高木豊に聞く今季のキャッチャー パ・リーグ編

(セ・リーグ編:セ・リーグのキャッチャーが打撃不振の理由を解説 小林誠と大城卓三の違いとは>>)

 今季のパ・リーグは日本ハムの田宮裕涼をはじめ、ロッテの佐藤都志也や西武の古賀悠斗など、"打てるキャッチャー"が存在感を示している。かつて大洋ホエールズ(現横浜DeNAベイスターズ)で活躍し、現在は野球解説者やYouTubeでも活動する高木豊氏に、それぞれのバッティングについて聞いた。

【好調・日本ハムをけん引するキーマン】

――以前からバッティングを高く評価されていた日本ハムの田宮裕涼選手が、攻守でいい活躍を見せていますね。

高木豊(以下:高木) バッティングセンスは非凡なものを感じていましたし、打って当然だなと(打率.322、出塁率.393。5月26日時点、以下同)。チームも昨季とは違っていい位置につけているので、モチベーションも高いと思います。打順は5番を任されることが多いですし、バッティングに対する首脳陣の評価は高いでしょうね。

――シーズン序盤ですが、すでにキャリアハイとなる38試合に出場しています。

高木 開幕戦で先発マスクを被ったことを皮切りに、(4月20日の)ロッテ戦では北山亘基とバッテリーを組んで初の完封リードをするなどいい経験を重ねて、短期間でものすごく伸びています。もちろん点を取られる日もありますが、田宮の場合はバッティングがいいですし、試合に使いたくなる選手ですよね。リード面で少し失敗しても、バッティングで取り返す力がありますから。

――田宮選手のバッティングの長所について、高木さんは以前に「右肩が開かない」と言われていましたね。

高木 彼は"縦振り"なんです。スイングの軌道が上から下で、バットを水平に振る"横振り"とは違います。縦振りのいいところは、スイングに無駄ができにくく素早く振れて、体の開きも抑えられること。力強く引っ張ることもできるし、ボールを引きつけて流すこともできます。

 5月10日のロッテ戦での二死満塁の場面で、田宮が走者一掃の二塁打をレフト線に打ちました。あの時は、どんなボールも全部逆方向にファウルを打って粘っていて、最後に仕留めました。やっぱり技術が高いですし、「バッティングは本人に任せておけばいい」レベルに達していると思います。

 セーフティーバントを決められる足もあって、守備面では肩もいい。ここまでの日本ハムの躍進に大きく貢献している選手だと思いますし、今後の戦いでもキーマンのひとりになるでしょう。

【西武の古賀は打順の再考を】

――ロッテの佐藤都志也選手も今季はバッティングが好調で、打率.301(出塁率.347)と結果が出ています。

高木 バッティングは悪くないですね。守りの面では、佐々木朗希のワンバウンドが止められなかったり、止められないから佐々木のボールが甘いところへいってしまったりと苦労していましたが、ここ最近はブロッキングもよくなってきています。少しずつ風格も出てきたような気がしますね。

 バッティングに関しては田宮が縦振りなら、佐藤は横振り気味。そこが大きな違いです。ボールを捉える能力は高いものを感じますが、安定して打てて打率を残せるのは田宮のほうだと思います。

――横振りだと安定しにくい?

高木 苦手なコースが増えてくるんです。縦振りは体が開かないのでインサイドのボールでもバットをうまく振り抜くことができ、結果として打てるコースが広がります。横振りだと、バットが遠回りしてしまったりスイングに無駄ができやすいので、あらかじめ打つコースを張っておかないと対応が難しい部分があると思います。なかには、コースを張らずに反応で打ててしまうバッターもいますが、佐藤はまだそのレベルには達していません。

――西武の古賀悠斗選手も、打率.287(出塁率.333)と好調を維持しています。

高木 バットコントロールがうまいですね。エンドランにしても、しっかりコンタクトしていきます。いいピッチャーが多いパ・リーグで高い打率を残しているのがその証拠です。

 それと、得点力不足の西武は古賀の打順を上げるべきだと思います。現在の西武でバッティングが期待できる、数少ないバッターのひとりですから。8番を打つことが多く、たまに7番や9番でも起用されていますが、評価が低すぎるように思います。

――たとえば、何番を任せるのがよさそうですか?

高木 5番か6番あたりを任せていいと思います。4番はあまりにも責任が重いですし、捕手以外の野手のなかから育てていかないといけない。古賀には今よりも上の打順を任せることで、守りだけでなくバッティングに対しての責任感も出てくると思いますし、そうなると選手は成長していくものです。パンチ力も秘めていると思いますし(高校通算52本塁打)、小さく育てたらダメだと思います。起用法次第でポテンシャルが開花するかもしれません。

【今季の森が苦しんでいる理由】

―― 一方で、今季のオリックスの森友哉選手のバッティングをどう見ていますか? 5月26日の西武戦で今季第1号が出るなど、ここ最近の状態は上向きですが、まだ本来の力を発揮できているとは言いがたいです。

高木 昨季と比べて、技術的に変わった部分があるとは感じはしません。ただ、起用法でプレーのリズムが取りにくい部分があると思うんです。キャッチャーをやったり、外野を守ったり、DHを任されたり......。各ポジションにはそれぞれのリズムがありますし、いろいろなポジションで試合に出るから落ち着かないんじゃないですか。毎試合マスクを被っているほうが、いいリズムや緊張感を保てるのかもしれません。

 なぜそう思うかといえば、僕は大洋(現DeNA)時代に内野を守っていましたが、現役晩年に移籍した日本ハムでは外野を守ったんです。「こんなところまで本当にボールが飛んでくるのかな」というぐらい遠く感じたものです。何が言いたいかといえば、野球選手は"距離感"なんです。キャッチャーはバッターに一番近いわけじゃないですか。最前線で仕事をしているというか、そのぐらいの緊張感があるわけです。

――外野はキャッチャーに比べると、あまり緊張感がない?

高木 私が感じたことですし、少々大げさな言い方かもしれませんが、野球に参加していないような感じなんです。ましてや、DHの場合は守りつかずに打席に入る。緊張感を保つのは本当に大変なんですけど、キャッチャーや外野、DHなどで出場している森にとってはなおさら大変でしょうね。

 昨季は、外野を守ることに不慣れだったこともあって緊張感を保っていたと思いますが、ある程度慣れてきた今季はそういった緊張感もないはず。そういったことがバッティングにも影響しているんじゃないかと。

 ただ、ここ何試合かは状態が上向きなので、あとは低迷している長打率(.335。昨季は.508)も上がっていくといいですね。オリックスは厳しい戦いが続いていますが、巻き返していくために森の復調は欠かせません。

【プロフィール】
高木豊(たかぎ・ゆたか)

1958年10月22日、山口県生まれ。1980年のドラフト3位で中央大学から横浜大洋ホエールズ(現・ 横浜DeNAベイスターズ)に入団。二塁手のスタメンを勝ち取り、加藤博一、屋鋪要とともに「スーパーカートリオ」として活躍。ベストナイン3回、盗塁王1回など、数々のタイトルを受賞した。通算打率.297、1716安打、321盗塁といった記録を残して1994年に現役を引退。2004年にはアテネ五輪に臨む日本代表の守備・走塁コーチ、DeNAのヘッドコーチを2012年から2年務めるなど指導者としても活躍。そのほか、野球解説やタレントなど幅広く活動し、2018年に開設したYouTubeチャンネルも人気を博している。