湘南ベルマーレ・山口智監督「たくさんの批判を受けることもあった」 7季連続J1も「残留への危機感でスイッチが入るようではダメ」
湘南ベルマーレ 山口智監督インタビュー 前編
湘南ベルマーレの山口智監督にインタビュー。残留争いを凌ぎ続けクラブは7季連続のJ1を迎えるが、監督はそうした話題が悔しいという。「もっと上を目指していきたい」と、昨季の振り返りと今季の意気込みを語った。
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湘南ベルマーレ・山口智監督に今季の意気込みを聞いた(写真提供:湘南ベルマーレ)
――昨季は厳しい残留争いに苦しみながらも15位でシーズンを終えました。開幕戦で大勝を収めたものの、そこから徐々に調子を落とし、第7節から第21節まで勝ち星から遠ざかりました。この4月から7月前半までの苦しい期間を山口智監督は改めてどう振り返りますか?
開幕戦は本当に想定していた以上のものを出してくれて、結果も出してくれました。ただ、第2、3節で勝ちきれず、結果的にはスタートダッシュに失敗しました。4〜7月にかけて勝てなかったのは、そのスタートダッシュの失敗が響いてしまったと思います。
正直なところ、結果が出ずに不安が募り、自分たちへの自信であったり、やっていることへの思いきりが失われて、現実逃避というか、少し逃げたい感じが出てしまったと。もちろん、戦い方として僕のマネジメント、戦術が良くなかったと捉えています。
――2022年の一昨季はシーズン39失点で、守備の安定感が湘南のベースとしてあったと思います。結果的に昨季はそのベースが揺らいだ序盤から中盤でした。前から積極的にプレスに出ていく守備は、先ほどおっしゃった自信、思いきりが失われると、うまくはまらなかったり、外されたりしたこともあったのでしょうか。
前から行くのを前提にやっていましたし、そのなかで絶対的な決まりごとがあって、それはチームで共有していました。でも焦りであったり、自信のなさで、綻びが出てしまったところはありました。
もちろん、相手が対策をしてきたり、予想外のことが起こったり、結果が出なくてネガティブになったのもあったと思います。選手たちも、決まりごとはマストでもっとやってもらわなければいけない部分はありました。それでも自分たちのやるべきことを徹底する。そこは本当にみんなが一生懸命やってくれていたし、僕自身もそういう思いでいました。
ただ、振り返った時にもっとできることがあったと思います。単純なことを疎かにしないとか。根底のところを僕自身がもっと追求していかなければいけないのは、反省としてあります。
【夏のミニキャンプが大きなポイントだった】――序盤から苦しい時期が続きましたが、8月から徐々にチーム状況は上向いていきます。7月の中断期間がチームを立て直すいいきっかけになりましたか?
おっしゃるとおり、中断期間にミニキャンプをやらせてもらって、そこで名塚善寛さんにトップチームのコーチに来てもらったことで僕もちょっと吹っきれたところがありました。
キャンプでそれまでを振り返った時に、やっているつもりでも足りないところが明確にあって、そこをキャンプで徹底できました。あるものを再確認して、そこを追求して、思い出させることができたと思います。シーズンのなかでこのキャンプは非常に大きなポイントでした。
――6月にMF田中聡選手がレンタルバック、7月にキム・ミンテ選手を鹿島アントラーズから期限付き移籍で獲得しました。守備においてふたりが加わったのも非常に大きかったのではないでしょうか?
もちろん、彼らの加入による刺激も必要でした。また、彼らも試合に出られていなかったので、移籍することで刺激が必要だったと思います。既存の選手たちは彼らから刺激を受けて、もう一回やらないといけない、負けたくないという気持ちは間違いなくあったでしょう。
僕自身ももう一回競争というか、選手と同じように勝負をしなければいけないと、スイッチを入れ直しました。そういった意味で彼らの加入は本当に大きかったと思います。
――中断期間明けの第22節サンフレッチェ広島戦でシーズン初の失点ゼロでの勝利を収めました。キム・ミンテ選手が加入後初出場した試合でもありましたが、この勝利はチームが上向いていく上でいい勝利でしたか?
