ドイツ・ブンデスリーガのレバークーゼンが、今季公式戦32戦無敗(第22節終了時)で、ブンデスリーガの連続無敗記録を更新中だ。第21節ではリーグ11連覇中の王者バイエルンに3−0と完勝した。監督はリバプールやレアル・マドリードでプレーしたスペイン人の名ボランチ、シャビ・アロンソ。一体どんなサッカーで強さを発揮しているのか。

【攻撃は後方で相手をわざと引きつける「擬似カウンター」】

 バイエルンのブンデスリーガ12連覇を阻むことになりそうなレバークーゼン。なぜ、こんなに強いのかと言えば、シャビ・アロンソ監督の手腕が大きい。


レバークーゼンを率いるシャビ・アロンソ監督 photo by Getty Images

 システムは3−4−3。攻撃の特徴は後方での引きつけからの、いわゆる「擬似カウンター」的な攻め込みだ。

 3バックと2ボランチの5人の距離が近い。この5人が小さく集まることで相手のボランチ、またはサイドハーフを釣りだし、前方の5人に縦パスを受けるスペースを創出している。ボランチが釣りだされれば、ボランチの背後のスペースにシャドーが下りて縦パスを引き出す。ボランチではなくサイドハーフが釣りだされたら、ウイングバックへ展開する。

 後方で小さくまとまってキープし、そこへ相手を吸い寄せてひっくり返す手法はプレミアリーグのブライトンでも使われている。また、アンジェ・ポステコグルー監督率いるトッテナムも、かつて横浜F・マリノスで導入した「偽サイドバック」を使って、後方に5人のビルドアップ隊を形成している。

 こうしたやり方は、今季躍進のチームに共通する特徴と言えるかもしれない。

【常勝のビッグクラブと共通する戦い方】

 守備は前線からのハイプレスが基調。レバークーゼンは1トップ2シャドーの3人がペナルティーエリア幅を担当してプレスの最前線となっている。ウイングが左右に開いている3トップや2トップと比べると、中央部の人数が多いので明らかに寄せていく時間が短縮されていて、高い位置からのプレスが可能になっている。

 相手がサイドへボールを逃がしてもウイングバックが素早く距離を詰め、3バックはラインコントロールでコンパクトな陣形を保つ。つまり、前線のプレスに始まって、そこから間断なくボールに襲い掛かる守備ができている。


レバークーゼンの今季主要フォーメーション

 攻撃のスターはセンターフォワードのビクター・ボニフェイス(※現在負傷離脱中)、主に左のシャドーを担当するフロリアン・ビルツ、右側のヨナス・ホフマン。

 ボニフェイスはパワフルで技術も高く、チームの得点源。ビルツは技術、クイックネス、インテリジェンスを兼ね備えた逸材。近い将来、世界的なスーパースターになる可能性を持っている。ホフマンもビルツと似た、うまくて賢いアタッカーだ。

 左ウイングバックのアレハンドロ・グリマルド、右のジェレミー・フリンポンも豊富な運動量とスピードを生かした攻守で注目される。アーセナルから加入したグラニト・ジャカはボランチとして攻守に安定感をもたらした。

 戦術に適した編成のうまさは躍進の原動力だが、そもそもの戦術が他と一線を画していて、そこはやはりシャビ・アロンソ監督の功績が大きい。

 巧みなビルドアップとハイプレスという攻守の循環は、常勝のビッグクラブに共通する戦法である。

 マンチェスター・シティ、バルセロナ、パリ・サンジェルマン、そしてバイエルンと各国のチャンピオンはおよそこの戦法でプレーしているわけだが、まだリーグ優勝の経験もないレバークーゼンがビッグクラブ的な戦い方で成果をあげ、無敗で首位を走っている。

 堅守速攻でビッグクラブに対抗するのではなく、もはや格上として振る舞っているのだ。

【バイエルンとの天王山に完勝】

 第21節のバイエルンとの天王山(2月10日)にも3−0と完勝だった。

 バイエルンのトーマス・トゥヘル監督は、レバークーゼンとシステムを合わせて3−4−3をぶつけている。1対1にして、個の強さで潰してしまうつもりだったのだろう。

 ところが、この作戦は完全に裏目だった。シャビ・アロンソ監督はおそらくバイエルンの対策を予測していたのだろう。いつもはボールと共に主導権を握るのに、この試合では前線のプレス位置を下げてバイエルンにボールを持たせていた。

 システムを噛み合わせてフィジカルで押しきり、ショートカウンターを繰り出すつもりのバイエルンとしては、やや意表を突かれたに違いない。そして、ボールを持たされたバイエルンは、目論見とは反対に自分たちのビルドアップをレバークーゼンにことごとく阻止され、カウンターを浴び続けるはめになった。

 バイエルンの組み立てはレバークーゼンと違って、選手が散開していた。結果的に各選手が孤立してボールを失っている。レバークーゼンのように短い距離感でパスを回せば、相手に寄せきられる前にボールを逃がせるが、バイエルンの距離の長いパスはボールの移動中に走力で詰められてしまう。

 システムは同じでも運用の練度に大きな差があり、それを露呈させるためにシャビ・アロンソ監督はあえてボールを持たせたと想像できる。

 監督経験がまだ浅いシャビ・アロンソだが、百戦錬磨のトゥヘルを手玉にとった勝利だった。2−0としてからは5−4−1の撤退守備でバイエルンの攻撃を手詰まりにさせ、アディショナルタイムにはカウンターからダメ押しの3点目を奪っている。

【シャビ・アロンソはすでに大物監督の風格】

 監督就任は昨季途中。比較的短期間で、練度の高い戦い方を仕込めた手腕は図抜けている。バイエルン戦のように勝負どころで戦法を微調整できる柔軟性、相手の出方を読みきった勘の良さ。リバプールの次期監督候補の噂もあるとおり、すでに大物監督の風格すら漂ってきた。

 短い距離でのパスワークで相手を釣りだす戦い方は、逆に相手のプレスに呑み込まれるリスクがある。実際、DFがボールを奪われて決定機を作られる場面もあるのだが、失点はダントツで少ない(※15失点。次点はバイエルンの25失点/第22節終了時)。

 リスクはある、ただしそれが弱点にならないような技術水準を保っている。ワンタッチでコントロールし、相手の圧力を受けにくい体の向きを作るなど、パスの受け渡しのディテールがしっかり詰められていて、これは名ボランチだったシャビ・アロンソならではの指導の成果なのかもしれない。

 ビッグクラブとは言えないレバークーゼンだが、ビッグクラブ的な戦術を採用し、なおかつその練度でビッグクラブを凌駕。向かうところ敵なしの状態にある。