首都圏を中心に年々熱を帯びる「中学受験」。受験をするうえでさまざまな判断基準のひとつとされるのが「偏差値」ですが、「中学受験における偏差値は“絶対”ではありません」と話すのは、最新中学受験事情に詳しく、元塾講師で中学入試の過去問題集を出版する「声の教育社」の常務取締役・後藤和浩さん。偏差値との正しいつき合い方と、数字にとらわれない学校選びについて話を伺いました。

中学受験の「偏差値」は大きく分けて2種類ある

受験生活がスタートすると、受験生を抱える親は、塾のテストや全国模試が終わるたびに、子ども「偏差値」に一喜一憂し、そのたびに志望校を変更したりと振り回されてしまうことも。確かに、「偏差値」は子どもの成績の指標や、受験校選びの目安となる数値ではありますが、後藤さんは「あくまでも参考程度に利用し、絶対視しないで」と話します。

「中学受験で『偏差値』というと、大きく分けて2つのものを差します。1つ目は、『模試の偏差値』。その模試を受けた全児童の得点の平均を50とし、成績を数値化するものです。これは、単元ごとの到達度を測ったり、塾などの団体のなかで自分の位置を測る指標となります。

2つ目は、いわゆる『学校の偏差値』です。それぞれの塾が過去のデータをもとに、学校の難易度を数値化したもので、入りやすさの目安のひとつになります。しかし、基本的には1と2の数値は別物と考え、そのまま当てはめないほうがいいでしょう」(後藤さん、以下同)

その理由は、模試はあくまでも学んだ範囲の習熟度の確認をするテストであり、独自性をもつ各校の入試問題とはイコールではないため。とくに入試問題の多様化が進むここ数年は、1の数字をそのまま2の偏差値表に当てはめて目指す学校を決めることが、より難しくなってきているのだそう。

「中学受験の入試問題は、学校によってそれぞれのカラーがあるので、“入りたいと思う学校に向けての準備”をいかにできるかがもっとも重要です。そのため、たとえば数字上では最難関の開成中学校合格圏の偏差値を出している子が、“おさえ校”のつもりで受けた学校に不合格になる事例もあります。

逆に、過去問を繰り返し解いて対策をしたことで、偏差値では到底及ばない学校に合格した子どもも大勢います。“偏差値ありき”で志望校を選ぶという方法は、あまりおすすめできません」

中学受験での「正しい」偏差値の活用方法は?

では、中学受験において「偏差値」はどのように活用するのが正解なのでしょうか。

「単元ごとの習熟度を測るために参考にするのはもちろんですが、継続的に模試を受ける中で、『前回からどれだけ伸びたか』を見るのに使うのが基本。その際、母体が違うと比較ができないため、“同じ模試”を受け続けることが大事です。主催団体や種類の違う模試をあれこれと受けても、成長の判断材料にはあまりならないのでご注意を」

ちなみに、後藤さんによると、偏差値重視で学校選びをする家庭は、以前より少なくなってきているとのこと。

「首都圏で上位校を目指す家庭の中で、海外大学進学を視野に入れた『グローバル教育』を前面に掲げる学校の人気が、俄然高まっています。渋谷学園幕張、渋谷学園渋谷を筆頭に、広尾学園などへの注目度が高く、いわゆる御三家や筑駒(国立の中高一貫校、筑波大学付属駒場)に合格しても、これらの学校に進む子どもも多いよう。高偏差値や伝統にとらわれない学校選びがトレンド化している例のひとつと言えるでしょう」

“偏差値に頼らない”学校選びの3ステップ

「学校選びにおいて、偏差値は最重要ではない」とはいえ、なにかしらの判断材料がないと、目指す学校は決められないもの。そこで、これから中学受験をスタートしようと考えている親子に向けて、“入学後に後悔しない”おすすめの学校選びの方法を教えてもらいました。

●ステップ1:家から1時間で行ける範囲の円を描き、その中に入る学校をリストアップする

「通学の負担が大きいということを理由に、不登校になる子どもは少なくありません。せっかく入学した学校に楽しく通い続けられるよう、まずは家から『近い』学校を探してください。『乗り換えが少ない』『上りではなく下り電車を利用』などの条件つきであれば、多少遠くても子どもの負担が減るので、候補に入れてOKです」

また、子どもの体力によっては、もう少し範囲を広げて探してもよいといいます。

「なお、大学附属の学校は、たとえ通学時間がかかったとしても、そのぶん大学受験という大きなハードルがないため、この限りではありません」

●ステップ2:魅力を感じた学校に、実際に足を運ぶ。チェックすべきは“掲示物”

「“私学の楽しさ”が子どもに伝われば、受験にポジティブに臨むきっかけとなります。そこで、ステップ1でピックアップした学校の文化祭やオープンスクールに子どもを誘い、実際に見に行ってみてください。その際、保護者の方によく見ていただきたいのが、廊下や教室に貼ってある生徒向けの掲示物。

海外志向の学校であれば留学や国際交流についての情報が充実していたり、検定に力を入れている学校であれば英検や漢検などの申込書が用意されていたりと、掲示物には“学校の特色”が意外が表れます」

●ステップ3:“放課後の扱い”について、家庭の方針と合うかを調べておく

「入る前に見落としがちなのが、学校によって大きく異なる“放課後の使い方”。自習室が充実しておらず、放課後は塾に通ってたりない学習を補い、大学受験を目指すというのが一般的になっている学校がある一方で、放課後も校内での勉強を推奨する学校は、自習室の数も質も桁違い。

個人ブースがあったり、提携塾の指導が受けられるなど、かなり手厚いフォローアップ体制がつくられており、親としては安心感やおトク感があるのではないでしょうか。どちらを選ぶかは家庭次第ですが、ここも学校選びの大きなポイントになると思います」