山川穂高問題、コンプライアンス、株主総会...西武だからこそ起きた「監督休養問題」に経験者・伊原春樹の見解は?
セ・パ交流戦が始まる直前の5月26日、西武は成績不振を理由に松井稼頭央監督の途中休養を発表した。かつて西武の監督として、2014年に同様の途中休養経験がある伊原春樹氏が、今回の一件について意見を述べた。
5月26日の試合後、途中休養が発表された西武・松井稼頭央監督 photo by Koike Yoshihiro
── 5月26日のオリックス戦のあと、西武・松井稼頭央監督の途中休養が発表されました。
伊原 私も2度目の西武監督の2014年に途中休養を経験しています。就任時、チームは5年間優勝から遠ざかっており、球団から「少し締め直してください」との要請ありました。
── その2014年は、53試合を消化した時点で20勝33敗。6月5日から田辺徳雄代行監督が指揮を執ることになりました。
伊原 その前年の2013年は2位。うまくいけば優勝も狙えると、球団には「選手を残しておいてください」とお願いしたのに、涌井秀章はFAでロッテへ、片岡治大もFAで巨人へ、さらにデニス・サファテがソフトバンク、エステバン・ヘルマンもオリックスと、ことごとく主力が移籍してしまったのです。「締め直してほしい」と要請されての就任なのに、「なぜ休養なのか」と、球団に疑問を呈したのを覚えています。
── 戦力が整っていないのなら、再建や優勝はすぐには難しいですよね。
伊原 監督が選手や戦力を集めるわけではありません。選手を獲っているのは、球団の編成部です。チームを引き受けて、私は1年目、松井監督は2年目。その違いはあるにせよ、「結果として成績が伴わなかったから監督が責任をとる」というのは、私と同じでした。
── 昨年にしても、主砲の山川穂高選手が"女性問題"により途中離脱し、17試合の出場で0本塁打、5打点の成績に終わりました。その影響もあってチームは5位に終わりました。
伊原 弱点が明らかだったのだから、山川はチームに残さなくてはいけなかったんです。しかし、昨今の西武はコンプライアンスにとても厳しい。「山川はFAで出ていっても仕方ない」という流れだったのでしょう。ただ、編成が獲得してきた新外国人のヘスス・アギラー、フランチー・コルデロがまったく機能しませんでした。これでは現場の監督としては、どうすることもできません。
【GMの監督代行就任に疑問】── 2018年にパ・リーグを制した「山賊打線」ですが、浅村栄斗(楽天)、秋山翔吾(広島)、森友哉(オリックス)、そして山川(ソフトバンク)が次々に移籍し、解体されました。
伊原 今年の西武は高橋光成、今井達也、平良海馬、松本航、隅田知一郎、武内夏暉ら、リーグ屈指の投手陣を誇ります。その一方で打線は、セ・パ交流戦前までチーム打率.214、118得点はいずれもリーグワースト。1試合平均2.62得点では、いくら投手陣が盤石とはいえ厳しい。シーズン前、私は「外国人の打者次第で優勝争いができる」と予想したのですが、現実として2点以内に抑えないと勝てないわけです。源田壮亮や外崎修汰が奮闘していますが、長打を打てる主砲がいないと厳しい。
── 松井監督のあと、渡辺久信GMが監督代行になりました。
伊原 先述したように、与えられた戦力で戦うのが監督であって、チームづくり、選手を獲得する編成は渡辺GMの仕事です。少なくとも監督と一心同体であるGMにも半分責任があるわけです。監督だけに責任を取らせるのではなく、GMや編成部長も同様に責任を取るべきです。GMが監督代行を務めるというのは、おかしいのではないでしょうか。
── 指揮官交代によってチームは上昇しそうですか。
伊原 外国人打者の調子が上がらないのだから、難しいと思いますよ。もしかして、GMが監督代行を務めることで責任を取る、取らせるということでしょうかね。
── 松井監督は二軍監督として帝王学を学び、満を持して一軍監督に就任しました。生え抜き監督であるにもかかわらず、2年目の5月に途中休養というのは早すぎるのではないですか。中日の立浪和義監督や日本ハムの新庄剛志監督は、2年連続最下位でしたが3年目の今季も指揮を執っています。
伊原 立浪監督や新庄監督は3年契約ですが、松井監督は2年契約だったようですね。そしてもうひとつ大きいのが、株主総会です。西武ホールディングスの株主総会は6月にあるのですが、株主には野球好きやライオンズファンがたくさんいます。「球団はどうなっているんだ」と聞かれる前に、先に手を打った。「監督を休養させて、今後さらに頑張っていきます」と。それも松井監督休養の大きな要因だと思います。
── 松井監督の心中を察するにあまりあります。
伊原 勝負の世界ですから、結果が出ていないことについて責任は感じていると思いますが、それでも休養は青天の霹靂だったでしょうね。無念でしょう。もう少し落ち着いたら、激励の電話でもしてみようかと思っています。
── 次期監督候補は、いろいろ名前が挙がっています。辻発彦氏、秋山幸二氏、伊東勤氏、工藤公康氏、西口文也氏、松坂大輔氏、平石洋介ヘッドコーチ......。
伊原 候補者はたくさんいますが、監督を選ぶのはやはり大変な作業なので、来年に向けていろいろやっているでしょう。ただ西武だけでなく、チームの成績が芳しくなかった場合、監督だけの責任ではなく、チーム編成のトップであるGMにも責任があることを、会社サイドにももう少し理解してほしいと思います。