プロ4年目の今シーズン、大きな期待をかけられながらも真価を発揮できずにいる阪神・佐藤輝明。1年目の2021年は打率.238ながらも、24本塁打、64打点を挙げ、昨季も打率.263、24本塁打、92打点とまずまずの成績を残し、18年ぶりのリーグ制覇に貢献した。しかし、今季はここまで(5月31日現在)打率.209、3本塁打、17打点と精彩を欠き、5月15日に二軍降格となった。いったい、サトテルに何が起きているのか? これまで名コーチとして数々のスラッガーを育ててきた伊勢孝夫氏が、サトテルの現状について解説する。


現在、二軍調整中の阪神・佐藤輝明 photo by Koike Yoshihiro

【なぜ豪快なバッティングは消えた?】

 1年目のサトテル(佐藤輝明)は、それはすばらしい打者だった。思い出すのが、ベルーナドームでの西武との交流戦だ。投手は記憶していないが、打球の軌道ははっきり覚えている。右投手の真ん中寄り、ベルト高さのカット系のボールだった。やや甘かったとはいえ、ナタを振り下ろすような豪快さで引っ張ると、打球は瞬時にライトスタンド上段に消えた。ドーム球場であるにもかかわらず、「場外まで飛んでいくんやないか......」と思わせる豪快な一発だった。

 ところが2年目、3年目と、時間の経過とともにあの豪快さが消えてしまった。少なくとも私の目にはそう映っている。

 では、豪快さを失ったのはなぜか? それは打率を意識して確実性を求めるあまり、持ち前の思い切りのいいスイングを忘れてしまったためだ。

 彼の得意なポイントは、真ん中からやや外。もちろん相手バッテリーも十分に理解しており、サトテルに対してはインハイを攻めて、最後は低めの変化球で打ち取ろうとする。サトテルにとって問題なのは、インハイの球を必死になって打とうとしていることだ。投手からすれば、インハイは見せ球であり、ボールになってもいいと思って投げている。そんな球を狙っても打てるはずがない。

 それで結果が出ないとなると、さらに難しいボールを打ちにいこうとして、フォームを崩す。もちろん、彼もいろいろ考えて打席に入っているのはわかる。タイミングの取り方を変えてみたり、バットの出し方、スタンスの幅を変えてみたり......試行錯誤しているのはわかるが、それがバッティングをより難しくしているように思えてならない。

 ただ今季に限っては、技術的な問題もさることながら、気持ち的に乗っていないように映る。集中力を欠き、「ボール球を捨てろ」と言ったところで聞かないだろう。

 ファームでの試合も見ているが、相変わらず精彩さを欠いている。二軍調整を命じられた際、「ボール球に手を出すな」という指摘があったと聞くが、改善されているとは思えない。

 そもそも二軍行きは、打撃よりも守備で拙いプレーを立て続けにやってしまったことへの懲罰的な措置だったわけだが、ファームの試合でもミスをやらかしていた。あれで最短10日での一軍昇格が消えてしまった。

 では、どうしたらサトテルは蘇るのか。

 答えは単純明快。原点に戻ることだ。具体的に言えば、全部の球をヒット、ホームランにしようと思わないことだ。ひたすら来た球を打つ。それだけに集中することだ。おそらく、新人の時はそうだったはずだ。

 以前、彼の出身である近畿大の関係者と話したことがあるが、サトテルは大学時代からインハイは打てなかったという。大学でできなかったことを、プロでそう簡単にできるはずがない。

 弱点を克服しようとする意識は大事だが、それに固執して、打てていたはずの球までとらえられなくなってしまっては本末転倒である。では、インハイはどうすればいいのかだが、結論から言えば"捨てる"しかない。とにかく打てる球だけをひたすら待つ。それだけでも変わるきっかけにはなるはずだ。

【ほめて伸ばすしかない】

 サトテルには、もうひとつ気になることがある。1年目にそれなりの結果を出してしまったことで、周囲がその気になってしまったことだ。24本も打てば、30本、40本を期待する。打率だって、2割3分が2割6分になれば、じゃあ次は3割だ、と。

 本人がそれを求めて頑張るのはいい。しかし、マスコミを含め周囲が過大な期待を押しつけるのは、阪神というチームの問題点である。私に言わせれば、あの欠陥の多いスイングで24本塁打を打てたこと自体すごいことである。

 彼はプライドが高いというか、完璧を求めてしまうのだろう。ホームランも打ちたいし、打率も残したい。その気持ちはわからないでもないが、今の彼の状態を考えるとどちらも中途半端になってしまう可能性が高い。個人的には「ホームランをとって、打率を捨てる」というくらいの割り切りが必要だと思っている。

 一部報道では、岡田監督と反りが合わなくなっているといった話も囁かれているが、結果云々というよりは、基本に反するプレー(凡プレー)をするから厳しく接しているのだと思う。

 ただ彼は、叱ったからといって「なにくそ!」と思って動くタイプではないようだ。もし私がコーチだったらどうするか? ほめて伸ばすしかない。ほめ殺しだね(笑)。彼のようなタイプはほめまくって、やる気を引き出す。もちろん、それだけだと選手もなめてくるから、「ここ」というポイントは絶対に譲歩してはいけない。技術的なポイント、修正しなければいけないポイントだけは「絶対にやろう!」と釘を刺す。

 たとえば、ティーバッティングでもロングティーでもいいが、下半身がヘトヘトになるくらいバットを振らせて、それでも改善が見えてこないとする。それでも絶対に終わってはいけない。妥協せずに続けることだ。コーチは「オレも一緒にやっている」という気持ちでボールを上げてあげること。そうすれば気持ちが通じるし、お互い意見を交換できるようになるだろう。

 あとは本人がどこまで危機感を持ってプレーできるかだ。今年で大卒3年目、プロとして自立しなければならない時期に入っている。そのためにも、まずは原点回帰。1年目の、あの豪快さを取り戻してほしい。


伊勢孝夫(いせ・たかお)/1944年12月18日、兵庫県出身。62年に近鉄に入団し、77年にヤクルトに移籍。現役時代は勝負強い打者として活躍。80年に現役を引退し、その後はおもに打撃コーチとしてヤクルト、広島、巨人、近鉄などで活躍。ヤクルトコーチ時代は、野村克也監督のもと3度のリーグ優勝、2度の日本一を経験した。16年からは野球評論家、大阪観光大野球部のアドバイザーとして活躍している