6月6日に敵地で行なわれたミャンマー戦で、森保一監督は積極的な「テスト」を敢行した。「攻撃的な3バック」という"発明"を生み、新たな顔ぶれをピッチに送り出している。すでに2026年W杯アジア最終予選進出は決めているだけに、選手層の厚みの向上や違ったフォーメーションに手を出す、そのトライそのものは自然だ。

 結果、日本はFIFAランキング163位の格下のミャンマーを難なく0−5で下している。

 代表2試合目(2019年にE−1選手権の香港戦でハットトリック)となった小川航基は、先発フル出場で2得点を記録した。後半にはパリ五輪世代のアタッカーだが、本大会出場は所属クラブとの関係で厳しい見込みの鈴木唯人もデビューを飾った。選手個人は才能の一端を見せ、テストは最悪ではなかったが......。

 得られた成果はシビアだった。チームは戦術的にはほとんど機能していない。

<代表キャップの少ない選手たちをピッチに送り出すにもかかわらず、新しい戦術フォーメーションで挑む>

 そこには二重の難しさがあったのだろう。


日本代表のミャンマー戦で攻撃の中心となっていた鎌田大地 photo by Kyodo news

 3バックとくくるべきか、4バックと記すべきかもわからないフォーメーションは、攻守の連動が雑だった。たとえば右サイドはそれぞれの選手がノッキング。菅原由勢と橋岡大樹は距離感もタイミングも悪く、簡単なパスもつながらない。堂安律は気の毒なほどだった。

 チグハグさが目立つ戦いによって、「森保ジャパンは、ピッチに立つ主力選手たちが戦術を運用していた」という現実が、白日のもとに晒されたと言える。

 バックラインは板倉滉、冨安健洋がコントロールし、防御の補強を遠藤航が担当。攻守のふたつを守田英正が連結させ、攻撃を司る鎌田大地が意表を突き、攻撃の牽引役としては久保建英、三笘薫がサイドに陣取る。前線ではパワーもある上田綺世が相手を脅かす。

 要所に彼らがいることによって、プレーの回路がつながって、お互いの技量を高めていた。彼らのほとんどがヨーロッパリーグやチャンピオンズリーグ(CL)を舞台に戦っている。その実力と経験で、代表を引っ張ってきたのだ。

【コンビネーションでの崩しは少ない】
 
 ミャンマー戦で先発した守田、鎌田のふたりは、実際に"違い"を示していた。

 守田はアンカーのようなポジションで、攻守一体の見事なプレーだった。攻撃の時には守備に備え、守備の時には攻撃に備え、不具合を起こし続けたチームをバックアップ。今シーズンはポルトガル王者に輝いたスポルティングに所属し、欧州の日本人選手のなかでトップ3に入るレベルの活躍をしており、格が違う。

 鎌田はイタリア、ラツィオで不遇をかこっていたが、CLベスト16のチームにおいて、監督交代以降は魔法を見せた。見えている景色が違う選手で、ひらめきは突出。ミャンマー戦でもシュートをお膳立てし、自ら際どいミドルも放って、サイドに流れて起点になる機転のよさも見せた。鎌田自身が攻撃戦術になっていた。彼がピッチから去ったあとの変化は顕著だった。元から空回りしていたが、どうにかつながっていた選手間の糸が緩み、切れてしまったのだ。

 森保ジャパンは、カタールW杯で攻撃を司っていた鎌田を代表メンバーから外してから、不調に陥っていた。アジアカップでも"不在の在"が顕著。実状は、「鎌田ジャパン」にも近い。

 ミャンマー戦は力の差が大きかったことで、最後はゴールラッシュによる完勝ムードだった。しかし、コンビネーションでの崩しは少ない。弱小な相手の致命的ミスに助けられながら、単純に高さで明らかに上回れるようになって、ゴールを決めた形だ。

 控えとして送り出された選手たちも力がないわけではないが、主力との差は歴然だった。

 たとえば小川のオランダでの11得点は立派と言える。しかし、リーグのレベルを考えた場合、他のFW陣と比べて目立つ記録ではないし、格下相手での得点が多かった。高さのある選手を試したかったのだろうが、待望されるポストプレーが得意なストライカーではない。ミャンマー相手ならゴールできたが、「W杯ベスト8への戦いの手がかりになるプレー」には......。はたしてテストは合格点だったのか?

 少なくとも変則的な3バックは不発だった。「本命の左サイドバックが不在で、右サイドバックが余り気味」というなかで生み出した苦肉の策だったのかもしれない。しかし選手同士の距離感があまりに悪く、最後まで答えを見つけられないままだった。2ゴールした中村敬斗の得点力の高さは出色だったが、あくまでそれは彼自身の高い個人戦術によるものだ。

 11日、広島でのシリア戦では選手の入れ替えが予想される。森保監督は主力と新戦力を融合させ、戦術を運用できるのか。ひとりひとりの実力を丁寧に見極めるべき、貴重な一戦だ。