林陵平がレアル・マドリードCL優勝の理由を解説「勝負強さ、歴史の重み、監督の力も感じたシーズン」
林陵平のフットボールゼミ
欧州最高峰を決めるチャンピオンズリーグ(CL)の決勝は、スペインのレアル・マドリードが2−0でドイツのドルトムントを下し、15回目の優勝を決めた。試合のポイントとなった前後半の戦術を人気解説者の林陵平氏に教えてもらった。
マドリードに戻っての優勝パレードでトロフィを掲げるレアル・マドリードの選手たち photo by Getty Images
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――決勝戦は、どんな試合だったと感じましたか?
ドルトムントは、前半のうちに点を決めたかったですね。内容がよかっただけに、そこで決めきれなかったのは痛かった。
後半になるとレアル・マドリードが少し形を変えて、そこからは自分たちのやりたいことができるようになり、トニ・クロースのセットプレーからゴールを決めました。追加点もしっかり奪って、勝負強さが目立ちましたね。
――スタメンを見ての感想はいかがでしたか?
ドルトムント側は、ここ最近採用している4−3−3。レアル・マドリード側はどういうシステムを採用してくるかなと思ったんですけど、前半は守備の形が4−4−2でした。状況に応じてフェデリコ・バルベルデとジュード・ベリンガムが中に入ってくる形でしたね。
――では、ここから戦術の解説をお願いします。
前半は、立ち上がりからレアル・マドリードがボールを保持してずっと攻め続ける構図になるのかなと思っていたんですけど、意外とドルトムントのボールの保持も長かったです。
ニコ・シュローターベックとマッツ・フンメルスのふたりのセンターバック(CB)に対して、レアル・マドリードはロドリゴとヴィニシウス・ジュニオールがプレッシャーをかけていたんですけど、この時ドルトムントはアンカーのエムレ・ジャン、GKのグレゴール・コベルも加わった台形で4対2の状況を作っていたので、ボールをロストすることなく保持できた。それがすごく大きかったという印象です。
一方のレアル・マドリードは、4−4−2の形からエドゥアルド・カマヴィンガがアンカー気味で、クロースが状況に応じて左に降りて、左サイドバック(SB)のフェルラン・メンディが高い位置を取る。ベリンガムとバルベルデは中に入ってくる。
あとはヴィニシウスですね。今回は彼が真ん中なのか左ウイングでプレーするのかすごく注目されたんですけど、やはり左の大外に立ってロドリゴが中に入ってくる形でした。なので、右サイドは高い位置に人がいない。左サイドはすごく人が多くなるような構造でビルドアップをしていました。
【カウンターでビッグチャンス】レアル・マドリードのビルドアップに対して、ドルトムントはあまり前からプレッシャーをかけずに、4−1−4−1のミドルブロックで構えた。前半はこれがうまくはまっていました。
レアル・マドリードとしては、ドルトムントがミドルゾーンにブロックを作ったので後ろでボールを持てるんですけど、そこから中盤のバルベルデやベリンガムになかなかボールを入れられなかった。
これはユリアン・ブラントが背中のバルベルデへのパスコースを消しながら前線にプレッシャーをかけたり、マルセル・ザビッツァーも同じくベリンガムへのコースを消しながら行くという、インサイドハーフふたりの振る舞いがすばらしかったからです。
あとは両ウイングのカリム・アデイェミとジェイドン・サンチョも、ブラントやザビッツァーが前に出た時には中を閉めていたんですよ。だから、やはりバルベルデとベリンガムへのパスコースが消されて、レアル・マドリードは外回りのパスになってしまいました。
ドルトムントはこうして4−1−4−1のブロックからいい守備ができた時に、ボールを奪った後カウンターに出て行けました。チャンスを作り出したのは、フンメルスがボールを保持して少し運んだところから、アデイェミが抜け出してGKと1対1を迎えた場面。その後も、高い位置でイアン・マートセンが奪い返してスルーパスを出し、ニクラス・フュルクルクの抜け出し。左足のシュートは右ポストに当たりました。
振り返ってみると、このふたつチャンスのどちらかを決めたかった。前半に関しては本当にドルトムントペースで、いい守備からいい攻撃という、狙いとしたプランで進められましたよね。
【レアル・マドリードは後半形を変えて流れを作る】――では、そこから後半はどのように変わったのでしょうか。
