2月24日(日本時間2月25日未明)、注目の海外GIサウジカップ(ダート1800m)をメインに据えた国際招待競走『サウジカップデー』が、サウジアラビアの首都リヤド郊外にあるキングアブドゥルアジーズ競馬場で開催される。

 今年で5回目の開催と歴史は浅いものの、先述したメインのサウジカップは総額2000万ドル(約30億円。※1ドル=150円で換算。以下同)という破格の高額賞金レースで各国から実力馬が集結。すでに世界中にすっかり浸透している一戦だ。

 昨年は、日本調教馬のパンサラッサが逃げ切り勝ち。創設4年目にして、早くも日本に賜杯がもたらされた。

 そして今年も、昨年度のJRA賞最優秀ダートホースに輝いたレモンポップ(牡6歳)をはじめ、ウシュバテソーロ(牡7歳)、デルマソトガケ(牡4歳)、クラウンプライド(牡5歳)、メイショウハリオ(牡7歳)と、日本ダート界のトップホース5頭が参戦。さらに今年から日本でも馬券が発売されることとなり、俄然注目度は増している。


サウジカップに挑むレモンポップ。photo by Eiichi Yamane/AFLO

 振り返れば、昨年度JRA賞の最優秀ダートホース部門においては、GIフェブラリーS(東京・ダート1600m)とGIチャンピオンズC(中京・ダート1800m)を制したレモンポップと、海外GIのドバイワールドカップ(UAE・ダート2000m)で日本調教馬として2頭目の戴冠を遂げたウシュバテソーロとで、記者投票の票が割れた。

 実は、意外にもこの2頭の直接対決はこれまでに一度もない。それだけに、どちらに投票すべきか、頭を悩ませた記者も多かったようだ。その雌雄を決する舞台がいよいよ訪れるのである。

 日本では先週、「ダート王決定戦」となるGIフェブラリーS(2月18日)が行なわれた。結果は、11番人気のペプチドナイル(牡6歳)が低評価を覆して勝利を飾った。

 ただ、そうした波乱の結果は、ある程度事前に想定されてはいた。地方在籍馬を含めて地方交流GIの勝ち馬が4頭、芝GI馬も2頭いたとはいえ、今回のサウジカップデーに出走するメンバーは不在。多くの馬に勝つチャンスが広がり、「ダート王決定戦」と言うにはかなりの手薄感があったことが否めなかったからだ。

 結局、こうした状況に至ったのは、ダートの一線級の視線、目標が完全に海外へ向いてしまった弊害とも言えよう。

 その理由はいくつかある。

 まずは冒頭でも触れたように、賞金的な魅力だ。今回のサウジカップなら、1着賞金が1000万ドル(約15億円)。2着でも350万ドル(約5億2500万円)、3着でも200万ドル(約3億円)、5着でも100万ドル(約1億5000万円)。対して、フェブラリーSの1着賞金は1億2000万円である。

 しかも、サウジカップは高額な出馬登録料の必要がない。輸送費もサウジアラビア側の負担による招待制だ。

 また、3月に控える海外GIドバイワールドカップも、出馬登録料こそ発生するが、招待競走。1着賞金は696万ドル(約10億円)だ。

 毎年秋に開催される海外GI、アメリカのブリーダーズカップクラシック(アメリカ・ダート2000m)にしても、1着賞金は312万ドル(約4億6000万円)。あまり知られていないが、こちらも主催者が最低約600万円の遠征費用を補助してくれる。

 こうした賞金差だけでも、実績のある馬が海外へ目を向ける理由としては十分だ。

 加えて、かつては日本調教馬にとって「遠いもの」と思われていた海外のダートGIの勲章が、手の届く位置にあることを実感できるようになったことも大きい。

 近年、世界各地での日本調教馬の好走が目立つようになり、昨年に至っては、サウジカップでパンサラッサが勝利。ドバイワールドカップではウシュバテソーロが鮮やかな追い込み勝ちを決めた。

 さらに、地方所属馬のマンダリンヒーローがアメリカのGIサンタアニタダービー(アメリカ・ダート1800m)でハナ差の2着と奮闘。同じくアメリカのブリーダーズカップクラシックではデルマソトガケが2着、ウシュバテソーロが5着と健闘した。

 こうして勝利の現実味が増せば、一線級の馬たちの海外志向が高まるのは当然か。

 そのうえ、サウジアラビア、ドバイといった中東圏での大レースでは、ダートの本場であるアメリカの超一線級の参戦が最近は少なくなりつつある。となれば、勝つチャンスはより大きくなる。海外競馬メディアの記者が語る。

「サウジカップでも、今はサウジアラビアの王族などが現役で権利を買ったアメリカの一流馬たちが参戦していますが、それ以外は中東への遠征を避ける傾向が見られます。そうなると今後、より日本調教馬の独壇場になっていくことは十分考えられますし、もしかするとサウジ王族からトレードのオファーが出てきても不思議ではありません」

 こうした傾向から、日本ダート界のトップクラスの海外志向はより加速していくだろう。つまり今後、日本の真の「ダート王決定戦」は海外が舞台になる、と言ってもいいかもしれない。

 さて、事実上の「日本のダート王決定戦」といった様相のある今回のサウジカップだが、今年から大きな変化がある。昨年までは粉砕した松のチップが混ぜられたダートだったが、今年はシーズン開幕前の昨年9月に混ぜ物のない砂に入れ替えられたのである。

 ウシュバテソーロの手綱を取る川田将雅騎手は事前の馬場入りを経て、こう語った。

「昨年よりちゃんとしたダートになって、パワーの要る馬場になったと思います」

 続けて川田騎手は、ウシュバテソーロにとって勝敗のカギとなるポイントについて触れた。

「ウシュバテソーロは今まで2ターンのコースで、最初の1〜2コーナーを過ぎて向こう正面に入ってから『そろそろいくか』という競馬をしてきた。それが今回は、そうではなくてワンターン。それをウシュバテソーロがどう理解するか。気持ちが大事な馬なので、彼自身が走る気持ちを出してくれるかどうか」

 他の日本調教馬の状況はどうか。デルマソトガケは輸送中に顔面を負傷してしまったという。

「誰も見ていないので断言できないけど、同じストールの馬に噛まれてしまったのか......」とは、同馬を管理する音無秀孝調教師。幸いにして腫れは引いたが、「精神的に馬を怖がるようになっていなければいいが......」と不安をのぞかせた。

 また、本来は暮れの地方交流GI東京大賞典(12月29日/大井・ダート2000m)を使ってここに臨むプランだったが、爪の不安から昨秋のブリーダーズカップクラシック以来のぶっつけとなった。そのブリーダーズカップクラシックも休み明けで「3〜4コーナーの反応が鈍かった」というだけに、懸念は増している。

 レモンポップはいい状態を保っているが、陣営も認めるように1800mという距離が不安要素。さらに今回は、アメリカ勢に出脚の速い馬がそろった。それらに執拗にマークされる展開になると厳しいか。

 一方、そのアメリカ勢のなかで有力なホワイトアバリオ(牡5歳)は万全の態勢。「(勝利したとはいえ)ブリーダーズカップクラシックの前は100%の出来ではなかった。今のほうが100%に近い」と、リチャード・ダトロー調教師も太鼓判を押す。

 はたして、今年はどんな結末が待っているのか。日本調教馬が再び頂点に立ち、日本だけでなく、世界ナンバーワンのダート王として君臨することができるのか、注目である。