南野拓実が2年目のモナコでバージョンアップ どこのポジションでも「消えずに」活躍で現地メディアも高評価
リーグ・アン3連覇を果たしたパリ・サンジェルマンには遠く及ばなかったものの、2位の座を確保した今シーズンのモナコは、6年ぶりのチャンピオンズリーグ本戦出場権を獲得するなど、実り多きシーズンを送った。
そのなかでシーズンを通して好調を維持し、チームに不可欠な戦力として最も活躍した選手が、加入2年目の南野拓実だった。
これは、何もお世辞や贔屓目で言っているわけではない。
南野拓実はモナコで大きな進化を示した photo by Getty Images
たとえば、最終節となったホームでのナント戦前に、フランス最大のスポーツ紙『レキップ』の取材に応じたアドルフ・ヒュッター監督は、2位でありながらUNFP(全国プロサッカー選手連合)が選出した年間ベスト11にモナコの選手が誰も入らなかったことをどう感じているかと問われると、次のように答えている。
「今シーズンの(アレクサンドル・)ゴロヴィン、南野、(ユスフ・)フォファナ、(マグネス・)アクリウシュを見て、誰もそこ(年間ベスト11)に入っていないなんて、まったく理解できないね。我々は2位であり、リーグ内で最もスペクタクルなサッカーをするチームのひとつなのに、誰ひとりとしてその栄誉を手にできなかった。それは驚きでしかない」
ちなみに、今シーズンから指揮を執るヒュッター監督が今シーズンの功労者として挙げた4人の個人成績を見てみると、攻撃的MFのゴロヴィンがリーグ戦25試合(2154分)に出場して6ゴール6アシスト、セントラルMFのフォファナは32試合(2701分)で4ゴール4アシスト、覚醒した22歳の攻撃的MFアクリウシュが28試合(1618分)で7ゴール4アシスト。
一方、アジアカップ参加期間中のリーグ2試合(第18節〜第19節)を欠場した南野は、30試合(2125分)で9ゴール6アシストをマークした。
ゴール数とアシスト数が際立っていることはもちろんだが、今シーズンの南野はアジアカップ期間中の2試合を除くと、出場しなかった試合は内転筋を痛めて大事をとった第7節マルセイユ戦(2023年9月30日)と第33節モンペリエ戦(5月12日)の2試合のみ。
しかも、南野がアジアカップで不在だった件の2試合(スタッド・ランス戦、マルセイユ戦)のチーム成績は1分1敗と勝ち星がなく、ヒュッター監督自身に進退問題が取り沙汰されるなど、チームにとって最も厳しい時期だった。
それを考えると、いかに南野がチームにとって重要な戦力であるかがよくわかる。
【レキップが南野のプレーに高採点を連発】あるいは、前述の『レキップ』紙が公表する毎試合の採点の平均点でも、南野は6.08を記録。1位ウスマヌ・デンベレ(パリ・サンジェルマン)、2位ピエール・レース=メル(ブレスト)に次いで、南野はリーグ・アン全選手の3位にランキングされている。
とりわけ南野の場合、6点を合格ラインとする『レキップ』紙の採点において、めったに見られない8点の評価を受けた試合が4試合もあり、これはデンベレとレース=メルの2試合を上回る。内転筋を痛めたあとの5試合こそ目立った活躍はできなかったが、採点7も5試合あるなど、現地メディアからも南野がシーズンを通して最もインパクトを残したモナコの選手だったと評価されている。
そして、『レキップ』紙は5月21日にリーグ・アンのベストイレブンを発表し、そのなかに南野を選出した。
このように、指揮官や現地メディアから高く評価される今シーズンの南野だが、シーズンを通して見てみると、個人的に最も強く感じたのは、南野自身のプレースタイルが以前と比べて変化したことだった。
昨シーズンまでの南野のプレースタイルをひと言で言うなら、相手ペナルティエリア内で最も能力を発揮するストライカー、いわゆるゴールを決める選手と表現できた。逆に言えば、主な仕事場・輝ける場所は、ほとんど相手ペナルティエリアの中、もしくはアタッキングサードに限られていた。
