J1リーグ2024シーズン
宇佐美貴史インタビュー(ガンバ大阪/FW)


今季もキャプテンに任命された宇佐美貴史。photo by Takamura Misa

 目に焼きついて離れない光景がある。昨年の12月3日のJ1リーグ最終戦後に行なわれたパナソニックスタジアム吹田での、ガンバ大阪のホーム最終戦セレモニーだ。

 J1王者に輝いたヴィッセル神戸を相手に敗戦を喫し、7連敗。16位という不名誉な成績でシーズンを締め括った直後、チームを代表して挨拶に立ったキャプテン・宇佐美貴史に強烈なブーイングが浴びせられた。

 過去の同セレモニーを振り返っても、監督にブーイングが向けられるシーンは何度か見たことがあったものの、キャプテンに、しかも話している間中ずっと、という状況を目の当たりにしたのは初めてのこと。

 宇佐美と言えば、言わずと知れたガンバの顔。元サポーター出身というバックグラウンドも重なって、サポーターにとっては、他の選手とは一線を画した特別な存在だ。ましてや、昨年はレジェンド・遠藤保仁の代名詞だった背番号「7」を背負い、キャリア初のキャプテンに就任したことからも、例年にも増して彼への期待が膨らんだシーズンだったと言っていい。

 そんな宇佐美に向けられた"初めて"を見ながら、改めて宇佐美への期待の大きさと彼が担う重責に触れた気がした。

 だが、宇佐美自身は意外にもあっけらかんと、その時のことを振り返った。年が明けて行なわれた、今年1月の沖縄キャンプ時だ。

「成績を含めてブーイングをされて然るべき結果だと思っていたし、サポーターだってブーイングをしたくてしているわけではないわけで、そうなる状況を作り出したのは僕らやから。そりゃそうなるよね、と思いながら彼らの声を聞いていました。

 それに、ヤットさん(遠藤)の7番を受け継いでキャプテンになった時から、いいことも悪いことも全部自分が引き受けようと思っていたので。僕の場合、自分が歩んできたキャリアを考えても、より期待が大きくなるのは覚悟したうえで、それも自分の成長の肥やしにすればいいと思っていましたしね。見方を変えれば、それは僕にしかできないことだからこそ、シーズンを通してその責任を担っていこうと考えていました」

 その重責に苦しむことはなかったですか? と尋ねると、「そこに苦しむようなら、最初から引き受けてない」と宇佐美。「今年ももし託されるのなら、もちろん引き受けますよ」と言葉を続けた。

「今年の始動日翌日にダニ(ダニエル・ポヤトス監督)からキャプテンについての話を振られた時も、仮に今年、キャプテンでなくなれば、より自分にフォーカスしてシーズンを過ごせるというポジティブな面があるということ。逆に引き続きキャプテンをするとなれば、昨年の経験をもとに、確実にいいキャプテンになれる自信はあると伝えました。

 昨年、キャプテンとしてできた部分、できなかった部分を洗い出していたなかで、単純にこういう働きかけをすべきだった、もっとこうすればよかったと思った部分を実行に移せば、それは今年のチームのプラスに働くと思うので。まぁ、キャプテンであろうとなかろうと自分のやるべきこと、責任は変わらないので。あとの決断はダニに任せます」

 そして今年も、宇佐美はキャプテンを預かることになった。ポヤトス監督によれば、今年からトップチームコーチに就任したレジェンド・遠藤にも相談して決めたとのこと。

「(宇佐美)貴史はJリーグの顔とも言える選手のひとり。その彼がチームの顔としてベストなバージョンを取り戻すことは、ガンバの進化につながると考えています」(ポヤトス監督)

 それを受けて、宇佐美も昨シーズンの自分が"できなかったこと"を実行に移すことを意識しながらシーズンを進んできたという。

「自分が背負わなければいけない部分はもちろんあると思いますが、すべてを背負おうとはしていません。やれていない事実に自己嫌悪に陥ることなく、周りに任せられるようになったことで、自分ができることが増えている気もしますしね。

 もちろん、公式戦が始まればまたチームの雰囲気は変わってくるとは思います。でもJリーグのタイトル経験もあるシン(中谷進之介)や(ファン・)アラーノといった信頼できるふたりが副キャプテンでいてくれるので。去年以上に自分が決断することと、周りに託す部分を使い分けながら、自分らしい姿でキャプテンをしていこうと思っています」

 チームとしても、引き続きポヤトス監督が指揮を取ることの利を生かしながら、開幕に向かえているようだ。

「新加入選手を含め、プレーヤーとしてのキャラクター、人間的なキャラクターが、ダニのサッカーでうまく融合しそうな気はしているし、この先も、その融合を意識しながら、自分のよさをより際立たせていくことができれば、単純に去年以上の姿が見せられるんじゃないか、という期待はあります。

 また、変な言い方ですけど、昨年の戦いを通して、自分たちは強くない、このままじゃ勝てない、という現実を突きつけられたことで、誰もが今年は必ずプラスアルファの部分を積み上げないとダメだと危機感を持っているのも、今後の強みになっていきそうな気もしています。

