シンガーのAimerが、新EP『遥か / 800 / End of All / Ref:rain -3 nuits ver.-』を6月5日にリリースした。収録曲それぞれが全く異なる色を持った新EPはいかにして生まれたのか。6月15日からは5年ぶりの海外ワンマンライブツアー「3 nuits tour 2024」も決定しているAimerに、楽曲制作の裏側から心境の変化、そしてライブへの意気込みまでを訊いた。

関連記事:Aimerが語った「歌をデザインする」の真意

ーニューEPは4曲入りですが、それぞれの楽曲から全く異なる印象を受けました。本EPはどのように制作を進めていったのでしょうか?

実は、いつもはコンセプトを決めてからメインとなる楽曲を制作して、そのメインの作品に通じるような楽曲を作っていくという手順が多いのですが、本EPは1曲1曲の曲調も表現方法も声色も、とても振り幅のある楽曲たちが散りばめられています。唯一共通点があるとしたら、「その時々で自分がベストだと思える作品」を作ったところでしょうか。「コンセプトがないことがコンセプト」というような、今までにないEPになりましたね。

ーアートワークもどこか雑然としているというか、これまでのAimerさんの作品とは異なる印象を受けました。

そうですね。「800」と「遥か」はデジタル・リリースしていて先にジャケットが完成していたこともあって、「このままだとEPにする必然性が薄いな」と感じていました。そんなとき、アートディレクターの方がこの美術室の案を送ってくださって。先ほども言ったように1曲1曲が全然違って、感覚的には「違うキャンパスにそのときの気分で選んだ筆で絵を描いていった」という感じだったので、美術室はそれを表現できて良いなと思いました。「800」と「遥か」のジャケットがそのまま美術室に飾られているのも、そういう意図が隠されています。


『遥か / 800 / End of All / Ref:rain -3 nuits ver.-』のアートワーク

ーなるほど。

アートディレクターの方は私がデビューしたときからずっと一緒にやってくださっている方で、今回も本当に助けられました。このアートワークのお陰で”1つのEPにまとめる意味”がちゃんと生まれたと思います。

ーAimerさんにとって新たな試みだったんですね。「その時々で自分がベストだと思える作品」とのことでしたが、それぞれどんな思いが込められているのか教えていただけますか?

EP1曲目「遥か」は、TBSドラマストリーム・映画『からかい上手の高木さん』のタイアップ曲なのですが、実はこの楽曲でも、新たな試みができました。原作コミックを読ませていただいたのですが、一言で言うととてもピュアな作品だと感じたんですね。主人公の学生2人の関係性や、やり取りがとてもかわいらしくて。そんな2人の関係性や作品の良さを楽曲で表現するにあたって考えたのは、2人の関係性の背景にあるもの。2人が住んでいる町は、バスに乗ったら海に行けたり、周りに山があったり、気軽に神社に寄れたりするところなのですが、2人のこの絶妙な距離感の関係性は、そういった環境が生んでいるものでもあるのかな、と思って。例えば、すごい高層ビルがたくさん建っていて周りに自然があまりなくて……みたいな場所だったら、この関係性は生まれていない気がしたんです。なので、その2人を作り上げている気持ちの良い景色を楽曲で表現したいと思って。もっと具体的に言うと、リスナーの頭に”海が見える街”がパッと浮かぶような感じを表現したかったんです。そこで試したのは、音数を減らして空間の広がりを表現するということ。この手法は「リスナーの近くで鳴っているような音楽」を作りたい場合によく使われるものですが、逆にそれで広がりを表現するというのはあまりないし、自分にとっても初めての試みだったので面白かったです。

ー確かに「遥か」はどんな環境で聴いていても、空間の広がりを感じる楽曲ですよね。では、「800」についてはいかがでしょうか?

「800」は映画『マッチング』のタイアップ曲ですが、これは「遥か」と打って変わって、混沌や不条理がテーマの楽曲です。『マッチング』のプロットを読ませていただいたのですが、「自分ではコントロールできないことに巻き込まれていく様子」が印象的だったので、それを歌詞やサウンドで表現できるようにこだわりました。日常でも「不条理を前にしたとき状況をコントロールできないから、自分の捉え方をコントロールするしかない」みたいな場面ってみんなあると思うんです。ただ、自分の捉え方をコントロールする場合、逆に自分の本心を見失ってしまうこともある。そういった経験は私にももちろんあるし、自分の心をコントロールするのは未だに修行中なので、そこから着想を得て歌詞を作りましたね。

ーAimerさんも”修行中”だとは、驚きました。ちなみに、タイアップ曲の場合作品にマッチさせることを意識されると思うのですが、Aimerさんはご自身との繋がりも意識されているのですか?

