阪急黄金時代の78年に入団し、以来、選手、裏方としてチームを支えてきた松本正志氏。その間、チームは多くの名プレーヤーを輩出してきたが、松本氏に投打それぞれの「ベスト5」を選出してもらった。また、阪急黄金時代と昨年までリーグ3連覇を達成した令和のオリックスの違いについても語ってもらった。

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通算284勝をマークした山田久志 photo by Sankei Visual

【異次元だった山田久志】

── 松本さんが見てきた、阪急、オリックスの投手ベスト5を挙げてください。

松本 まず通算284勝の山田久志さんです。私がプロ入りした前年まで3年連続MVPを獲得するなど、球史に残る大エースでした。ランニングひとつとっても、飛び跳ねるようなカッコいい走り方でした。瞬発力に秀でていたのでしょうね。アンダースローからの投球は、ピンポン球のようにフワッと浮き上がる。それでいてスピード、球威、コントロールを兼ね備えていて、またストンと落ちるシンカーは"伝家の宝刀"でした。

── 山田さんとの思い出に残る出来事は何ですか。

松本 1978年のヤクルトとの日本シリーズ第1戦は、6対5で山田さんの完投勝ちでした。9回裏二死満塁のフルカウントからファウルで5、6球粘られながら打ち取りました。あとで「山田さん、よくストライクが続くものですね」と言うと、「マツ、何言っているんだ。オレは目をつぶって投げてもストライクを取れるぞ」と。次元が違いますよね。山田さんが先発の試合は、ブルペンで控えるリリーフ陣はお休みでした。

── 2番目は誰でしょうか。

松本 やはり山本由伸(現・ドジャース)ですね。山田さん以降、「今日のブルペンは開店休業だな」と思わせる投手はなかなか存在しませんでした。そういう意味で、ふたりは別格です。由伸のストレートは最速159キロですが、捕手のうしろから見ると、スピード以上に重たそうな球質です。それにカーブは、打者の手前でグッと急に曲がる。ストレートの軌道が長いというか、打者にとってはボールの見分けがつきにくい。えげつない球でした。今季からメジャーに移籍し、すでに頑張っていますが、15勝ぐらいは勝つと思います。

── 次はどの投手でしょうか。

松本 山口高志さんです。私は「ストレートは誰にも負けない」と、自信を持ってプロ入りしたのですが、山口さんだけは別格でした。75年から4年連続2ケタ勝利の実績があって、身長は170センチにも満たないのですが、150キロを超えるスピードを出していました。当時、近鉄の監督だった西本幸雄さんの「高めのボール球に手を出すな」というアドバイスを聞かず、高めの球を空振りしてしまった羽田耕一さんがゲンコツを食うという逸話が残っているほど速い球でした。私が見てきたなかで、一番速いと思います。

── 山口さんに続く投手は?

松本 変化球で言えば、野田浩司のフォークもすばらしかったです。2022年に佐々木朗希くん(ロッテ)が1試合19奪三振をマークしましたが、それに並ぶ日本記録保持者が野田です。野田は優勝した95年、96年にも活躍して美酒を味わわせてくれました。

── 最後、5人目はどの投手でしょうか。

松本 星野伸之です。テイクバックが小さく、左腕が体に隠れて、球の出どころが見えませんでした。90キロ台の大きなカーブに、120キロ前後のフォークを織り交ぜ、130キロほどのストレートがとても速く感じました。いつも「なぜ打てないのだろう」と思っていました。

【球史に名を刻んだ5人の好打者】

── 次に阪急、オリックスの打者ベスト5をお願いしたいと思います。一番はどの選手ですか。

松本 イチローが断トツですね。彼が入団してきた時、私はすでに打撃投手を退いていましたが、練習を見ていると、フルスイングでもほとんどミスなくボールをとらえ、ほとんどがフェンス越えです。当時の打撃練習は5本打ったら交代でしたが、5球全部ホームランを繰り返すのです。メジャーのオールスターのホームラン競争に出たら、並み居るスラッガーたちと好勝負を演じていたと思います。オリックス在籍当初は「振り子打法」でしたが、試合ではタイミングを外されても泳がされることなく、バットがうしろに残ってヒットにしていました。

── イチローに次ぐ2番目は誰でしょうか?

