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ChatGPTで生成AIブームの火付け役となった、米スタートアップ企業のオープンAI(OpenAI)。ところが今、オープンAIのリスクに対する考え方を懸念する声が広がっています。

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というのも、オープンAIが同社の安全対策を担う「スーパーアライメントチーム」を解消したことを、2024年5月17日付で複数の米メディアが報じたからです。

この報道に先立ち、米GizmodoはオープンAIの社員10名が続々と辞めていったことを突き止めていました。その中にはスーパーアライメントチームの双璧をなしたイリヤ・サツキバー氏とヤン・ライク氏も含まれており、いずれもオープンAIの最新AIモデル「GPT-4o」を発表した翌日に退社を表明しています。

オープンAIがスーパーアライメントチームを立ち上げたのは2023年7月。わずか10ヶ月ほどで解消せざるをえなかったほど、機能不全に陥っていた内情が伺えます。

ところで、そもそもスーパーアライメントチームの果たすべき役割とはなんだったのでしょうか?

AIアライメントって?

AI業界でいう「アライメント」とは、「AIモデルに人間の価値観や目標を埋めこんで、可能なかぎり有用で安全かつ信頼できるものにするプロセスのこと」(IBM Watson Blogより抜粋)です。

あえて別の言い方をすれば、AIモデルを制御し、人間の意図に反して暴走しないように食い止める方法を見つけることがスーパーアライメントチームの役割だったのです。

人知を超えた「超知能」を制御できるか

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オープンAIが掲げている目標、それは人間の知能をはるかに凌駕する汎用人工知能(Artificial General Intelligence: AGI)を開発すること。

しかしながら、このようなAGIを制御できる技術を人類はまだ手にしていないとも自社ブログで説明しています。だからこそ、スーパーアライメントチームを設立し、技術的・科学的な革新を目指したのです。

OpenAIいわく、

人間の知性をしのぐ「スーパーインテリジェンス」は、人類が発明したテクノロジーの中で最もインパクトの大きいものとなり、社会の最重要課題を解決していくうえで役立ってくれるでしょう。しかし、スーパーインテリジェンスの強大な力は同時にとても危険かもしれませんし、人類の無力化、果ては人類の滅亡にもつながりかねません。

このような汎用性人工知能の到来は、まだまだ先のことと思われるかもしれません。けれども、私たちは今後10年以内には実現すると考えています。

これらのリスクを踏まえ、私たちはスーパーインテリジェンスのアライメントという課題──どうやったら人間よりもはるかに賢いAIシステムが人間の意図に従うことを保証できるか?──を解くために、新しい機関を設立する必要があります。

舵取りに内外から批判

問題は、AIの安全性を重視するか、または事業拡大を重視するかで、サム・アルトマン氏率いるオープンAIの経営陣とスーパーアライメントチームとの意向が食い違っていたことにあるようです。

ライク氏は、オープンAIがスーパーアライメントチームを解消した翌日に、「会社の中核となる優先事項をめぐって経営陣とかなり長いこと意見が合わなかったが、ついに限界点に到達した」とXに投稿しています。また別の投稿では、オープンAIの経営陣がAIの安全性を軽視しているとも批判。

その後の投稿で、ライク氏は米Anthropic(アンスロピック)に就職したと報告しています。アンスロピックはオープンAIを離脱したアモデイ氏らにより2021年に設立された競合企業である点も興味深く、かつてはオープンAIとの合併説も出ていました。

人間より賢いAI≠有用ではないかもしれない

Image: Google Geminiを使って生成

「AI」という言葉を耳にしない日はないぐらい、AIブームに沸く昨今。

実際に使ってみると、難解な書類をサクッと要約してくれたり、自分の好みに合った音楽や情報を届けてくれたりと、たしかに生活を彩る便利機能が満載です。

でもこのままAIがどんどん賢くなっていって、やがて人間の知能を超越したとしたら、どのようなリスクが想定されるのでしょうか?

ジェフリー・ヒントン氏。コンピュータ科学および認知心理学の研究者。ニューラルネットワークの研究を行なっており、AI研究の第一人者
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この点については、「AI研究のゴッドファーザー」と呼ばれるトロント大学のジェフリー・ヒントン名誉教授が日経新聞のインタビューで語っていた内容がひときわ印象的なので、ここに引用します。

──なぜAIが人類を脅かす可能性があると思うのか。

「AIに目標を与えた場合に、解決策として人間に不都合な方法を見つけ出すかもしれないためだ。」

マイクロプラスチック問題を解決して!とAIに頼んだとして、もしAIが「そうか、人間がいなくなればプラスチックも生成されなくなるじゃないか」と考えたとしたら…?

人間よりも賢いAIですから、人間がどんなに説得しようとしても、逆にAIに論破され、操られてしまうかもしれません。

ヒントン氏の教え子であるイリヤ・サツキバー氏も師の憂いを共有しているからこそ、オープンAIを去ったのかもしれません。AIのリスク規制はオープンAIだけの問題ではなく、各国の政府にも対応が迫られています。

Source: IBM, OpenAI, 日経新聞
Reference: Business Insider, CNBC, Bloomberg