そうですね。自分とのつながりが1ミリでもいいからないと、表現できないというか……。そうじゃないと自分に無理をしている感じがするので、少しでも繋がりを見つけるようにしています。

ーなるほど。「End of All」はオープンワールドRPGゲーム『原神』のオンラインイベント『原神新春会 2024』での歌唱曲ですが、こちらについてはいかがでしょうか?

「End of All」に関しても、お話をいただいて、まずは『原神』をプレイしてみたのですが、とても面白くて衝撃的で。映像が非常に美しいし、世界観がものすごく壮大で、衝撃を受けました。一度ハマったら、別のことをやる時間が無くなっちゃいそう(笑)。

ー(笑)。特にどんなところに魅力を感じたのでしょうか?

ざっくり言うと『原神』は、「事件が起こってある人を救いに行く旅を始める」という内容なのですが、その先のストーリーも今いる世界すらもわからなくて、その未知な感じにすごく惹かれて。強いて言えば、私自身、今までいろんなカラーの曲をいろんなクリエイターの方の力を借りながら自分の歌声1つで旅してきたようなものなので、どこかシンパシーを感じたんだと思います。それに、『原神』という新たな作品に導かれて曲を作るというのもある種の旅のような感覚で、そこにも魅力を感じましたね。

ー「歌声で音楽の世界を旅する」、とても素敵です。では4曲目の「Ref:rain -3 nuits ver.-」についてはいかがでしょうか?

この曲は、元々2018年にリリースした「Ref:rain」をリアレンジしたバージョンです。実は自分でも意外だったのですが、日本以外のアジア圏で「Ref:rain」を好んでくれているリスナーがたくさんいらっしゃるらしいんです。「Ref:rain」は素直なバラードなのですが、もっとキャッチーな楽曲やアニメのオープニング曲などが人気なのかなと思っていたので、驚いたと同時にすごくうれしくて。私自身とても気に入っている曲なので、今回リアレンジバージョンを制作しました。リリースが6月で日本はちょうど梅雨の時期なので、時期的にもぴったりな楽曲に仕上がっていると思います。

ーちょうど海外のお話も出たので、6月15日から上海・台北・香港で行われる海外ワンマンライブツアーについても伺いたいです。今のお気持ちは?

純粋にとてもうれしいです。アジアを回るのは今回が3回目なのですが、初めてのライブでオーディエンスが大合唱してくださったことにとても驚いたんです。文化の違いという意味でもそうですが、それよりも前提として海外で聴いてくださっている人がいるだけで、私としては不思議な感じなんですよね。

ーコロナ禍を経て5年ぶりの海外ツアーということで、より盛り上がりそうですね。

ありがとうございます。前回・前々回、ファンの方々がスタンドフラワーや横断幕を用意してくださったことにもとても驚きました。正直なところ、「海外にリスナーがいてくれている」ということに対して、まだどこか半信半疑みたいなところがあるのですが……。なので、今回のツアーではその半信半疑な気持ちを確固たるものにして、「海外にも居場所がある」という感覚を味わって帰ってきたいなと思います。

ーいいですね。では、どんなツアーにしたいか、ちょっとだけ教えていただけますか?

ネタバレしたくないので詳しくはお伝えできませんが、私のベストのようなセットリストを組む予定です。会場に来てくださるオーディエンス全員、好きな曲が1曲は必ずあるというような内容になるんじゃないかな。

ーそれはとても楽しみです。過去の楽曲を振り返っても、Aimerさんは挑戦や新たな試みを定期的にされている印象がありますが、今後のビジョンについてもお聞かせいただけますか?

冒頭でお話したように、本EPは「コンセプトを決めない」という点において、新たな試みができた作品なのですが、これはいい意味でこだわり方が変わってきたということなんです。これまでは「自分の色を出すためにどういうことをするか」をすごく考えていて、ある意味で自分の枠を決めて、その中で作品を作っていた感覚があったんです。でも、今は何か一つにこだわるというより、もっと自分がワクワクする良い曲を作ることにこだわりたくなりました。自分の家というパーソナルスペースで制作していることや根本にあるものに変わりはないのですが、もっといろんなキャンパスに、これまで使ったことのない色を使って描いてみたくなったという感じです。

ーその変化には、何かきっかけがあったのでしょうか?

