思いとか、そういうところでも共鳴し合っていてすてきな夫婦関係ですよね。お父さんは娘たちに伝える役目を担うアイコニックな存在で、千鶴は現場監督としてその場にいるような構図も素晴らしいんです。本当にこんな夫婦いるのかなと思うくらい理想的な形です。

吉田:源太郎は千鶴のことをものすごく愛していますし。

MEGUMI:お互いにですよね。千鶴だって源太郎さんのことがすごく好きですし。だって長年一緒にいるのに、まだ嫉妬しますから。源太郎に占い師やアテンドした外国の方…と女性の影を見つけると、いちいちムカついていて(笑)。そこがかわいいなとも思います。

吉田:結婚して何年もたつのに、まだリアルタイムで恋愛しているんだよね。

 

◆お二人自身、この作品でずっと共演してきてお互いに“ハンサム”だなと感じた瞬間は?

吉田:MEGUMIさんは普段からハンサムです。皆さんご存知のように男前ですから。それに、劇中ではあまり多くはしゃべりませんが、せりふで説明できない中で千鶴のあの空気を出せるのがすごい。しゃべったとしても「そうね」のひと言。でも、その「そうね」のひと言に説得力があって、肯定も否定も、怒りも思いやりも、優しさも入っている。それを表現できるMEGUMIさんは、やっぱりハンサムです。

MEGUMI:うれしいです、ありがとうございます。鋼太郎さんは前日の夜中や当日でも変わる長尺のせりふもありますし、ドラマの最後にある演説パート…映画では100人ぐらいの前でしゃべらないといけなくて、俳優にとっては過酷なシチュエーションなんですけど、毎回バッチリ決めてくるんです。その底力と引き出しの多さが本当にすごいなと。しかも「やるぜ!」感がなく、スッとやってらっしゃるところもハンサムです。

(c)2024映画「おいハンサム!!」製作委員会

 

◆映画では京都ロケもご一緒されたそうですね。

吉田:京都ならではの場所でロケをさせてもらいました。源太郎と千鶴が夫婦で泊まった旅館も、何百年も前からの歴史があって。あと、源太郎の親戚を演じる六角(精児)さんと松下(由樹)さんと久しぶりにご一緒できたのがうれしかったです。

MEGUMI:お2人が営むお店もすてきでしたよね。

吉田:あの和菓子屋さんも老舗なんだよね。

MEGUMI:古い駅でも撮影しましたよね。映画なのでテレビドラマとは違うカメラで撮っていて、趣がありました。ただ、あれは私たちがクランクインしてすぐでしたっけ。監督がまたこだわりを発揮して、夫婦でバスに乗っているシーンを何十カットも撮り直して(笑)。

吉田:ああ、そうだそうだ!

MEGUMI:確かに出来上がったものを見たら、いろんな間やタイミングが完璧だったんですけど。あまりのテイク数だったので、正直、私は京都の町を見ながらこれいつまでやるの? みたいな(笑)。それがインだったのもあって、強烈に覚えています。

 

◆撮影外で京都を満喫するような時間は…。

吉田:ないです。全然ないです。

MEGUMI:私は撮影が終わるのが比較的早かったので、トレッキングをしたり…。

吉田:え、そうだったんだ!?

MEGUMI:はい。あとは山に登ったり、電車に乗ったり、酵素浴に行ったりと、すごく充実させていただきました。こんなご褒美みたいなロケはなかなかないなと思いながら(笑)。

吉田:京都に行けたのは、映画ならではだったよね。海外には行かなかったけど、海外の方も出演してるし。

MEGUMI:たくさんの方が出ているところも映画ならではですよね。スケール感がちょっとだけ広がって…

吉田:ちょっとだけなんだよね(笑)。

MEGUMI:でも、それがまたよくて。普通はもっと大きく広がるのに、ちょっとだけしか広がっていないのが「おいハンサム!!」らしいです(笑)。

 

◆三姉妹の長女・由香役の木南晴夏さん、次女・里香役の佐久間由衣さん、三女・美香役の武田玲奈さんとの撮影はどんな雰囲気でしたか?

