高木豊に聞く今季のキャッチャー セ・リーグ編

 今季のセ・リーグのキャッチャーは、二軍調整中の巨人の大城卓三をはじめ、広島の坂倉将吾らバッティングが不振な選手が目立っている。かつて大洋ホエールズ(現横浜DeNAベイスターズ)で活躍し、現在は野球解説者やYouTubeでも活動する高木豊氏に、その要因を聞いた。


バッティングで苦しむ大城卓三(右)と阿部慎之助監督(左)photo by Kyodo News

【巨人・阿部監督の大城の評価】

――今季の巨人のキャッチャー陣をどう見ていますか?

高木豊(以下:高木) 小林誠司の評価が高く、それに岸田行倫がついていっている感じですね。一方で、二軍にいる大城卓三は気持ちよく仕事ができていない印象です。阿部慎之助監督の大城の起用法は、二軍に落としたことも含めて奮起を促しているのかもしれませんが......昨季の大城の正捕手という立場やベストナインを獲った活躍を考えれば、本人にとっては天地がひっくり返ったような感じでしょうね。

――攻守で精彩を欠き、阿部監督も物足りなさを感じていた?

高木 そうだと思いますよ。大城は使いながら育てるとか、教えながら育てるという選手ではありません。ひとつの形を持ったキャッチャーなので、数字が残せない(打率.188、0本塁打。5月28日時点、以下同)、マスクを被った試合でピッチャーが打たれる、となると評価は当然下がります。「具体的に何が悪いのか?」は些細なことだと思うんです。たとえば、ピッチャーに対してのジェスチャーだったり、間の取り方だったり。そのあたりは小林のほうが落ち着いてできています。

 大城の売りはバッティングで、小林の売りは守備。正反対のキャッチャーなんです。阿部監督が求めたのは、やっぱり守備。判断基準はそこなんだと思います。少ないチャンスを泥臭くモノにして1点を取り、その1点を守る。阿部監督がやりたい野球に、大城が応えられていないということなんじゃないですか。

――大城選手は、今後どのような点を改善していけばいいのでしょうか。

高木 リードとか、キャッチャーとしての所作に対してはレッテルを貼られてしまっていると思いますし、それを覆すのは難しいです。なので打つしかないんですが、一軍に上がったところでマスクを被れないとすれば、つらいですよね。試合に出る時は4打席に立って育ってきている選手なので、代打はなかなか難しいでしょう。

 ただ、今の巨人は得点力不足です。夏場に向かっていくにつれてピッチャーが疲れ、打ってカバーしなければいけない状況になった時、今の巨人の戦い方では苦しい。小技を使うのは悪くないですが、怖さがないんです。大城が本来のバッティングを取り戻してくれれば、得点力を高めるためにも一軍に居てほしい存在です。

――岸田選手はどう見ていますか?

高木 岸田は非常に伸びてきています。バッティングも打席を重ねることによって、思い切りのよさなど彼の長所が出てきていますね。かつては高校日本代表でクリーンナップを打っていたキャッチャーですし(2014年のBFA U18アジア選手権に出場し、日本代表の3番打者として準優勝に貢献)、ポテンシャルを発揮し始めた感じがします。守りの面では、ピッチャーの持ち味を引き出すいいリードをしていると思います。

【他球団のキャッチャーもバッティングに苦労】

――広島の坂倉将吾選手はどう見ていますか?