松本 福本豊さんです。シーズン106盗塁(1972年)、13年連続盗塁王。足はもちろん速かったですが、盗塁は、ふつうの選手よりかなり手前でスライディングしていましたね。福本さんが四球で出塁して二盗、バントで三塁に送って、犠牲フライ。ノーヒットで先制点を挙げるのが、阪急黄金時代の得点パターンでした。また、最近では珍しい「スリコギ型バット」でボールにぶつけるように打って、通算208本塁打とパンチ力もありました。

── 次は誰でしょうか。

松本 吉田正尚(現・レッドソックス)です。正尚は四球が多くて三振が少なく、チャンスに強い。イチローや福本さんにも共通したのですが、チャンスに打てなくても「あいつが打てないのなら仕方ない」と思わせる打者でした。そのような雰囲気を醸し出しているのが、今なら森友哉です。昨年の西武との開幕戦で9回に同点本塁打。頼りになるところを見せてくれています。西武在籍時からいい場面で打つイメージがありましたが、オリックスに移籍してもそこは変わりません。

── 4人目をお願いします。

松本 加藤英司さんです。阪急黄金時代の不動の3番打者で、通算2055安打を放ち、首位打者2回、打点王3回。左打席から、内角低めの球をレフト前に持っていく技術の高い打撃が印象的でした。

── 最後の5人目はどなたになりますか。

松本 石嶺和彦です。彼は捕手で入団したのですが、左膝半月板を痛めてDHでの出場がほとんどでした。右手でリンゴを握りつぶしてしまうほどの握力、強いリストの持ち主で、パンチ力がすごかった。三振の少ない打者で、当時の日本記録である「56試合連続出塁」をつくったのも納得です。


今年3月末にオリックスを定年退職した松本正志氏(写真中央) photo by Sankei Visual

【阪急4連覇とオリックス3連覇を比較】

── 阪急4連覇の時代と、昨年まで3連覇のオリックスとの相違点は?

松本 阪急時代は福本豊さんや簑田浩二さんら1、2番に足があって、下位の打者もパンチ力があって、一発長打を秘めていました。大熊忠義さん、大橋穣さん、中沢伸二さんたちがそうです。現在のオリックスはデータを重視し、相手チームが嫌がる打順を何通りも考えている気がします。

── 今季は山本由伸投手、山崎福也投手の抜けた穴を誰かが埋めなくてはならないのですが、次から次と新しい戦力が出てくるイメージがあります。

松本 用具室に来た人と「チームが困ったとき、宮城大弥は頼りになる男だ。秘めているものの大きさを感じるな」と、いつも話していました。このまま順調にいけば、将来、間違いなく「ベスト5」に名を連ねる投手に成長してくれるでしょう。また昨年の開幕投手、新人王に輝いた山下舜平大にも可能性を感じます。

── オリックスは、個々の投手のパワー溢れるスピードボールに目を奪われます。

松本 私の仕事場だった用具室は選手ロッカーとトレーニング室の間にあるのですが、舜平大や東(晃平)はずっとトレーニング室にこもっていました。選手を獲得してくる編成部もすごいですが、小林宏二軍監督をはじめ、選手を育成するスタッフもすばらしい。好調な選手をすぐ起用し、使い切る中嶋監督との連携がいいのではないでしょうか。私の現役時代は、どこの球団も指導者に強制的にやらされる部分がありましたが、中嶋監督は自主性を重んじ、好調な選手にはしっかりチャンスを与えます。そうなると選手たちのモチベーションも上がりますし、相乗効果となって好結果につながったのだと思います。


松本正志(まつもと・しょうじ)/1959年4月2日、兵庫県生まれ。77年、東洋大姫路高3年夏の甲子園で全国制覇。同年秋のドラフトで阪急(現・オリックス)から1位指名を受け入団。1年目から一軍のマウンドを経験し、ジュニアオールスター、日本シリーズにも起用された。80年にプロ初勝利を挙げるも、その後は故障もあって登板機会に恵まれず、87年に現役を引退。 引退後は用具係としてチームを陰で支えた。今年3月末、定年により退職した