吉田:シーズン1の時から変わらず、MEGUMIさんを筆頭に現場ではみんなしゃべらないんです。それぞれ1人で静かに台本とにらめっこしていたりして、寡黙に淡々としていて、キャーキャーもしない(笑)。撮影中はもはや、その役にしか見えなくなっています。

MEGUMI:それくらい、みんな役にハマっていますよね。消え物(食事)のシーンが多いので、カットがかかるとそのまま一緒にごはんを食べたりするんですけど、それも本当の家族みたいに淡々としていて、食べ終わればそれぞれの場所に帰っていく。トーンが大変似ている人たちが集まっているんです(笑)。決して仲が悪いわけではなくて。むしろめちゃめちゃ仲はいいんですけど、つるまないんですよね(笑)。シーズン1以来久々に会った時も、スッと「おいハンサム!!」の世界に入っていきましたし。

吉田:この現場を離れたらそれぞれにぎやかにおしゃべりもするんでしょうけど。この現場に集まると一気に家族になるんです(笑)。

MEGUMI:ずっと一緒にいるから、ドーンとした家族になっているんでしょうね。たまに盛り上がって、またスーッと下がっていく(笑)。私はそれが心地よかったです。

 

◆三姉妹のそれぞれの恋模様も気になるところですが、そこはどうご覧になられていますか?

吉田:みんな危険なゾーンに入って、後戻りできないんじゃないかというところまで行っていて。親としてはもうなんとも言えないですよね。

MEGUMI:言うような年ごろでもないですしね。美香は一応特定の相手がいて愛されてもいるようなので、まだ大丈夫そうですけど。由香と里香がちょっとね…(笑)。

吉田:2人はね…。でも、本当に悪い男と付き合って、立ち直れないくらい傷ついて、もう人生どうしていいか分からない、というところまではまだ行っていないんですよ。もうちょっとでそうなりそうなところにはいるんですけど(笑)。

MEGUMI:それを分かっていながら言えないんですよね。大きい子を持つ親の気持ちってこういうものなんだろうなと分かりました。

 

◆三姉妹がギリギリのところで踏みとどまれている理由は何だと思いますか?

MEGUMI:それはやっぱり、お父さんの存在じゃないでしょうか。

吉田:きっとね。パパが折に触れて、ちゃんと説教していますから。それが頭や心のどこかにきっとあるんじゃないかな。

MEGUMI:みんな生活する力があるのも安心材料ではありますよね。そこまで変なことにはならないんじゃないかっていう。

吉田:「こんな娘に育てた覚えはない」なんてよく言いますけど、きっと我が家の娘たちは3人ともそういうふうには育っていない。ちゃんと育っているんです。だから、どこかでは信頼しているんだと思います。

 

◆ “ハンサム”の血筋がしっかり受け継がれているんでしょうね。

吉田:ああ、そうかもしれない。

MEGUMI:きっとそうですね。娘たちの軸にはしっかり“ハンサム”があるんだと思います。

 

◆食事のシーンも見どころの1つですよね。

MEGUMI:私たち夫婦が京都から帰ってきたら、娘がサンドイッチを作って待っていてくれるというシーンがあるんです。でも、そのサンドイッチが監督のイメージとちょっと違ったみたいで。1時間ぐらい待ちましたかね?

吉田:待ったね。

MEGUMI:そんな“サンドイッチ待ち”があったり、あとはそれぞれ食べている具材の種類が違ったり、卵の状態が違ったりとか。とにかく監督のご飯へのこだわりがすごいことになっていたので、末端までチェックしていただきたいです(笑)。

吉田:僕はカレーを食べるシーンで、“食べるところ”じゃなくて“よそうところ”を何度も…よそい方、かける分量、かける場所が違うって、10テイクぐらいやらされたんですよ!(笑)

MEGUMI:ハハハ! 急に来るんですよね、そういうのが(笑)。

吉田:よそうのは難しくないからすぐできるだろうと高をくくっていた僕もうかつでした。その時に娘たちが「カレー! カレー!」と言って食べるんです。見ていてすごくおいしそうでしたし、やっぱりああやってむさぼり食うものだよなとあらためて思いました。

 

◆先ほどからお話をお聞きしていると、監督の“こだわり”に応えるのはかなり大変だったんですね。

吉田:でも、みんなそれができてしまう。だからお互いに褒めたたえずにはいられないんです。本来であれば1週間くらい前からでないと覚えられないようなとんでもない長ぜりふも、求められればすぐ覚えるわけですから。すごい奇跡が目の前で起きているなっていう。

MEGUMI:一番大変なのは、お父さんですから。それでもいつも完璧なので、本当に感動します。褒め合うというか、支え合って何とかやってきましたよね。

吉田:劇中で、千鶴の一番好きな人が源太郎ではなかったという驚がくの事実が判明するんです。じゃあ誰なんだというものすごくいいシーンも、直前で変わったもんね。

MEGUMI:全部変わりました。

吉田:MEGUMIさんが長ぜりふを10〜15分ぐらいで覚えて、ほぼほぼNGなしでやってのけたんです。あれは素晴らしかったです。お母さんの一番の見せ場ですよ? それを撮影当日に変えるなんて、まずありえないですよ(笑)。

MEGUMI:ありえないです、本当に(笑)。

吉田:僕らはもうそれに慣れているので、現場ではありえないとか言いませんけど。でもそれを当たり前のようにやってのけるって、本当にすごいことなんですよ。

MEGUMI:ありがとうございます。でも、お父さんはそれが毎回ですから。そうじゃなかったことが一度もないんです(笑)。

吉田:最後は必ず僕が説教をして締めないといけない。そこは必ず変わります(笑)。

MEGUMI:映画でも、最後のそのシーンが変わりましたよね。

吉田:そうだね、スケールが変わりました(笑)。

 

◆映画を通してあらためて感じた本作の魅力、そして源太郎が愛される魅力はどんなところにあると思いますか?