後半は、レアル・マドリードが機能不全になっていたので、どう変えてくるかがポイントでした。
クロースをアンカーにして、カマヴィンガを左のインサイドハーフ、右はバルベルデ。ベリンガムをトップ下に置くような形に変えてきましたね。攻撃時にはヴィニシウスが左側の幅を取り、ロドリゴが前半には誰もいなかったポジションの右側に行った。ベリンガムはゼロトップのような形で、相手の2ライン間に顔を出すようになり、それがうまく機能していたと思います。
守備時は4−1−4−1のような形になり、ドルトムント側もふたりのCBがフリーになってボールを持てるようになったんですけど、前線にボールを入れられなくなった。レアル・マドリード側の守備の改善です。前半の4−4−2から4−1−4−1の形で中盤の横幅を5人で守ることによって、中へのパスを入れにくくしましたよね。
それでもドルトムントは、アデイェミのクロスからフュルクルクが外に流れてヘディングシュートの決定機がありましたが、GKティボー・クルトワが防きました。前半の1対1の対応もそうですが、クルトワは本当に安定感があった。壁みたいで、「簡単にゴール入らないな」と感じさせた彼の活躍は、本当にすばらしかったです。
こうしてレアル・マドリードは、冷静にずっとゼロで抑えたのがすごく大きかった。そして後半形を変えてある程度流れを持ってきたなかで、クロースのコーナーキックから先制点を奪いました。
ニアサイドでダニエル・カルバハルがヘディングで決めましたが、カルバハルはその前に同じ形でヘディングシュートを1本打って外していました。つまり、ドルトムントとしては、再現性ある形で2度やられてしまった部分は痛かった。ただ、ここで数少ないチャンスをしっかり決めるあたり、もう本当に勝負強さです。「レアル・マドリードがレアル・マドリードである理由」というのが、すごくわかるシーンでした。
その後の2点目のところは、マートセンのミスになると思うんですが、フンメルスに横パスを出そうとした時に、シュロッターベックの後ろにいたベリンガムが見えなかったようですね。
その横パスをベリンガムがカットして左へ冷静に送り、ヴィニシウスがしっかり左に流し込むゴールだったんですが、このシュート、よく見たらダフっているんです。打ち損ねたというか、あれは狙ってはいないんですよ。それでも入るのがやっぱりスーパースターだと思うんですよね。
あの時間帯にあの形で冷静に決められるあたり、今のヴィニシウスは本当に乗ってるなと。どんなシーンでも1対1って緊張するものですけど、今の彼の決定力は本当に凄まじいなと感じさせるシーンでした。
【レアル・マドリードの強さは歴史の重み】――レアル・マドリードのこの強さとは、何なんでしょう?
これはもう歴史ですね。言葉には言い表わせない。普通のチームだったら前半はあれで失点してやられてるんですよ。だけどやはりゼロで抑えてしまうし、あんまりギアが上がってないなと思っても、結局最後勝っているのがレアル・マドリード。もう、こればかりは言語化できない、歴史の深みであったり、重みであったり、そこの強さがあります。本当に勝負強い。
――カルロ・アンチェロッティ監督は、点が入っても、タイムアップの瞬間も全然表情を変えていなかったように見えました。
あれがアンチェロッティですからね。チームのボスで、いつも冷静です。選手って意外と試合中とか1プレーが終わった時に監督の顔を見たりするものです。その時に常に堂々と変わらないと、選手たちも安心してプレーできます。
レアル・マドリードは、負けなしでCLに優勝したのは初めてだそうです。15回目の優勝もすごいことですけど、負けないでCL制覇というのも、本当に今季のレアル・マドリードを象徴していると思います。ラ・リーガでもズバ抜けて強い力を見せて優勝しましたし、今季は本当に強かった。
――林さんがこの試合のプレビューで「レアル・マドリードは形がないのがスタイルだ」と話されていましたけど、そうしたチームが頂点を取るというのは潮流ですかね?
いや、これはレアル・マドリードにしかできないですし、やはり後半とかも配置を変えたりしていますよね。アンチェロッティ監督も、アシタントをされている息子のダビデ・アンチェロッティコーチもそうですが、修正が早いなと。形がないように見えて、修正が早く、そこでまた形が変わってくる。監督の力というのも、すごく感じたシーズンではありましたね。