歳を重ねるごとに、体力とともに失われる、やる気や気力。若いときのようにがんばれない自分にがっかりする人も多いかもしれません。最新エッセイ『歳をとるのはこわいこと? 60歳、今までとは違うメモリのものさしを持つ』(文藝春秋刊)を上梓した編集者・ライターの一田憲子さんは、「無理をしない」暮らしにシフトすることで、体も心もラクになったそう。日ごろ心がけていることについてインタビューしました。

難易度が高い仕事は、朝の元気なうちに片づける

――以前は夜型だったと聞きますが、今は6時半に起きて、朝に仕事のウエイトを置くようになったのだとか。

【写真】掃除をラクにする、コードレスで軽い「マキタ」の掃除機

一田さん(以下、一田):若いときは夜型で、日中は「忙しい、忙しい」って口にしながらも、集中して原稿を書き始めるのは夕飯を食べてドラマを観終わった11時くらいから。そこからやっと仕事の本腰を入れる感じでした。

でも、40歳を過ぎた頃から夜になると気力も体力なくなり、夕飯後は眠くなることが増えてきたんです。1日のうち机の前にいる時間は長いけれど、実は集中してない時間が多かったです。今は、そんな曖昧な時間をすっぱり削って、夜は早く寝て、朝は早起きして仕事をこなしています。

――誰もが40〜50代を過ぎた頃から、若い頃のようにバリバリできなくなってきます。やる気も集中力も落ちてきますよね。

一田:頭がクリアになっている朝はパフォーマンスが高いので、原稿書きのような頭を使う仕事は朝に、午後になったらやる気がなくなるので難易度が高くない仕事は午後に、といった具合です。どうしてもやる気のスイッチが入らないときは、キッチンに立って別の作業をして気分転換をすることもありますよ。

――必然的にこなせる量も減ってきますよね。

一田:私の場合、1日にこなせる仕事量はだいたい把握できているので、いちばんやる気がキープできる午前中に、その日のノルマをやり終えることを目標にしています。ノルマをこなせるのは、若いときよりも仕事量を少し減らしていることもあるのですが。

「がんばってやる」のではなく「無理しなくても続く」方法にシフト

――一田さんは、ご著書でご自身のことを「気にしい」の「優等生タイプ」と評していますが、そういう方ほどできなくなることが増えていくショックが大きいものだと思いますが、一田さんはどうやって心の折り合いをつけていったのでしょうか?

一田:やれなかったときのがっかり感や、「よしやろう!」と思ったけど3日坊主で終わる。誰もがそんな「ダメじゃん、自分!」と思う機会が増えてくるんじゃないでしょうか。私もしょっちゅう、そんな自分がイヤになるんですけど…。

そんなときは、「じゃあ、どうしたいいの?」と、自分に合う方法を片っ端から試しています。仕事時間をパフォーマンス力の高い朝型にシフトしたのもその一例です。するとね、努力しないでもできるようになるんですよ。

――がんばらなくてもできる仕組みをつくる、ですね。

一田:できる方法って意外にあるんですよ。がんばろうって思ってやるからつらいんです。

しんどくならないラクな方法をトライ&エラーで研究・発明

――家事をラクにするために工夫していることはありますか?

一田:気力も体力もあった若い頃のような時間のかけ方は「もうしんどいな」って思いますね。だから自分のなかではいろいろ実験しています。たとえば、掃除の方法もこれまでにいろいろ変えてきているんです。以前は1日30分だけ掃除をする「1日30分掃除」を実践していたけれど、それも面倒くさくなって、今は起きたら拭き掃除をする、がルーティン。拭く前に、机の上に出しっぱなしのものを片づけるから、部屋が1回リセットできる。

しかもポッドキャストを聞きながらやると、全然苦痛じゃない。聞くことに頭がいってるから、意識しなくても手が動く感じなんです。こんなふうに「がんばろう!」と気合を入れなくても、無理なくできる方法を発明するんです。発明のためには、研究と実験のトライ&エラーが必要ですけどね。私はしょっちゅうやり方を替えるので、本に書いたことのなかには、今はもうやってない、ってことも多いんですよ。

暮らしを小さくするのも、しんどくならないための工夫のひとつ

――今、「暮らしを小さくする」考え方が広まり、それがとても人気です。一田さんが見直した、小さな暮らしのための習慣はありますか?

一田:器が好きで、作家さんの個展に行くたびに新しいものを購入していました。若い頃は、稼いだお金で器を買い、それを使う経験を重ねる「学び」の時期だったように思います。今までそうやって続けてきた学びも、50歳を過ぎた頃から「もうそろそろよくない?」って思い始めたこともあり、買い控えるようになりましたね。これまで持っていた器は人に譲るなどしてうんと減らしました。

――お気に入りの器を厳選されたんですね。

一田:今ある少ない器を使って楽しむモードに入ってきたかなあ、とは思いますよね。これまでのようにたくさん働けないとなると収入も変わってくるから、自然と暮らしをセーブしなくちゃ…みたいな気持ちにもなります。

ただね、私はミニマリストの方のように、まったく物を増やさない決心をするとつらくなっちゃう。新しいものが入ってこないと、家の中の空気が停滞する気がするんですよ。好きなお皿を1枚買ってワクワクする気持ちはいつまでも大切にしたい。そよ風程度でいいから、暮らしのなかに新しい風を取り込むのはやっぱり必要なことだと思うんです。

――自分の心地よさを求めているなかで、一田さんの暮らしはどんどんシンプルになっている感じでしょうか?

一田:どうなんでしょうかね? できないことまで無理してやらなくなった、って感じが近いのではないでしょうか。がんばろうと思っても、「これは無理…だわ」って気づくようになりましたね。以前は手帳も財布も大きいものを使っていましたが、持ち歩くのが重いから小さくしたんです。そしたらバッグも小さくていいし、体もラク。自分の体力に合わせていたら、暮らしが自然とコンパクトになった、そういう感じですかね。