実際、プレシーズンからトップフォームを維持して迎えた開幕直後は、大不振に終わった昨シーズンから一転、3−4−2−1の右シャドーを任されてゴールとアシストを量産。その活躍により、8月のリーグ・アン月間最優秀選手賞に輝いた。
ところが、不動の左ウイングバックのカイオ・エンリケが長期の負傷離脱に陥ったうえ、南野が負傷欠場したマルセイユ戦で代役のアクリウシュが大活躍したこともあり、ヒュッター監督が基本布陣の3−4−2−1を修正。4バックや3−5−2を採用する試合が増え、南野も1トップ下、2トップ下、インサイドハーフと、複数ポジションを任されるようになっていった。
【代表でも見せたことのないプレー】すると、シャドーの一角として得点に絡む仕事に集中する立場から、中盤と前線のつなぎ役も担わなければならなくなった。そのことで、自然とミドルサードでプレーする機会が増加。中盤でボールを受け、サイドや前線に素早く展開するほか、アタッキングサードではラストパス、あるいはその一手前のパスによってチャンスメイクを担うようになったのである。
南野がその役割に適応すべく試行錯誤しているように見えたのは、前述した『レキップ』紙の採点で4点が続いた、ちょうどその時期のことだった。
もっとも今シーズンの南野は、開幕からボールを丁寧かつ正確に扱うプレーが際立っていたため、新しい役割に適応するまでにはそれほど時間はかからなかった。むしろ、正確にボールを扱うことでプレースピードも上がり、ワンタッチで離す局面と保持してプレーする局面の使い分けもスムースに。気づけば、プレーの幅は大きく広がっていた。
それを象徴するのが、日本代表でプレーした11月16日のワールドカップアジア2次予選・ミャンマー戦の2アシストだ。
自陣で引いて守るミャンマーに対し、スペースを見つけられずに苦戦していたその試合で、南野はボックス手前からDFラインとGKの間にチップキックで浮き球のピンポイントパス。上田綺世の先制点をアシストした。後半にも、相手ペナルティエリア内の狭いスペースに軽く浮かせたパスを供給し、再び上田のゴールをお膳立て。
その2アシストは、まるでフォファナやゴロヴィンのプレーにインスパイアされたかのようなパスであり、南野がそれまで見せたことのなかったプレーだった。
こうして新しい武器を手にした南野は、以降、どのポジションで出場しても攻守両面で能力を発揮できる選手にバージョンアップした。
たとえば昨シーズンまでは、4−4−2のサイドハーフで出場した試合ではほとんどよさを出せなかったが、今シーズンの南野はサイドハーフでもチャンスを作り、自らゴールも決める選手に進化。同時に、守備面での貢献も以前より目立つ試合が増えた印象を受ける。
【代表のどのポジションで能力を発揮する?】シーズンハイライトは、第23節のRCランス戦だ。この試合、ヒュッター監督は3バックの相手に対して、守備時に4−4−2から5−4−1に可変させるシステムを採用。4−4−2の右サイドハーフを任された南野は、守備時には右ウイングバックとしてプレーすると、攻守両面で大活躍を見せた。
相手のオウンゴールを誘うクロス、相手GKに倒されてのPK獲得(フォラリン・バログンのPKは失敗)、そして2−2で迎えた後半アディショナルタイムには、個人による局面打開から左足一閃。左ネットに突き刺したそのスーパーゴールが決勝点となり、以降の無敗街道につながる勝利を呼び込んだ。
ゴールを決める能力はそのままに、今シーズンからはチャンスも作り、試合を動かす選手へと進化を遂げた南野。来シーズンはチャンピオンズリーグの舞台で、どのようなパフォーマンスを見せてくれるのか。そして、ワールドアップアジア最終予選がスタートする日本代表では、"ニュー南野"の能力をどのポジションで発揮するのか。
進化を続ける29歳の今後に、ますます注目が集まる。