林陵平のフットボールゼミ

欧州最高峰を決めるチャンピオンズリーグ(CL)の決勝が6月1日深夜(日本時間2日4時キックオフ)に行なわれる。スペインのレアル・マドリードとドイツのドルトムントの対戦となったこの試合の見どころ、ポイントはどこにあるのか。人気解説者の林陵平氏に教えてもらった。


レアル・マドリードのクロース(右)とドルトムントのフュルクルク(左) photo by Getty Images

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【レアル・マドリードのシステムは柔軟。ドルトムントは4−3−3】

 レアル・マドリードは、このゲームに関してどういうシステムを採用してくるのかが、見どころになります。

 現状のスタメンのなかでも、立ち位置を柔軟に変えられます。中盤がフラットの4−4−2の形から、中盤の4人がダイヤモンド型でジュード・ベリンガムがトップ下に入る4−4−2もありますし、フェデリコ・バルベルデが右、ヴィニシウス・ジュオールが左のウイングになる4−3−3もあります。

 状況に応じて4−2−3−1もある。いろんなことができるチームなので、そこをカルロ・アンチェロッティ監督がどういう風にしてくるかは、ポイントになりそうです。

 個人的には、中盤ダイヤモンドの4−4−2を予想しています。

 一方、ドルトムントは、基本的には4−3−3で戦っていて、攻撃時にはしっかりボールをつなぎながら、ウイングにカリム・アデイェミ、ジェイドン・サンチョがいて、最前線にはストライカーのニクラス・フュルクルクがいるので、そこにボールをどんどん預けていく形ですね。

 守備時は、この形だとインサイドハーフのひとりが前に出て、4−4−2で守る形を採用するチームが多いなか、CLでのここまでを見ていると、4−1−4−1の守備ブロックを作る試合がたくさんありました。

 ドルトムントはボールを持てるチームではあるんですけど、CLでの戦い方を見ても、相手がボールを持てるチームなら自分たちは別に持たなくてもいいよという姿勢、振る舞いもできるチームです。

 なので、このゲームを考えた時には、やはりレアル・マドリードがボールを握って、ドルトムントはある程度ボールを持たせたところからカウンター。4−1−4−1でブロックを作って、そこからカウンター発動というのが、この決勝の狙いなのかなと思います。

 ドルトムントは、選手も適材適所に配置できていると思います。

 GKのグレゴール・コベルはシュートストップが得意。センターバック(CB)のニコ・シュロッターベックは左足から配球できるし、右のマッツ・フンメルスもビルドアップできるし、すごく経験のある選手です。

 両サイドバック(SB)のユリアン・リエルソンとイアン・マートセンは、とにかく上下動ができる。アンカーのエムレ・ジャンは、DFラインの前のフィルター役。インサイドハーフのユリアン・ブラントとマルセル・ザビッツァーのふたりもかなり走れる選手なので、ここもどんどん動いていきます。

 それで、両ウイングのアデイェミとサンチョが縦の速さを出せるので、カウンターの時に出ていける。あとはフュルクルクですね。彼は生粋のストライカーです。ボールも収まりますし、得点力もあるという印象です。

【ヴィニシウスとクロースを抑えられるのか】

 ゲームの立ち上がりのところで、レアル・マドリード側のポイントとして僕が気になっているのは、ヴィニシウスをどこに置くのかということ。

 バイエルンとの準決勝2ndレグでは、前半は結構中でプレーさせました。しかし、後半は立ち位置を左にしたことで、流れがすごく変わった。今、彼を止められる選手はなかなかいなくて、ヴィニシウスが左から縦の速さで抜いていけるとチャンスができます。彼をどこに配置するのかは、すごく大事ですね。

 ヴィニシウスは細かいボールタッチで積極的に仕掛けて、相手の重心の逆を突くことができます。さらに、彼がすごくなったのは、カットインした時のフィニッシュです。ここの決定力が凄まじく上がっている。やはりドリブルだけとか、パスだけとかじゃなくて、ドリブルもパスもシュートもできて、ゴールを決められる選手。それが価値を上げています。