 プレシーズンの時間も、常に『この部分は公式戦ではきっと通用しない。もっと詰めよう』的な会話をしながら、各々がプラスアルファを求めて取り組めていますしね。それが、いい雰囲気にもつながっているのを感じます」

 宇佐美が、今年のチームが備えなければいけない力だと強調するのは"アドリブ力"。それを各々が試合のなかで、勇気を持って表現できるチームになりたいと言葉を続ける。

「昨年は、自分たちの策が読まれたり、相手選手がひとりでも機転を効かせてポジションを変えてきたら、すぐに手詰まりになって、自分たちの流れを失ってしまうということが多かった。これは、ダニのサッカーをまだまだものにできていなかったからでもあったというか。

 理想的なビルドアップをして、ゴール前までスムーズにボールが運べている時は追い風が吹くけど、少しボールが回らなくなっただけで、『うまくいってない』とか『ハメられてしまっている』という感覚になりすぎて、ものすごい逆風が吹いているような錯覚に陥って自滅していくことも多かった。そういう時に、自分たちで流れを変えられる"アドリブ力"は圧倒的に足りていない部分だったので。

 監督が策を変えるのを待つばかりではなく、ピッチに立っている選手が流れを感じて、それぞれの責任で『うまくいっていない=そのままやっていてもダメだ』と理解して、チームに変化を与えられるようにならなければいけない。そうやって、誰かが咄嗟にアドリブで与えてくれた変化を全員が感じて、自分の動きを変えることも必要ですしね。ダニのサッカーを結果につなげるためにはなおさら、そういう意識が大事になると思っています」

 また、クラブが設定した今シーズンの目標「J1リーグ7位以上」についても、長きにわたってこのチームに在籍してきた宇佐美だからこそ、あえて厳しい言葉で現実に目を向けた。

「タイトルを獲って当たり前のクラブと言われた姿は、悔しいですけど、今のガンバにはない。残留争いに巻き込まれている近年の成績を見ても、軽々しくタイトルを口にすべきではないと思う。もちろんこれは、だから上を目指さないということでは決してないですが、自分らが置かれている現状に目を背けず、謙虚にサッカーと向き合って、1試合、1試合戦っていくことなしに結果は得られない。

 僕らは去年の成績で言うところの16位から始まるチーム。その現実をしっかり受け止めて、新シーズンに臨むべきやし、逆に弱者として、怖いものなしで強者に立ち向かっていけばいいと思っています」

 自身のコンディションはいい。シーズンオフはもちろん、始動後も毎日、自主トレと向き合いながら体を作り上げてきたなかで、例年以上に体の軽さも感じているという。

「シーズン前に3kg落としていた体重から、今はさらに1kg落ちて、去年からトータル4kg絞ったんですけど、その体とボールとのフィーリングもいいし、気持ちよく走れてる感もすごくあります。といっても、開幕前最後の練習試合ではシュートを6〜7本、外しまくったんですけど(苦笑)。

 ただ、プレシーズンは悪いところがたくさん出たほうがいいと思っているし、それだけ打てていること自体はすごくポジティブなので。今の自分が公式戦のなかでどんなパフォーマンスができるかを楽しみに思えている時点で、すごくいいなと思ってます」

 個人の目標は昨年と変わらず"ふた桁(ゴール)"。ピッチ上でその数字を残すことが、チームを牽引するための一番の力になるという自覚のもと、「決定力というより、決定率を上げたい」と意気込む。

「昨年は1試合で3回ポストに当ててしまうなど、『いいシュートは飛んでいるのに入らないな』『惜しいシーンが多いよな』っていうシーンが多かったけど、ある意味それは、質のいいシュートや速いシュートが飛んでいた証拠というか。仮に弾道がヘナヘナなシュートを打っていたら、そういう印象は自分に残っていないはずなので。

 つまり、質のいいシュート、速いシュートは飛んでいたけど、最後のところのアイデアや落ち着き、精度の部分で、あと少しが足りなかったから決まらなかったということ。今年はそれをしっかり枠に決めることをより意識していきたい」

 自身がピッチで輝き、"ゴール"で牽引する試合が増えることが、ガンバ復活の狼煙になるという自覚のもとに。

宇佐美貴史(うさみ・たかし)
1992年5月6日生まれ。京都府出身。ガンバ大阪所属のFW。ガンバのアカデミーで育ち、高校2年生の時(2009年)にトップチームへ昇格。2011年夏にはドイツの名門、バイエルン・ミュンヘンに移籍。翌シーズンはホッフェンハイムでプレーし、2013年にガンバへ復帰。2014年シーズンには、リーグ、カップ、天皇杯と三冠達成に貢献した。その後、再び海外へ。アウクスブルク、デュッセルドルフでプレーし、2019年に再びガンバへ復帰。以降、チームの「顔」として奮闘している。