2021年でデビュー10周年を迎えて以来、自分の新しい引き出しを積極的に作っていきたいという気持ちがどこかにあるのかもしれません。今は新しい自分の色や筆みたいなものを見つけることに前向きになれるように、自分を鼓舞している感じかな。新しい選択肢を手に入れることで、今後の自分の糧になる気がするんです。

ー鼓舞という言葉が出ましたが、Aimerさんでも、未だに制作で思い悩んだりされることもあるのでしょうか?

そうですね。基本的にはこの辺(心臓あたりを指差しながら)を削って、それを作品として差し出している感覚なので、削りすぎて減ってきたら1回休むようにしています。あと、たとえば日常の些細なことでも、これ以上進んでもきっとダメだと思ったら、とにかく早く寝る(笑)。最近は幽霊が怖くてあまり寝付けないのですが……。

ー幽霊(笑)? 見たんですか?

前に1回だけ遭遇したことがあって……。って、話が逸れました(笑)。今後の活動については、今制作中の曲などもあるので、ぜひ楽しみにしていてほしいです。

<リリース情報>



Aimer
NEW E.P.『遥か / 800 / End of All / Ref:rain -3 nuits ver.-』
発売日:2024年6月5日(水)
CD予約はコチラ https://aimer.lnk.to/20240605_EP
仕様・品番・価格
・初回生産限定盤(CD+Blu-ray) VVCL2500-2501 / \3,080(tax in)
「Ref:rain -3 nuits ver.-」Music Video 収録 Blu-ray 同梱
特装オリジナルパッケージ仕様
・通常盤(CD) VVCL2502 / \2,200(tax in)
=収録楽曲=
・遥か(TBS ドラマストリーム『からかい上手の高木さん』主題歌/映画『からかい上手の高木さん』主題歌)
・800(映画『マッチング』主題歌)
・End of All
・Ref:rain -3 nuits ver.-
・各曲Instrumental

<ライブ情報>



Aimer ワンマンライブツアー 「Aimer 3 nuits tour 2024」
▼上海公演
2024年6月15日・16日(土・日)
会場:Mercedes-Benz Arena/上海梅赛紱斯-奔驰文化中心
https://weibo.com/u/2726846733
▼台北公演
2024年6月22日・23日(土・日)
会場:NTSU Arena(林口體育館)
時間:OPEN 17:00 / START 19:00(※現地状況により変動の場合があります)
プレイガイド:KKTIX https://kktix.com/
http://www.facebook.com/amusetaiwan
主催 Amuse Entertainment Taiwan/Bin Live
お問い合わせ:info@tw.amuse.co.jp
▼香港公演
「Aimer 3 nuits tour 2024」香港公演
2024年7月9日(火)
会場:AsiaWorld-Expo, Hall 10
時間:OPEN TBD / START 20:00(※現地状況により変動する場合があります)
チケット:HKD 1380 / 1080 / 780
プレイガイド:KKTIX https://kktix.com/
主催:ELF ASIA/Amuse Hong Kong
お問い合わせ:enquiry@elf-asia.com

Aimer2024年秋全国10都市19公演ホールツアー
2024年
10月25日(金)10月26日(土)市川市文化会館 大ホール(千葉県)
11月2日(土)11月3日(日祝)神戸国際会館こくさいホール(兵庫県)
11月30日(土)12月1日(日)仙台サンプラザホール(宮城県)
12月6日(金)12月7日(土)愛知県芸術劇場大ホール(愛知県)
12月14日(土)12月15日(日)パシフィコ横浜 国立大ホール(神奈川県)
2025年
1月12日(日)1月13日(月祝)福岡サンパレスホテル&ホール(福岡県)
1月25日(土)1月26日(日)ロームシアター京都 メインホール(京都府)
2月1日(土)高崎芸術劇場 大劇場(群馬県)
2月21日(金)2月22日(土)フェスティバルホール(大阪府)
3月8日(土)3月9日(日)東京ガーデンシアター(東京都)
チケット価格:【全席指定】8800円(税込)
ライブ情報詳細:https://www.aimer-web.jp/live/