MEGUMI:源太郎さんは会社の人からの信頼もあって、英語もフランス語もできる知的な一面も持ちながら、娘のこととなると腹巻きとステテコでアイアンを持って出かけてしまう。外の顔とお家の顔があまりにも違うのですが、そこが両立されているところが魅力だと思います。そのハートフルさ、キュートさみたいなところが本当にすてきです。

吉田:人間的で、自分にも人にもうそをつかない。隠し事がなく、正直な人。なかなか難しいじゃないですか、そういう人になるのは。ある意味、スーパーマンですよね。この作品はそんな源太郎や家族の“何げない日常の物語”という触れ込みですけど、何げなくないような気がします。娘たちの言動にはいちいち考えさせられるし、そんな娘に対するパパからの言葉も深い。ちりばめられているエピソードも人間らしいですよね。

MEGUMI:なかなかない独特なドラマですよね。映画になっても大きい心の振り幅はないんですけど、クスッと笑えて。そういうものが蓄積されて気がついたら最後泣いてる、みたいな。それを組み立てる監督の脚本がまた秀逸で。源太郎さんが娘たちに対して、そして世の中に対して言っていることは監督の叫び。監督が今の世の中に伝えたい言葉でもあるんです。

吉田:この作品を見た後は、生きているということが悪くない、まんざらじゃないなと思えてくる。いろんな苦しみや悩みがあったとしても、それはきっとみんなも同じだし、いつか解決できるかもしれない。1人でくよくよ悩んでいてもしょうがない。家族も友達も同僚も、いろんな人がいるじゃん、と気付かせてくれて元気が出るんです。そんな風に不思議な高揚感が生まれて、ちょっと体が軽くなったように感じる作品は、実はそんなにたくさんはないんじゃないかなと。我ながらいい作品だと思いますね。

MEGUMI:その一方で、“くだらないな、このシーン”みたいなところもあって。“やってます”みたいに大げさにせずに深いところに響く作品って、なかなか作れないと思うんです。私たちも監督からよく「淡々と言う」ことをディレクションされていましたよね。

吉田:だからせりふ変更も、ちょっと確信犯的なところがあると思うんだよね。

MEGUMI:完成されすぎるのが嫌なんでしょうね。

吉田:そうそう、絶対そう(笑)。山口監督はいい意味でうまい芝居とか求めていないから。

MEGUMI:そうかもしれませんね。だって鋼太郎さんも私も、本当は結構アドリブを入れたいタイプじゃないですか(笑)。でも、この作品では封印していますから。ちょっとでもやったら「いらないです」と言われてしまうので。

吉田:封印、封印。もうやろうともしないもんね。

MEGUMI:実はそれくらい緻密に作り込まれているというのが、この作品のまた深いところだと思います。

 

PROFILE

吉田鋼太郎
●よしだ・こうたろう…1959年1月14日生まれ。東京都出身。出演作に『おっさんずラブ』シリーズの他、最近では「劇場版 君と世界が終わる日に FINAL」などがある。7/13(土)よりスタートするドラマ『GO HOME〜警視庁身元不明人相談室〜』(日本テレビ系)にも出演する。

MEGUMI
●めぐみ…1981年9月25日生まれ。岡山県出身。最近の出演作に、ドラマ『東京タワー』『あなたがしてくれなくても』、映画「愛にイナズマ」などがある。『上田と女が吠える夜』(日本テレビ系)などバラエティでも活躍。著書「キレイはこれでつくれます」「心に効く美容」が発売中。

 

作品情報

映画「おいハンサム!!」
2024年6月21日(金)全国公開

原作:伊藤理佐
脚本&監督:山口雅俊
出演:吉田鋼太郎、木南晴夏、佐久間由衣、武田玲奈、MEGUMI、宮世琉弥、野村周平、内藤秀一郎、須藤蓮、浅川梨奈、光宗薫、藤原竜也(友情出演)、六角精児、松下由樹、藤田朋子、ふせえり、中尾明慶、野波麻帆、太田莉菜、浜野謙太 ほか

(c)2024映画「おいハンサム!!」製作委員会

●text/山下紗貴