阪神・村上頌樹、2年で球速5キロアップ!“欠点”を改善して勝ち星ゼロからMVPに…追い求めたのは「空振りがとれるストレート」
3月29日、ついにプロ野球が開幕する。
昨シーズン38年ぶりの日本一となった阪神タイガースでさらなる高みを目指すのは、プロ4年目の村上頌樹(25歳)。
昨シーズンは22試合に登板して防御率1.75、自身初の2ケタ10勝をあげてセ・リーグ初のMVPと新人王を同時に獲得。日本シリーズでは大事な初戦を任され、圧巻の無失点ピッチングを披露した。
しかし、プロ入り後は2年間でわずか2登板、勝ち星すらあげることができなかった。
いったい村上の中で何が変わったのか? テレビ朝日のスポーツ番組『GET SPORTS』では、急成長の裏にあった改革に迫った。
◆コントロールだけでは歯が立たない
小学3年生のときから、年上のバッターたちも翻弄する小学生離れしたコントロールを磨いた村上。
当時からコントロールへの強いこだわりをもっていた。
村上:「(小学校時代)試合のときもアウトコース構えたところに投げて『ボール』と言われたらめちゃくちゃ悔しくて。もう1回投げようと思って、同じところに投げられるようになった。そういう意味ではコントロール良かったんだなと思います」
高校は名門・智弁学園に進み、3年生で出場した2016年春のセンバツ。
甲子園でも武器のコントロールを存分に発揮し、エースとして全5試合を一人で投げ抜いて初の優勝に導いた。
そして大学を経て、即戦力としてドラフト5位で阪神に入団。
自分のコントロールなら、プロでもやっていける――その思いを胸に、開幕してからまもなくルーキーながら先発のマウンドを任されたが、待っていたのは厳しい現実だった。
内角のコントロールされたストレートをいとも簡単にはじき返され大量失点。
ここから2年もの間、登板機会すら恵まれず2軍暮らしの日々が続くことに。
村上を指導してきた安藤優也投手コーチは、当時こんな課題をあげていた。
安藤:「非常にコントロールが良くて、変化球も多彩で投手としても完成されていたが、真っすぐで空振りがとれなかった」
今や佐々木朗希(千葉ロッテマリーンズ)や山下舜平大(オリックス・バファローズ)をはじめ、球界を代表するピッチャーのストレートは当たり前のように150キロを超える時代。
しかし、当時の村上の平均球速は140.6キロ。コントロールだけでは、まったく歯が立たなかった。
村上:「やっぱりスピードがなかったので、わかっていても空振りがとれるような真っすぐを求めていきたい」
そこで追い求めたのは、“空振りがとれる”より速いストレート。
すると2年目のオフに転機が訪れた。
村上:「急に青柳さんに呼び出されて、『自主トレ誰かとやる?』って言われた。『いないです』って言ったら、『来る?』って言われたので、2秒後には『はい』って言っていました」
手を差し伸べてくれたのは、先輩・青柳晃洋(30歳)。
サイドスローから繰り出す独特のストレートを武器に、2年連続最多勝・最高勝率の二冠にも輝いた。
自主トレで青柳が村上に指摘したのは、投球フォームのある“欠点”だった。
青柳:「一緒に自主トレをやるまでは、胸の開きが早くて手で頑張って投げていた。下半身と腕が一緒に出た場合、手の力だけで投げることになるんです」
胸の開きが早く、ボールに力が伝わらない――当時の投球フォームについて村上自身はこう語る。
村上:「悪かったときは足を上げて、着いたときに胸が前に向いていた」
左足が着地した際、バッターからすると胸の面のほとんどが見えている。これが「胸の開きが早い」ということだ。
一方、現在のフォームは…。
村上:「今は着いたときに胸が隠れるように投げる意識をしています」
現在は左足が着地した際、バッターからすると胸の面はほとんど隠れている。
このフォーム変更によって何が変わったのか。
村上:「前までは開きが早かったので力の伝え方が上手ではなかった。“下半身から投げる”ことを意識してからは良い球がいくというか、下半身からの力がしっかり指先に伝わった。力を抜いても勝手にボールがいく感覚です」
左足が地面に着くまで胸が開かないように意識、そして左足が地面に着いた瞬間一気に上体をひねり、下半身からのパワーを上半身に伝える。
そうすれば指先にも力が入り、より速いストレートを投げることができるという。
身体にフォームを叩き込むため、着手したのが“足を着いてから、ひねる”という動きだ。
この動作を繰り返すことで、下半身から上半身にパワーを伝えるタイミングを体に染み込ませていた。
さらに取り入れたのが、本格的なウェイトトレーニング。より大きなパワーを伝えるための強靭な下半身をつくっていく。
村上:「スクワットやデッドリフトは上がる瞬間を意識して。器具を上げるのを早く、軸足を蹴りだすのも一緒というか、そういうのは投球にもつながるので意識しています。投げるのは一瞬の力が大事なので、一瞬でどう力が出せるのか」
そして迎えた昨シーズン、村上は自身の進化を確信することに。
◆プロ3年目の快進撃
空振りがとれるより速いストレートを求め、投球フォームの改革に取り組んできた村上。
すると昨年4月、開幕ローテーション入りこそ果たせなかったが、2年ぶりに先発のチャンスが巡ってくる。
ストレートで次々と空振りを奪い、巨人を相手に7回までパーフェクトピッチング。1軍のマウンドで初めて結果を出した。
なかでも、自らの進化を確信したシーンがあったという。
村上:「2回ウラの先頭が岡本和真さんだったんですけど、最後真っすぐで三振取ったときに『あ、いける』って思いました。巨人の4番で高校の先輩なんですけど、そこをしっかり抑えられたのが自信につながりました」
巨人の4番・岡本和真(27歳)との対戦。
145キロのストレートで追い込むと、この日最速となる148キロのストレートで三振を奪う。
村上:「ストレートで空振りがとれたり、甘くても差し込むことができた。そこが自信にできたというか、しっかり真っすぐで抑えたのが良かった」
これを機にストレートに自信を深めた村上の快進撃が始まった。
ストレートの平均球速は、145.6キロと2021年からおよそ5キロアップ。さらに、ストレートを打たれた割合を示す被打率も劇的に改善した。
目標にしていた“空振りがとれるストレート”に変貌を遂げたのだ。
村上:「平均球速が上がればもっと楽に抑えられる。阪神の投手はレベルが高いので、開幕ローテーションからもれないようにやっていきたい」
そんな“虎の新星”に「現状なりたい自分にどれぐらいなれているのか」という質問を投げかけると…。
村上:「まだ40%くらいですね」
歩みを止めない25歳。理想を追い求めるシーズンが今年も始まる。