 レアル・マドリードは、解説する時には常に言っているんですが、「形のないことがスタイル」。「レアル・マドリードにしかできないのでは?」というくらい、各選手のポジションがぐちゃぐちゃのように見えて、すごく整っているのが強みです。

 ドルトムントはリエルソンが準決勝のパリ・サンジェルマン戦で結構1対1でキリアン・アムバペを抑えていましたが、レアル・マドリードはヴィニシウスが左サイドに流れた時に、ここにロドリゴだったり、ベリンガムが寄ってきたりして、局地的にどんどん数的優位をつくるわけです。

 そうなった時にドルトムント側は対応できるのか。そこもすごく気になるポイントです。

 あと、レアル・マドリードは、やっぱりトニ・クロースですね。ゲームをコントロールできる選手です。ドルトムントがレアル・マドリードにボールを持たせたとすると、それはやはりボールホルダーにプレッシャーがかからないことになります。

 クロースはCBの左横に降りてボールを持つケースが多いです。その時左SBのフェルラン・メンディが高い位置に行って、ヴィニシウスとの関係で数的優位を作りやすい。クロースはその位置からどんどんいいボールを出しますし、右サイドへの一発のサイドチェンジもあります。

 そうなると、ドルトムントとしては4−1−4−1の状態から、インサイドハーフのザビッツァーやブラントが出ていって、ボールの出しどころであるクロースを抑えないと結構苦しくなると思います。

 逆にドルトムントは、ボールを奪ったあとにどれだけアデイェミ、サンチョ、フュルクルクのところに収めて、ブラントやザビッツァーも前に飛び出していけるか。攻撃面ではやはりカウンターがポイントになりそうですね。

【ドルトムントはカウンターやセットプレーに勝機】

 近年のレアル・マドリードは「形がないのがスタイル」という話をしましたが、これは各選手の個人戦術、戦術眼によるところが大きいと思います。

 クロースのゲームコントロールもそうですし、彼がCB横に降りた時にメンディーが高い位置を取り、状況に応じてベリンガムも顔を出したりとか、ここのあたりは本当に一人ひとりの能力です。状況に応じてプレーを変えられる選手が11人揃っていて、もちろんアンチェロッティ監督の戦術の枠組みはありますが、そのなかでの調整というのは結構自分たちでやっていると思います。

 あとレアル・マドリードの注目は、交代で入ってくる選手ですよね。前線ではホセルやブラヒム・ディアス、中盤にはルカ・モドリッチもいます。若い選手たちとベテランがすごくマッチしている感じもいいですし、とにかく強いです。

 ただ、ドルトムントも、相性という意味ではレアル・マドリードは結構やりたいことができる相手だと思うんです。だから、守備がどれだけハマるかが、いちばん大事かなと思います。ドルトムントは、一人ひとりサボらずにプレーするのが守備の強さに出ています。アデイェミやサンチョでさえ、しっかり守備に戻る。

 そうしたなかで、セットプレーにもチャンスがあると思います。準決勝ではフンメルスが決めていましたね。セットプレーは試合の流れに関係なく決められるところもあるので、特に決勝などの一発勝負ではカギを握ります。

 だからこそ、ドルトムントはミドルブロック、ローブロックの守備でどれだけ耐えてカウンターに出られるかというところが、やはりすごく大事な部分です。

 現代のフットボールにおいて、強いチームというのは、90分間の攻守4局面でいろんな戦い方ができます。

 相手があるスポーツなので、自分たちが「ボールを保持できる時」もあるし、「持てない時」もある。それなら持てない時にどういう風に振る舞えるか、持っている時にどういう攻撃ができるか。あるいは「守備から攻撃」「攻撃から守備」という切り替えの部分。ここのトランジションでどんな戦い方ができるのか。そこが整理されているチームは、やはりすごく強いですよね。

 そうした戦い方ができる両チームのCL決勝は、本当に楽しみです。