そうですね。彼のリーダーシップは大きなものがありましたし、その前には田中聡がいて、軸がふたり変わったことで良い方向に導いてくれたのも大きかったと思います。一方で課題のあった試合でもありました。それでも最後、全員でしのげたのは、キャンプでやってきたことがベースにありました。
それを出せて勝ちきれたのは、チームとして「もう一回ここからやっていこう」という、いいきっかけになった試合だったと思います。
【残留への危機感でスイッチが入るようではダメ】――中断明け以降、失点数が減って、第27節北海道コンサドーレ札幌戦に勝利してから8試合で5勝を挙げ、最終的に15位に順位を上げてJ1残留となりました。この終盤のチーム状況は、どのように振り返りますか?
結果が出ていない時期と比べれば、勝てるようになってきたので、手応えを感じられていました。また、残留しなければいけないという明確な危機感が、自分たちのなかでポジティブなものに変わっていったと思います。ただ、本来それではダメです。
そこでスイッチが入るのは、昨季だけではなくて、一昨季もそうでした。それは僕の課題です。シーズンを通して安定した戦いをさせるのは、今年やらなければいけないことだと思っています。
――昨季、シーズン中の会見などで、最下位に沈むチーム状況からチームとしてのやり方を変えたほうがいいのかと、葛藤された時期もありました。それでも最後まで山口監督のやり方を貫いたのは、それまでやってきたことに手応えであったり、自信を持って臨めていたからでしょうか?
そうですね。手応えはずっとありました。物事の「1」が徹底されれば、おのずと「2」も出てくると思います。だからいきなりその「1」を捨てて、「2」は出てこないというのが自分の考え方としてありました。
ただ、そこから目を背けたい状況でもありました。やり方を変えて発見できることもあったと思います。でも僕が選んだのは、今までやってきた「1」の徹底です。そこから「2」「3」と派生するものの大きさには絶対的な自信がありましたし、そこは選手にも自信を持ってほしいと思っていました。
もちろん、結果が出ないことで悩んでしまうのは理解できます。そこは僕の責任だと思うので、そこをうまく勝ちにつなげられるようにしていけば、おのずと自信を持ってくれると。だからやり方は変えたくないというか、変える必要はないと思っていました。
【7季連続のJ1という話題が悔しい】――改めて、一時は15試合も勝ち星から遠ざかる苦しいなかから立ち直って、よく残留できたシーズンだったと思います。
本当にしんどかったです。たくさんの批判を受けることもありました。でもそこから逃げるつもりはなかったですし、シーズンを通してそういうこととどう向き合うかだと思っていました。選手は本当に一生懸命やってくれていたし、自分のところで流れを止める必要があったなと、振り返って改めて感じています。
決してよくないことばかりではなかったんですが、やっぱり結果というものは本当に大事で、結果を出すことが僕らの目的でもあるので、その一番大事なところが抜けていたシーズンだったと思います。
――今季は7季連続でJ1でのシーズンになります。湘南のJ2降格とJ1昇格を繰り返してきた歴史があるなかで、これだけJ1に定着できていることを監督としてはどのように感じていますか?
難しいですね。すごく悔しいですよ。湘南以外のクラブであれば、「何年J1に残留できている」という話題にはならないと思います。それだけギリギリのところで残り続けている現状には、本当に力の差を感じています。
結果としてJ1で戦えるのはこの上ないものだと思っています。だからこそ逃げずに立ち向かって、結果を出してなんとか違うところへ目を向けられるようにしていきたい。何年残り続ける、ではなく、やるからにはもっと上を目指していきたい思いが強いですね。
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山口 智
やまぐち・さとし/1978年4月17日生まれ。高知県出身。選手時代はJリーグベストイレブン3回受賞の名DF。ジェフユナイテッド市原ユース時代の1996年にJリーグデビュー。2001年に移籍したガンバ大阪では、数多くのタイトル獲得に貢献した。2012年からジェフユナイテッド千葉、2015年は京都サンガF.C.で1シーズンプレーし引退。Jリーグ通算581試合出場51得点。日本代表では国際Aマッチ2試合出場。引退後はガンバ大阪のコーチを経て、2021年から湘南ベルマーレのトップチームコーチに就任。同年9月から監督を務めている。