FC町田ゼルビアのような快進撃は欧州サッカーでも 資金力と成績に相関関係はあるのか?
5月19日に行なわれたJ1第15節。同じ東京を本拠地とする昇格チーム同士の対決ということで注目を浴びたFC町田ゼルビア対東京ヴェルディの一戦は、首位に立つホームの町田が5対0で勝利を収めた。
町田の圧勝と好調ぶりが話題となった試合だが、その2日前の、東京Vを率いる城福浩監督の談話も、サッカーファンの間ではちょっとした話題となった。
その発言は、現在の町田がなぜ強いのかを、資金力とその賢い使い方という側面で認めたうえで、それ以上の資金力のあるクラブは危機感を覚えなければいけない、といった主旨のものだった。
そのなかで城福監督が語っていたのは、自身の志向とは異なるものの、資金力と編成力が合致すればJ1に何年いるかは関係ない、ということだった。
ここで、あえて「自分の志向とは異なる」と触れている点が、かつて2012年から2014年まで、資金力に恵まれないヴァンフォーレ甲府で監督を務め、J2優勝と2年連続のJ1残留を果たした城福監督らしいところだが、いずれにしても、かねてよりサッカー界では資金力のあるクラブが好成績を残しやすいというのは定説となっている。
実際、先日Jリーグが発表した「2023年度クラブ経営情報開示資料」を見ても、今回対戦した町田と東京Vでは資金面でそれなりの差が存在する。
前節は浦和レッズを破り、J1で首位を走るFC町田ゼルビア photo by Sano Miki
たとえば、町田の2023年度の売上高は34億900万円に対し、東京Vは28億1800万円。さらにトップチームの人件費となると、町田が18億600万円を確保しているのに対し、東京Vは7億7800万円。2倍以上の差があることがわかる。
2023年は両チームともJ2を戦っていたので、J1に昇格した本年度の人件費はどちらも上昇しているはず。特に町田のここまでの補強状況からすると、その差はさらに開いたと見るのが妥当だろう。
ただ、J1全体を見渡せば、浦和レッズ、川崎フロンターレ、ヴィッセル神戸、ガンバ大阪、横浜F・マリノスといった2023年度売上高トップ5のクラブは、いずれも町田の後塵を拝している。東京Vにしても、暫定ながら第16節終了時の順位表では川崎や横浜FMより上位に位置している。
【夢と希望を与えた小クラブの活躍】シーズン終了時にどうなっているかは神のみぞ知るだが、要するに、必ずしも資金力が上回るクラブが上位に位置するとは限らないということ。これは比較的、クラブ間の資金力の差が大きくないJリーグの特徴でもある。
では、各クラブの資金力差が年々拡大しているヨーロッパサッカー界はどうなのか?
ほぼ同じ顔ぶれのビッグクラブ間で優勝トロフィーを受け渡し合っている近年のチャンピオンズリーグ(CL)がその典型だが、プレミアリーグ(イングランド)、ラ・リーガ(スペイン)、セリエA(イタリア)の3大リーグでも、資金力のあるクラブが毎年のように優勝争いを演じている。また、ブンデスリーガ(ドイツ)やリーグ・アン(フランス)では突出した資金力を持つバイエルンとパリ・サンジェルマンの一強状態が続いている。
そういう意味で、ブンデスリーガ初優勝を遂げたレバークーゼンが史上初の無敗優勝の快挙を成し遂げ、バイエルンの12連覇を阻んだことは、今シーズン最大のトピックだった。もちろん、レバークーゼンの資金力はリーグ内では上位にランクされるので、決してサプライズとは言えないが、それでも他の多くのクラブにとっては希望の光になったことは間違いないだろう。
一方、夢と希望を与えたという点では、今シーズンのジローナ(スペイン)とブレスト(フランス)のほうが、特筆すべき躍進を見せたと言える。
今シーズンのジローナは、開幕から好調をキープして、第8節のレアル・マドリード戦に敗れて以降、何と第23節(2024年2月3日)のレアル・ソシエダ戦まで15戦無敗の快進撃。最終的に3位でフィニッシュし、クラブ史上初となるCL出場権を獲得するなど、今シーズンのラ・リーガで旋風を巻き起こした。
そのジローナが昨年12月には公表した今シーズンの予算は、5960万ユーロ(約102億円)。ジローナといえば、マンチェスター・シティの親会社でもあるシティ・フットボール・グループが株式の約半数を保有することでも知られているが、それにしても、昇格1年目のあたる昨シーズンを10位で終えたカタルーニャ地方のスモールクラブが、2022−2023シーズンに8億3140万ユーロ(約1420億円)という世界1位の収入を記録したレアル・マドリードと優勝争いを演じ、収入3億6410万ユーロ(約621億円)のアトレティコ・マドリードを上回る成績を残したことは、驚きに値する。
さらに、リーグ・アンで残留争いの常連とされていたエレベータークラブのブレストも、今シーズンは誰も予想できなかった怒涛の快進撃を見せ、3位でフィニッシュ。こちらもクラブ史上初めてのCL出場権を手にすることに成功し、ブルターニュ地方の端にある小さな街を大いに沸かせた。
ブレストの年間予算は、わずか4800万ユーロ(約81億8700万円)。さすがに昨シーズンの収入で約8億ユーロ(約1365億円)を記録し、今季優勝したパリ・サンジェルマンには及ばなかったものの、2億5840万ユーロ(約441億円)のマルセイユ、あるいは約2億ユーロ(約341億円)のリヨンをはるかにしのぐ好成績を残した今シーズンの快挙は、世界中のスモールクラブに夢を与える"おとぎ話"と言っていいだろう。
もっとも、今シーズンのジローナやブレストのようなスモールクラブの躍進は、近年のヨーロッパサッカー界ではレアケース。数年に1度あるかないかの出来事だ。
それに比べれば、まだ現在のJリーグは、資金力のないクラブでも工夫次第で上位に食い込める可能性は高いと言える。今シーズンの町田も東京Vも、それを証明しているクラブであることは間違いない。
野々村芳和チェアマンは、格差を助長する方向に突き進む施策を打っているだけに、いつまで群雄割拠の時代が続くかはわからない。そういう意味でも、ここまで好成績を残している両チームの今後の戦いぶりは、要注目だ。