今年のGI安田記念(6月2日/東京・芝1600m)には、2018年以来6年ぶりに外国馬が参戦する。香港調教馬のロマンチックウォリアー(せん6歳)とヴォイッジバブル(せん6歳)の2頭だ。

 安田記念では1993年に外国調教馬に門戸が開かれて以降、外国調教馬は3頭が勝利を収めている。そのうち、2頭が香港調教馬である。

 そして、今年来日した2頭もそれらと比較して、遜色ない実績の持ち主だ。迎え撃つ日本勢にはマイル路線における絶対的な存在がいないとあって、これら香港からの"刺客"に熱い視線が注がれるのも無理はない。

 しかし、香港と日本とでは馬場が異なる。輸送もあり、環境も違う。香港馬2頭の下馬評は高いが、はたして慣れない日本の地で本当に勝ち負けを演じることができるのだろうか。


現在、GI4連勝中のロマンチックウォリアー photo by Tsuchiya Masamitsu

 ロマンチックウォリアーは、アイルランド産の6歳馬。初陣は3歳秋だった。日本と比較してデビューは遅く、6歳とはいえ"今が旬"と言ってもいいだろう。

 その証拠に、目下GI4連勝中。昨年10月にはオーストラリアに遠征して、GIコックスプレート(ムーニーバレー・芝2040m)を香港調教馬として初めて制している。

 ただ気になるのは、4連勝したレースがすべて2000m〜2040mのレースであること。マイル戦の速い流れに対応できるのか、不安が募る。が、同馬を管理するダニー・シャム調教師は、そうした周囲の心配を一笑に付した。入念な研究を重ねたうえで、安田記念参戦を決めたという。

「安田記念は、コテコテのマイラーよりも、もう少し長い距離でも走れる馬が好走しやすい。それでいて、スプリント戦の実績もあると、なおよかったりする。そう考えると、この馬には安田記念が合うと思った」

 確かに、過去に安田記念を勝った香港馬を見ても、2006年の勝ち馬ブリッシュラックは2000m戦で何度も勝ち負けを演じていた。

 それに、ロマンチックウォリアー自身、今でこそ2000m前後のレースを主戦場としているが、デビューから3戦は1200m戦。4戦目も1400m戦だった。しかも、それらレースをいずれも強い内容で勝っているのだ。

 それゆえ、そのデビュー4連勝で手綱を取っていたジョアン・モレイラ騎手も、こう言って太鼓判を押す。

「(ロマンチックウォリアーは)スプリンターとしても、申し分のない能力の持ち主だと思いましたよ。だから、安田記念への参戦は間違いなくいいチョイスだと思う」

 さらに、同騎手はこう続けた。

「(自分が今回騎乗する)ソウルラッシュ(牡6歳)もいい馬だけど、正直、ロマンチックウォリアーを負かすのは、簡単なことではないと思っている」

 実際、来日後のロマンチックウォリアーの状態は申し分なく、臨戦態勢は整っているようだ。それは、シャム調教師の言葉からも伝わってくる。

「以前は日本に着いたら、まずは競馬学校で数日過ごして、そこから東京競馬場へ移動。馬への負担が大きかった。それが今は、東京競馬場に直接入厩できるようになったので、思いどおりの調整ができている。(周囲の期待に)応えられる状態にはあるので、いい結果を出さないといけないと思っている」

 今年に入って、消化したレースはわずか2戦。過去、安田記念に参戦してきた香港馬にありがちな、シーズン末期の"出涸らし状態"とは一線を画すロマンチックウォリアー。むしろ、ここを狙いすましてきた感があり、戴冠を遂げる可能性は大いにある。

 一方、ヴォイッジバブルはどうか。

 表記は6歳だが、オーストラリア産のため、実質的には現在5歳後半にあたる同馬。これまでに獲得したGIタイトルはひとつ。それも、香港マイル王のゴールデンシックスティ不在の香港スチュワーズC(1月21日/シャティン・芝1600m)での勝利ゆえ、一枚落ちの存在に見えるかもしれない。

 しかし、4歳時の香港のクラシック(香港のクラシックは3歳ではなく4歳時)三冠では、香港クラシックマイル(シャティン・芝1600m)と香港ダービー(シャティン・芝2000m)を制覇。香港調教馬のみで争われるために国際格付けはないが、クラシック二冠馬と思えば、相当な器だ。

 事実、昨秋のGI香港マイル(シャティン・芝1600m)では、ゴールデンシックスティの2着と奮闘。今回の安田記念で有力視されている日本馬、ナミュール(牝5歳)、ソウルラッシュ、セリフォス(牡5歳)らにも先着している。また、今年のGI香港ゴールドC(2月25日/シャティン・芝2000m)では、ロマンチックウォリアーにクビ差まで迫った。

 こうした戦績を鑑みれば、ヴォイッジバブルも侮れない。ロマンチックウォリアーと同様の注目を集めたとしても、決して過大評価とは言えない。

 同馬も、来日後の状態は悪くない。陣営は「できれば、(追い切りを行なった)木曜日の馬場状態がベスト。雨はあまり降ってほしくない」と、ある程度の高速決着にも自信を見せる。

 過去に来日した香港馬に比べてもかなり注目度が高い2頭だが、その評判どおりの結果を残しても何ら不思議はない。