高木 坂倉は「キャッチャーをやりながら、打たなきゃいけない」というプレッシャーに負けている感じがします。だから昨季もあまりよくなかった。もともと12球団のキャッチャーのなかでバッティングは抜きん出ているんですが、キャッチャーをやらせたことによって、バッティングが鳴りを潜めてしまったような気がします。

 技術的な部分が変わったとは思いませんが、やっぱり精神的な部分じゃないでしょうか。打たれたり、勝てなかったり......その象徴的な例が九里亜蓮です。先日(5月18日)の巨人戦でやっと1勝目(1勝4敗)を挙げましたが、それまではバッテリーを組みながら、開幕投手を務めた九里になかなか勝ちをつけてあげられませんでした。

――メンタルの状態がそこまでプレーに影響を与えているんですね。

高木 性格もあると思います。オリックスの森友哉なんかは「打たれたら、打ち返してやる」という感じじゃないですか。そのぐらい図々しくないと。だけど坂倉の場合は、打たれたら「あの時の配球は間違いだったかな」とか、いろいろなこと考えているんだと思うんです。尾を引いてしまうことでバッティングにも悪影響が出る。キャッチャーをやりながら打つことは大変だと思いますが、坂倉はそこの壁を今はまだ越えられないんでしょう。

――さらに、ヤクルトの中村悠平選手(打率.188、出塁率.300)、阪神の梅野隆太郎選手(打率.147、出塁率.244)などもバッティングで苦労していますね。

高木 中村に関しては、あれだけピッチャーが打たれるとリードのことで頭がいっぱいになりますよ。バッティングのことを考えられないくらいの状態になっているんじゃないですかね。

 梅野は坂本誠志郎に対してのライバル心というか、焦りもあるような気がします。昨季にケガをして離脱して以降、坂本がグッと評価を上げた。梅野としては「打たなきゃいけない」「守るだけじゃダメだ」と焦りが出てくるわけです。もともとはもう少し打率を残せる選手なのですが、どこかに力みがあるんでしょう。

――もともとバッティングがいい印象があった中日の木下拓哉選手も苦しんでいる印象です(打率.205、出塁率.233)。

高木 木下は、使われ方からして「あまり評価されていない」と感じているんじゃないでしょうか。立浪和義監督になって3年目ですし、相手にどう思われているかもだいたいわかります。それでも頑張って結果を出して、信頼を勝ち取らなければいけないのですが、なかなか頑張り切れないんでしょうね。

 自身は打てず、チームの負けが込み......結局は自分自身で招いてしまったことだと思うんです。もう少し木下が打ってくれれば打線の厚みが増すと思うので、復調してもらいたいですね。

―― 一方で、DeNAの山本祐大選手はバッティングが好調ですね(打率.299、出塁率.364)。

高木 彼はレギュラーを獲ることに意欲的ですから。伊藤光との正捕手争いもそうですし、松尾汐恩の存在にも戦々恐々としているはずです。なので、ここで引き離して自分がレギュラーを獲るんだというモチベーションが、バッティングにもいい影響を与えていると思います。もともとバッティングに対してはすごく自信を持っている選手ですし 。

――バッティングのどんな部分がいいですか?

高木 思い切りのよさ。それと、インサイドのさばきがいいです。色気を出して長打を狙いたくなるような場面でも、基本的にセンターに打ち返そうと意識しているのがいいですし、広角に打てる技術があります。ピッチャー陣があまりよくないので守りの面で大変だと思いますが、攻守両面でチームを引っ張っていける選手になっていってほしいですね。

(パ・リーグ編:「打てるキャッチャー」が急増中 高木豊から見た好調の要因は?>>)

【プロフィール】
高木豊(たかぎ・ゆたか)

1958年10月22日、山口県生まれ。1980年のドラフト3位で中央大学から横浜大洋ホエールズ(現・ 横浜DeNAベイスターズ)に入団。二塁手のスタメンを勝ち取り、加藤博一、屋鋪要とともに「スーパーカートリオ」として活躍。ベストナイン3回、盗塁王1回など、数々のタイトルを受賞した。通算打率.297、1716安打、321盗塁といった記録を残して1994年に現役を引退。2004年にはアテネ五輪に臨む日本代表の守備・走塁コーチ、DeNAのヘッドコーチを2012年から2年務めるなど指導者としても活躍。そのほか、野球解説やタレントなど幅広く活動し、2018年に開設したYouTubeチャンネルも人気を博している。