「縛られない働き方に憧れる」会社勤めの彼の盲点
縛られない働き方に憧れる相談者。安井さんからのアドバイスとは(写真: mits / PIXTA)
→安井さんへのキャリア相談は、こちらまでお送りください。
現在中堅企業に勤務する、会社員の者です。会社勤めをしながらも、誰にも縛られない働き方に憧れています。最近では円安に伴い、海外では年収数千万円の寿司職人とか、長距離ドライバーで数千万円といった話もありますし、日本でも外国人バブルのニセコや熊本で時給3000円のバイトが多数あると聞くと、そういったチャンスを掴んで渡り歩けば、それなりにやっていけるのでは、と思ったりします。実際にインタビューを受けている人たちも楽しそうですし、陰険な都市部の会社勤めよりも、自由な気がしますが、やはりそういった考え方は危険なのでしょうか。
NT 会社員
2つの選択肢のどちらを選ぶか
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自分の人生やキャリアに対する決定権・裁量を、どの程度自分で握っておきたいかによります。
周りの環境や意思決定に左右される部分が多い人生やキャリアを歩みたいのか、それとも完璧にではないにせよ、ある程度自分自身で方向性を決めることのできる人生がよいのか。
要は、どちらの選択肢を選ぶのかです。
NTさんは「誰にも縛られない働き方」と書かれていますが、頂戴した相談に書かれているような生き方は、周りの環境に縛られている働き方、とも言えます。
主体的に人生を生きたいとするNTさんの理想と、そういった選択肢は相容れないように見えてしまいます。
もちろんどちらを選ぶのか、といったことは、本人が決めるべきことです。どちらが優れているのか、といった議論はここではしません。
頂戴した相談にNTさんが列挙されているようなケースは、「現在は」あるのかもしれません。
問題はこの「現在は」という箇所です。要はそのようなチャンスがいつもあるわけではない、ということです。いつもあるわけではないですし、いつなくなるかわからない、ということでもあります。
頂戴した例は、人手不足、円安、巨額投資、といった外部環境に依るところが大きく、それらの外部要因が重なって、今の状況が作られているわけです。
もちろん過去からそうだったわけではありませんでしたし、また前述したとおり、いつ終わってもおかしくない状況なのです。
キャリアでは一貫性が重視される
不安定な状況を前提としつつ、それでも「渡り鳥的に」生きたい、というのであれば、もちろんそれは本人の選択ですから、そのような働き方もアリなのでしょう。
ただし、その時々にチャンスがあるかどうかがわからないことに加えて、一貫したスキルや経験も積みにくい、という側面はあります。
ご存じのとおり、キャリア上の経験やスキルの蓄積という意味においては、一貫性やその中における成長、といったものが非常に大切なのですが、渡り鳥的な生き方では、その双方における継続性を担保できない、またはしにくい、という側面はあります。
人生もキャリアもそうですが、「攻め」だけではなく、「守り」も大切です。守りとはイザというときの備えであり、プランBのようなものであります。つまりは、自分にとっての現実的な選択肢を持っているか否か、です。
経済が好調だったりするときは、職業上の機会は幅広く提供されますが、つねにそうとは限りません。
そうであれば、一職業人としては、やはり職業上の機会が限られているような状況でも立ち回れるような経験やスキルを蓄積し、イザというときにも備えておきたいものです。
「自由」や「誰にも縛られない働き方」という言葉を、NTさんは使われていますから、おそらくその趣旨としてはご自身のキャリアや人生において、つねに複数の選択肢を有していたいし、そういった状況をご自身の経験やスキルを通じて構築したい、という考えが背景にあるように思えます。
複数の選択肢を有していることはもちろん非常に大切なのですが、その選択肢はどこから提供されているか、も同時に考えたほうがよいでしょう。
頂戴した相談に書かれていた事例は、NTさんの努力やスキルによって提供される選択肢ではなく、外部環境によって提供される選択肢です。
つまり、先ほど述べたような外部環境の重なりがあって、「たまたま」現在あるチャンスなのです。そしてこれも「たまたま」そういった選択肢が複数あるように見えている状況なのです。
努力で勝ち取った選択肢ではない
重要なのは、「NTさんの努力やスキルによって提供された選択肢ではない」という点です。それらの選択肢は、自ら勝ち取ったものではなく、外部環境により「与えられた」選択肢です。
そのように考えると、「自由」や「自分自身の裁量」を重視したいNTさんの考えとは、そぐわないのではないでしょうか。
自分自身の人生やキャリアを、自分自身の自由裁量によってできる限りコントロールしたい、という要望があるにもかかわらず、選択肢が外部環境次第では矛盾が生じてしまいます。
繰り返しですが、そういった生き方や選択肢を否定するわけではありません。そうではないのですが、NTさんが目指そうと思っている方向性とは異なるのではないか、というように見受けられます。
仮にNTさんの状況が現在とは異なり、例えば「料理人としてやっています。ニセコや熊本、海外のようなチャンスがあり、好景気な場所に移動しようと思います」ならば話は別です。
その場合は料理という一貫した軸があり、場所を変えるだけだからです。場所を変えるだけですから、一貫性も担保できますし、むしろ幅が広がる可能性すらあるわけです。
しかしながら、現在のNTさんの状況を考えると、「現在お持ちのスキルや経験と関係ないけれども、好景気そうなところに行ってみる」という状態であり、そこには一貫性はないように思われます。
人生やキャリアにおいては、過去をいったん否定してみることも、もちろん大切なのですが、現在の裏返しが幸せとは限りません。
自分は何をしたいのか、どんな人生を歩みたいのか、などをもっと深く考えたほうがよいでしょう。
人生やキャリアは長期戦ですから、「今」だけを見て判断し、行動しないほうがよいように思います。
キチンと将来を見据え、過去の自分と今の自分を冷静に分析したうえで、今やるべきことを考えてみましょう。
将来の自分は、今日の自分次第
人生もキャリアも積み重ねです。昨日と今日の自分の積み重ねが、明日につながるのです。その延長線上に、どんな将来の自分が見えるかは今日の自分次第なのです。
そのような前提と考え方で、NTさんが現状のみに振り回されることなく、長期的な目線で、ご自身にとってベストな選択肢と行動を取れるであろうことを応援しております。
(安井 元康 : 『非学歴エリート』著者)